お弁当が、あっという間に温室へ!
鍛錬をし始めてから、なぜか4時おきになってしまった。と言っても、まだ2日しか経ってないけども。
アクセサリーケースみたいなのに、聖石をつめて真ん中にスイの卵? を配置し、それを囲うように植物置いた。
「んー、自由に植物が育てられるところが欲しいなぁ」
普段なら、季水くんに付き合って勉強しているところだけど、本来なら僕はまだ勉強しなくていいらしいし……、討伐に行っている間は授業はお休みだ。
他にすることとすれば読書か、ガーデニングか、調合するくらい。
料理がしたいから、自由に使うために野菜とかの栽培がしたいんだよね……。季節感関係なく栽培できる方法がないだろうかと考えていると、ガタンッと廊下から何かが落ちたような音がした。
ん?
僕は不思議に思って、廊下に出れば、そこには討伐に行っているはずの季水くんがいた。
もしかして、僕の呟きが廊下にいた季水くんまで届いていたとか? まさかね。
「おべんとう? 美味しかったのを早く伝えたくて、マッハで終わらせてきた。……お礼がしたくてここにきたんだが、そうか。温室か、兄に任せておけ!」
一方的にそう告げて、止める間もないくらいの速さでどこかに消えていってしまった。
……お弁当一つのお礼が温室?! 前世の記憶がなかったら、とんだわがままな弟に仕上がってしまうよ?! 季水くん!
「えぇー……」
猪突猛進な季水くんのことだ、止めたところで進み出したら止まらないのだろう。僕はただ、呆然とすることしか出来なかった。
※※※※
零が呆然としている間にも、猪突猛進タイプの季水は、持ち前の運動神経で、父親の元まで到達していた。現在朝の4時だと言うのに、さも当然の如く突撃していた。
「廊下を猛スピードで走るんじゃない、そこが抜けるだろう」
いやいや、注意するところはそこじゃないと零がいれば突っ込んでいただろう。
「玲亜! 零が温室が欲しいらしいから、温室を作る許可と専属の大工を動かす許可をくれ! 零は遠慮しがちだからな、部屋の前のところを更地にして好きに使わせてもいいか?」
「いいぞ。どうせ、自分の懐からお金を出すんだろう? 好きにしたらいいさ。零は、お前の時よりもわがままを言わない子だから、たまにのわがままは聞いてあげると良い」
反対もしない父親に、季水はさらに猪突猛進に行動を再開したことを、まだ呆然としていた零はもちろん知らない。
想像以上の温室に、安易に願望を呟けないと考えながら、悲鳴を上げることになるとは今の零はつゆ知らない。
「……そう言えば、ハルが温室持っているって言ってたな。アドバイスをもらいにいくか!」
そんな未来を、季水が想像しているわけもなく、温室を持つ友人の元に足取り軽く、向かって行ったのだった。
※※※※
若さとはすごい。
3日で、ランニングの効果が少し見えた。会話をしながら走るようになるだけ、進歩している。
まあ、一緒に走っている朱基さんは汗すらもかいてないんだけどね。
「僕の従魔を目覚めさせるには、4属性の精霊石が必要だと言ったじゃないですか。回復するには生命力が必要らしくてとりあえず、今のところは聖石と植物で囲っているんですけど、他に生命力を与えられる方法はあるんですか?」
んー、と考えたような素振りを見せた後、思いついたのか口を開いた。
「生命力の力を持っている生物に、そばにいてもらうことも回復に繋がるのぅ。まあ、そうそう都合よく出会うのは不可能じゃ。聖獣、精霊、妖精が持つ力じゃからの」
つまり希少性が高い生物にしか、スイのことを回復できないと言うことか。
「植物を置くことで回復するかは謎じゃが、まあその植物を育てたのが緑水の位の人間じゃからな。一概に効かないとは言い切れないじゃろう。そのまま続けると良い、何事もチャレンジじゃ」
エゴかもしれないけど、何かしてあげたいって気持ちを大切にして良いと言われたような気がした。
休憩を挟んで、剣を避ける練習に入る。
やってみてわかったことだけど、意外にも僕は剣を避けることが得意なようで、朱基さんに初めてやるとは思えないくらい上手だと褒められた。
上手な理由が、僕にはなんとなくわかる。僕はスイのおかげで即死を免れたけど、避け切れないくらい早い技を見ている。
それと比較してるから、遅いなと感じて避けられているんだと思う。トラウマから、特技が生まれるのも複雑だけど、痛い思いをするのはごめんだから、良いとしよう。
「持久力と瞬発性を伸ばすかのぅ。マラソン30分追加に、避けの鍛錬を30分追加、30分受身の鍛錬追加を明日から行う」
あー、今でも鍛錬するのしんどいのに追加されてしまったぁ。……まあ目標あるから頑張れるけど、朱基さんスパルタなんだよね……、別に叱られたりはしないけどさ。
そのあと、テンポ早く当てる位置を指示されるから、パニックを起こしながら、的に当てるのを頑張るのだった。
終わった……。
いつもなら、力尽きて芝生に倒れ込んで休憩を取るところだけど、ぐっと堪えて、朱基さんに話しかける。気になっていたことがあるんだ。
「聖獣、妖精、精霊に都合よく会えないってどう言うことですか?」
この三種類の生き物についての資料は少ない。少なくても良い、より多くスイのためになる情報を集めておきたい。
「まず、精霊は6属性の精霊、6体しか存在しない。ある事件で力の弱い精霊が消失したのがきっかけじゃ。事件については、話すことが禁じられているから話せないがのぅ。
聖獣は確認されているのが、代々光帝と契約を交わしている聖獣しか確認されていない。その聖獣曰く、他にも存在しているが、隠居してるらしい。よっぽどのことがない限り姿は現さんだろうともな。
妖精は儂が生まれた時にはもう、伝説の存在になっていた。が、妖精召喚ができる冒険者が最近になって現れたことで、聖獣と同じく隠居しているんではないかと言うのが研究者の考えじゃな」
……思ってた以上に、希少な存在なんだなぁ。前世では、精霊も妖精も共生してたから、ここまでとは思わなかった。
「可能性があるとするなら、妖精召喚ができる冒険者に会うことくらいですか?」
そう聞けば、朱基さんは難しい顔をした。
「そうじゃな。じゃが、あやつがお前に話すまでになるまで年単位かかるし、妖精召喚について頑なに話そうとしないから聞き出すのは難しいじゃろう。まあ、れいちゃんなら会う機会ならたやすく作れるじゃろうが」
そこまで難しい人なのか……。でも、なんとなく引っかかる。妖精召喚のことを頑なに話さない……、それは僕がスイのことを頑なに話さないことに似ているような気がする。
「……妖精召喚の内容については聞かないです、僕も人に話せないことありますから。その人もきっとそうなんでしょう。妖精に協力してもらえないかだけ聞いてみます。それより、僕ならたやすく会う機会が作れるってどう言うことですか? 権力を使えって言うなら嫌なんですけど……」
そう言えば、朱基さんの顔が優しくなった。
「誰にでも言えないことはある。気にするんじゃないぞ。……あやつはテイマーには優しい、事情を知れば協力してくれるだろう。それと、権力は使わんで良い。れいちゃんが、季水にハルに会わせて欲しいと一言頼めば良いんじゃ」
ハル? なんで、季水くん?
わけがわからず、首を傾げる。
「ハルは、妖精召喚ができる冒険者の名前じゃ。季水に頼めば良いんじゃと言ったのは、ハルが唯一人見知りをやめた人物じゃからだ。あやつの猪突猛進さに根負けしたんじゃよ」
あー、なるほどぉ。
季水くんの猪突猛進の性格であることに、初めて感謝した瞬間だった。