相談
朱基さんは鍛錬が中止になったせいか、暇しているんだろう、よく部屋に来てくれる。なので、まず彼に相談することにした。
「……今回来てくれた三つ子たち、多才で。その才能を伸ばしたあげたいと思ったのですが、どうしたら良いと思いますか?」
本当なら、全ての子を助けてあげたい。でも、それはできない。そうなると、僕のこの考えはただの偽善なのかもしれない。
でも、前世の僕のように、お金がなくて学びたくても学べないのは悲しいことだ。前世のときにはどうしようもなくても、今の僕にはどうにかできる立場がある。
「貴族に、養子になるのが一番教育を受けられる可能性があるが、あの子たちは拒否するじゃろうな。まずは信頼を勝ち取るしかないじゃろう」
……ですよね。
なんとか、貴族に養子に行く以外に手段はないだろうか。
「……優秀な子には、補助金が出たりすればなんとかならないだろうか……」
前世では、ある試験に合格すると大学4年間分の学費が免除になり、4年間の生活費が給付される制度があった。
まあ、第一条件で免除されないと大学に通えない子でないといけなかったけども。
この世界でも特待生制度はあるものの、孤児院出身の子まで回らないのが現状みたいだし。
「……ふむ、光帝に直訴するのは無理じゃろうな」
……ですよね。
近代では学園に、こう言うのは嫌だけれども優秀な平民も通えるようになった。
その子達は、平民でも裕福な方で、大体はその子達に特待生制度が当てられてしまうのが現状ではある。これは全て、前世ように受けられる人の条件を加えなかったのが原因だ。
だけど、これ以上補助金が出るのは難しい。
「じゃが、実現できなくはないぞ。ある程度仕組みをまとめて、玲亜や季水に提案すれば、実現は可能じゃろう。奴等は民の文字普及率が芳しくないことを問題視しておる。耳を傾けてくれるじゃろう」
「具体的にどうするんじゃ?」
……具体的って言われても、僕が提案することでお家騒動になるんじゃ……?
「……お家騒動になるんじゃ? みたいな顔をしとるの。大丈夫じゃよ、零が領主になることはまずないじゃろうからな。零には、先天性の攻撃スキルや防御スキルがないから無理じゃ。そもそも、緑水の位では結界スキルを継ぐ人が領主も継ぐことは例外を除けばまずないから安心せい」
それなら、意見を言っても平気かな?
「ステータス解放を、有栖家が費用を負担して、無償化にするとか。
引退した教育者……、第一条件として人格者である人を雇い、無料でマナー、計算、文字などを教える場を数年間通い続ける場を作る。
数年間通い、学園に通うことを希望する生徒には、ある金額以下の収入の家庭の子であること、テストを制作し、目標点以上の子に給付金を出すとか。
夜間に、大人が学べる場を作る。その間、子供たちを預かる場を作る。
自習や調べ物ができる場を作る。
あとは、製作スキルの才能がある子には、工房を斡旋するくらいしか思いつかないですね……」
思いつくまま、言えば朱基さんは馬鹿にせず真剣にメモを取り、おもむろに立ち上がる。
「すぐに玲亜と話し合いしてくる」
特にコメントもなく、足早に僕の部屋から去って行ってしまった。いつもの「〜じゃ」とかの口調がなかったけど、これが素顔なのかもしれないな、と関係ないことを考えつつ、不意に眠くなったので眠ることにした。
びっくり。
気づけば、次の朝の7時になっていた。
原因はわからないけど、倒れたことがかなり負担になっていたんだなとしみじみ思った。
日課の水やりをやっていると、弱々しくノックする音がして、返事をする。
入ってきたのは、隈を作った朱基さん、お父様だった。
「昨日から、零の提案を元にどうやって実現するか考えて、今日から学校と隣接した自習場所の建設を開始することにした。教師も、昨日のうちに目処がついたからな。すぐに取り組むことになった。
夜間の学校は学校を使用するとして、その間子どもを預かる場所は自習場所の中に作ることにした。そうした方が迎えの負担がなくなるからな。
給付金に関しても、どうするのかも話し合いが済んだから、民にも説明するつもりだ。あとは、ステータスの解放のお金に関しても、予算を確保したよ。
工房の斡旋についても、今交渉中だ。でも、良い方向に進みそうだよ」
さすがです、お父様っ!
僕は思わず、拍手をした。
「まず、今できそうなのはステータス解放の資金負担ですねっ! そうすれば、あの三つ子たちも自分の才能をもっと伸ばせるはずっ!」
その一言に、お父様はにっこりと笑った。
「……その子たちが気になるんだね?」
「……はい?」
疑問系で、返事をすれば、お父さまと朱基さんは真剣な顔で見合わせて、僕の部屋から無言で去って行った。
……え? もしかして、報告するためだけに僕の部屋まで来たの? 律儀だなぁ。なんて、僕はのほほんと考えていたのだった。
朱基さんとお父様が暴走しているとは知らずに。
私は零の部屋から直行で、孤児院に来ている。もちろん、朱基さんと一緒だ。
あの子が気になる三つ子を見て見たかったのもそうだが、あまり子どもらしいわがままを言わない零の望みを叶えてあげたかった。
それは、朱基さんも同じようだった。
「突然訪問してすまない。次男が、先日来た三つ子の能力に可能性を見出してな、ステータスの解放をさせてあげたいと望んだのだ。……三つ子を教会まで連れて行っても良いだろうか?」
「は、はい。もちろんでございます」
萎縮させてしまったようだ、申し訳ないことをしたな。
「……その三つ子とやらを、呼んでもらえるかの?」
私は零が気になると言う点でもう、ステータスの解放をするに値すると思うのだが、さすが副ギルドマスター。自分の目で確かめたいようだ。
シスターは、すぐに三つ子を連れてきた。
……ふむ、なんとなく零が惹かれるのもわかるような気がするな。何よりも、この子たちは聡明な顔をしている。
貴族に養子に行かせても良いくらいには。
……まあ、この子たちの貴族不信は話を聞いているから、無理だろうが。
行かせるなら、有栖家の分家に行かせても良いかも知れないな。
「玲亜、すぐにステータスの解放に移ろう。この子たちを学園に行かせないのはもったいない気がしてならない」
朱基さんがそう言うなら、間違いないだろう。私は特に文句も言うことなく、教会に行くことを決め、頷いておく。
孤児院から教会は近い。
零が馬車に対して恐怖心を抱くようになったから、似たような経験をしているこの子たちも馬車を怖がるかも知れない。シスターの付き添いのもと、徒歩で行くことにした。
結果、零の見る目は確かであったことを証明することになった。
咲良
調合、裁縫、鑑定(先天性)、水使い(先天性)、土使い(先天性)、栽培、
咲斗
検査(先天性)、探索(先天性)、鑑定(先天性)、料理、裁縫、栽培、速読、調合、錬金術(先天性)、水使い(先天性)
咲乃
テイマー(先天性)、言霊使い(先天性)、鑑定(先天性)、料理、裁縫、調合、栽培
教会から、教えてもらえるのは領主であれどスキルの詳細までだ。
3歳で、ここまで後天性スキルを持っているのは、才能だ。間違えなく、この子たちを予定している教育だけを受けさせるのは、もったいない。
特に、咲斗。
彼には、賢者になれる可能性がある。
「……朱基さん、どうしましょうかね?」
「まずは、有栖家に住み込んで学習してもらったらどうかの? 咲斗は、儂と似たようなスキル構成じゃ。あくまでも零が優先じゃが、この子を後継者として育てたいとは思うのぅ。じゃが、いつかは貴族の養子にする必要がある。少しずつ信頼を勝ち取るしかないのぅ」
……住み込みか、季水も零も喜びそうだ。
「咲良、咲斗、咲斗。将来的には、うちの分家に養子に来てもらいたい。君らが貴族が嫌いなのは承知している。だが、君らの才能を潰したくない。まず、うちに来て、有栖家が信頼できる貴族であることを知っていってくれないか?」
貴族がつけた傷を、同じ貴族として償いたい。
「あんただけだったよ」
一番無表情だった、咲斗が言う。皆、そっくりだがそれぞれ表情違うから、誰が誰だかわかりやすい三つ子だ。
「貴族に目をつけられたおれらを、孤児院に引き取ってくれたのは。
……立場が違うのに、平等に扱ってくれる人を貴族だからって言う理由で恨み続けられないよ。だから、おれらはあんたらを貴族として見ないことにした。でも、分家だからと言って、信用できないうちは養子に行かないから。
あんたの家には行く、おれらの役割を他の子らに教えてから行くから時間が欲しい」
3歳なのに、小難しいことをいうなぁ……と感心していると横にいる朱基さんが、急に大笑いしたから、びっくりする。
「はっはっは、改めて気に入った。儂も賢者と呼ばれた時期もあった、儂の全ての知識をお前に教えよう。弟子になるか?」
「……おれは、学べればなんでもいい」
ひたすらに、表情を変えない咲斗の表情を引き出すのは私か朱基さんか、それとも……。
穏やかに笑う、我が息子の表情が頭によぎるのだった。