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完・全・復・活


「季水くん、大丈夫?」


 僕には、某車輪がついた靴で培ったイメージがあったし、すんなりと飛翔靴を乗りこなすことができた。そのことに朱基さんは驚いていたけど。


 ちなみに、朱基さんの弟子になったらしい咲斗も飛翔靴を僕が飛んでいる姿を観察して、何かメモした後使えるようになっていた。


 だから、運動神経抜群な季水くんならすぐに使いこなせると思ったんだけど……、使うイメージが少ない兄には難しかったようだ。


「大丈夫じゃ、お前が普通じゃよ。れいちゃんが、飛翔靴と相性が良すぎたんじゃ」


 さすがに思ってた以上に高い位置で飛ぶから、怖くてすぐに飛べなかったけど。

 それを伝えたら、すぐに朱基さんが改善版を作ったのは、すごさと驚きで空いた口が塞がらなかった。


 季水くんが飛翔靴と格闘している間、僕は朱基さんが発掘して来た、飛翔ボードにもチャレンジし、成功させている。

 前世での、板に車輪がついていた乗り物のイメージがとても役立った。やっぱり、イメージがあるって大事なんだなぁと頑張る季水くんの姿を見て、そう思った。


「すげぇ、悔しいぃ〜」


 ちなみに、飛翔ボードも僕が乗りこなす姿を見て、分析したあと、すぐに咲斗は乗れるようになっているから尚更悔しいのだろうね。


「これで、街に行けるようになるね」


 僕が発した一言で、悔しがってうずくまっていた季水くんが立ち上がる。


「ゆう、琉陽。練習するぞ」


 あ、これ。皆、飛翔靴か飛翔ボードを乗れるようにならないと僕、街に出かけられない感じ?

 ある意味焚き付けちゃったかも? と僕は思わず、苦笑いしたのだった。


 1週間くらい、鍛錬ができなかったから、休む前の半分のメニューから始めた。

 あまり体力が落ちていないことがわかり、明日から明後日にかけて元のメニューに戻していくことになった。


「ある程度、戦えるようになったら実戦をするんじゃが、ここら辺は野生の生き物がいないも同然みたいなもんじゃからのう」


 そう、そうなのだ。

 有栖家周辺には、人を襲うような生き物は存在しない。いや、正しく言うならば人を襲うはずなのに、襲わなくなったが正しいかな。

 有栖家は、代々テイマースキルを持つ家系で、自分が育てた植物を与えることで、懐柔して来た。今も彼ら専用の果樹園はあるし、関係は良好だ。

 だから、戦う必要なんてないのだ。


 ん?


「魔物ないのに、なんでここらへんに冒険者が集まってるんです? ここに来ても、魔物を狩ってお金が入らないのに……」


 首を傾げれば、朱基さんは笑って、季水くんは微笑ましいものを見るような顔をして教えてくれる。


「冒険者からすれば、有栖家は差別しなくて人気なんだよ。だから、ここを拠点にして他の領地に依頼に行く奴らが多いんだよ」


「それにだな、群れからはぶかれた魔物を保護して連れてくると、依頼料が払われるんじゃよ。そんな貴族いないからのぅ」


 そうなんだぁ、たしかに何匹か見たことがない魔物が増えていたりするなぁとは思ってたんだよね。怪我もしてたし、どうしてか不思議だった。


「怪我してた子がそうかなぁ。見かけた時に、見逃さずポーションで治療しといて良かったぁ。でも、あの子お腹が大きかったような……?」


 そう言えば、季水が食いついてきた。


「怪我しなかったか! 手負いの魔物に近づくなんて、無用心すぎる!」


「それはわかるけど……、あの子そんな力がないくらいに弱ってた。お父様が把握していると思って、言わなかったんだけど……」


 弱ってた? 季水が呟いた。

 あれ? これ、もしかして依頼でも、ここの土地でもない魔物だったり……する?


「案内しようか? 季水くん」


「そうしてくれ」


 僕はあの子のことを見かけた菜園の奥にある、小さな洞窟まで案内した。

 僕は、咲斗と手を繋ぎ、4人で中に入っていくと地面に赤ん坊が2匹生まれていた。あの子は生き絶える寸前で、思わず駆け寄った。

 抱きしめて撫でてあげると、ゆっくり手を差し出してきたから、握る。ひたすら、痛みを労るように撫で続けた。


「この子達のことは任せて。よく頑張ったね」


 そう声かけると、ゆっくり息を引き取った。


「……この世界の医療では間に合わないくらい弱ってたから、あまり人目がない方がいいと思って、言わなかったのもある。でも、悲しいね。目の前で命が尽きていくのを見るのは……」


 涙が次々と溢れ出てくる。


「……2匹は生きている。親のその子の代わりに、れいちゃんが責任を持って育ててやれ」


 僕は、小さく頷くことしか出来なかった。

 朱基さんから赤子を受け取り、軽く抱きしめる。


 きっと、どんな手を使ってもあの子は助からなかった。前世でさえも、あそこまで弱まった子は予後不良と判断されて、人を嫌う子は人目に晒さないように対応していたからわかる。


 だから、治療ができる人を呼ばなかった。


「この子は、僕の従魔として育てます」


 約束した以上、穏やかに過ごせるようにしてあげたい。



 この子達は、メイプルベアと言う魔物だ。

 名前の由来はメイプルやくだもののような甘いものが好きなことから来ている。

 2週間くらいは、ミルクで育てる。


 今、領地の森で子供を育てているリトルベアに、母乳を与えてもらうことにした。あまり気は進まないけど、咲斗がついてきたいと言ったので、朱基さんと季水くんまでついてくる大所帯で、巣まで直撃した。


「子育てお疲れ様」


 そう声をかければ、母ぐまはとことこやってきて、僕のことを抱きしめる。

 もちろん、爪が当たらないようにする、優しい気遣い付きで。


「実はね、メイプルベアの赤ちゃんが生まれてね。母親が亡くなってしまったんだ。だから、母乳をこの子達に分けて欲しいんだ」


「……」


 僕を抱きしめるのをやめ、メイプルベアの赤子を見つめる。そして、愛おしむような顔をした。


「がぁ」


 両手を僕の前に出した。

 どうやら、一緒に母乳を与えてくれるらしい。


「母乳の時間になったら連れてくるね」


 そう言えば、ふるふると首を振り、指を刺す。

 その方向は僕の菜園だった。


「僕の菜園に住むってこと?」


「がぁ」


 それはありがたい提案だけど……、ちらっと季水くんを見る。


「俺が、玲亜には伝えておく。一緒に来てもらえ。母乳を飲んでるか、否かで体の強さが変わると聞いたことがあるからな。それに、零の負担も減る。従魔を赤子から育てるのは大変だからな」


 その言葉に母ぐまは顔をあげ、いきなり動き出し、僕の目の前に自分の子を差し出した。


「……この子達も、従魔にして欲しいってこと?」


「がぁ! がぁ、がぁ!」


 なるほど。


「本来の大きさよりも、小さめにしか育たない子達だから、森で育つよりも僕の従魔にしてもらった方が安心だ。テイムしてくれるなら、母乳を一緒にあげても良いと」


 突然変異を起こした子に対して、攻撃する魔物の方が多いと聞くけど、この子が当てはまらなくて良かった。


「わかった、いいよ。この子達がもう少し大きくなったらテイムしようね」


 両手を母ぐまに対して差し出せば、その間に頭を下げてくる。僕は優しく、両手で撫でてあげた。



「なんで会話が成立してるんです?」


 咲斗が不思議がっている声がした。


「零には、生き物の声が聞こえる加護が与えられているらしいぞ。性格も温厚だし、ここの魔物達にも好かれている。だからこそ、できる芸当だな。普通だったら寝不足覚悟の子育てになる」


 空いている時間は、大体ここにいる魔物やゆうとすごしているから、会話できるのが普通じゃないってこと忘れかけてたよ。

 僕は、苦笑いを浮かべながら撫でることを要求し続ける母ぐまを撫で続けたのだった。


リメイク前は、ハッサクとサクアとの出会いが初めでしたが、リトルベアとメイプルベアの出会いのエピソードを先に追加しました。


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