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ヒロイン像

入学して2ヶ月が経った。

あれからヒロインのマリア嬢はあれやこれやと攻略対象である男性たちと積極的に関わりを持つ動きをしていた。

王子ルートなのかと思ったが、どうも全キャラと親密になろうとしているようだ。

第一王子は勿論、第二王子、宰相の息子や王家直属騎士団長の息子、王宮魔導師の弟子、担任の教師、その上攻略対象者以外にも侯爵以上の子息ばかりと接しているのが目立った。

いや、行動が早すぎる。ていうかあまりに節操が無さすぎて正直引いた。

私が思っていたヒロインと全然違う…。

もっとこう、ヒロインって清楚で無垢な感じで…身分とか関係なく誰とでも打ち解けるような皆から愛されるキャラなんじゃないの?偏見だけど。

でも公式キャラプロフィールでも「誰とでも分け隔てなく接することのできる心優しい少女」って書いてあったよ。

でもマリア嬢は皆と分け隔てなくどころか権力者以外はあまり眼中にないみたいだ。

辛うじてゲームで登場していた親友キャラのキャサリン男爵令嬢とは仲良くしているみたいだけど、端から見ているとキャサリン嬢も引いていて一定の距離を置いているように見える。

周りの人たちもそんな感じだ。

只でさえ平民上がりの男爵令嬢という肩書きを貴族たちはよく思わないのに、そんなことをすれば更に嫌悪されるって分かっていないのか。

自分の中で思い描いていたヒロイン像がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じる。

まぁ勝手に期待して勝手に失望してるから自分何様って感じではあるが、流石にあれはない。

とっかえひっかえ男たちに言い寄り侍らしている様は前世で言うところのあばずれだ。

あんなに節操がないのに、ゲーム補正なのか何故か言い寄られた男たちは嫌がるどころか照れていたり嬉しそうにしている。なんでだよ…。

そりゃマリアは流石ヒロインって感じで、顔も仕草もかわいらしくて儚げで弱々しいザ・守ってあげたくなるタイプの女の子だ。

私も女の子が好きだしマリア嬢がかわいい女の子なのはわかる。

本当に見てくれだけはいいし男性の扱いも上手に見えた。

男からしてみればとても庇護欲をそそられるのだろう。

しかしこの国の貴族女性たちは皆幼い頃から淑女教育が徹底されている。

厳しい貴族社会を生きていくために、特に女性は決して周りから舐められぬよう立ち回る必要があるからだ。

洗礼された淑女の挨拶やマナーの出来た貴族女性はそれだけでも重宝され、評価される。

家柄のためにも自身の評価のためにも、最低限のマナーは身に付けているべきなのだ。

しかしマリアは平民上がりだからまずわからないのだろう。

いやもう、わからないでは済まないレベルではあるが…。

元平民だとはいえ今は男爵令嬢。

カーマイン男爵家は立派な貴族家系だ。

マリアには貴族令嬢という自覚があまりにもないようだった。


そんなこんなで、ヒロインの攻略ペースがあまりにも早いため私がどうやって王子とリリアンの仲を取り持とうか考える暇もなくマリアは王子たちとかなり接触していた。

というか…これはゲームでいう逆ハーレムルートではないのか?

普通に考えて逆ハー狙いでなければこんなにも数多の攻略対象者に接触していないだろう。

しかも熱心にアピールしているのはピンポイントでゲームキャラのみ。

他は保険みたいな感じに見える。

中でもやはり一番の権力者である第一王子は特別なようでかなりの頻度で通っている。

正直、あんな男たらしの節操なし女なんて、いくらなんでも聡明な王子ならあしらうだろうと思っていたのだが、先日目にした王子は、ヒロインと接する度に日に日に雰囲気が甘く優しくなっていくように見えた。

しかもリリアンより圧倒的にヒロインと一緒にいることが多くなっている。

まずいと思った。本当にまずい、これは。

このままではリリアンがストーリー通りに嫉妬に狂い、ヒロイン苛めに荷担し、あれよあれよと断罪ルート!

良くて国外追放!悪くて処刑エンドだ!!

ありえない、あんな高貴で素敵な国花の薔薇を慈しむ最愛の美少女が無惨に断罪されるなんて!!

もう私は焦りに焦る。

いくら断罪が3年の卒業パーティーで行われるとはいえ、こんなにもヒロインの攻略ペースが早いんじゃ時期も早まるかもしれない…!

気が気じゃない私はどうにかしてリリアンと接触できないか日々頭を悩ませていた。



数日後の放課後。

「あの、アルカディア侯爵様…ですよね?」

突然帰宅中に人気のない廊下で聞き覚えのある少女の声に呼び止められた。

「……はい、そうですが?」

振り向くとそこにはヒロインが立っていた。

挿絵(By みてみん)

一瞬焦ったがなんとか冷静さを持ち直し、ヒロインを見据える。

なぜヒロインがモブである私に話しかけてくるんだ…?

もしや私を男性だと勘違いをしている…?

でもそうだとしたら私が侯爵だという身分を知っているのは変かもしれない。

私は性別を偽ってはいないから、調べたにせよ誰かに聞いたにせよ私がクラウドレル侯爵家の一人娘なのは分かるだろう。

「あなたは確か、マリア・カーマイン男爵令嬢だね。私に何か用でも?」

学園内だとしても自分より身分の低い者が、しかもいきなり初対面で名前で呼ばれるのはいい気分じゃないだろう。

私は前世が平民の一般人だし身分で相手を貶したいわけでもひけらかしたいわけでもないが、今はれっきとした高位貴族、クラウドレル侯爵家の一員だ。

いやというほど立場については理解しているため、いい気はしない。

「はい、アルカディア様!私アルカディア様とお話がしたくて…今度2人でお茶でもしませんか?」

マリア嬢はにこにこと屈託のない笑顔で笑いかけてくる。

はぁ?何を言っているんだ…?

やはり男だと勘違いしているのかもしれない。

「…カーマイン嬢、失礼ですが私は…」

「女性ですよね?知っています!」

いや、そうだけどまだ何も言っとらんわ。

「…えぇ、私は趣味でこの格好をしていますがれっきとした女です。失礼ですがカーマイン嬢は男性の方と主に交流なさっているようでしたので、私では力不足かと。」

然り気無く皮肉目いたことを含ませてみるが本人が理解するとは思えない。

「いいえ!私ヅカ……じゃなかった、女性歌劇団などが好きなので!そういうのには理解はあります!素敵だと思います!」

目をキラキラ輝かせて胸の辺りで手を組み近寄るマリア。

理解はあります、ね。なんか含んだ嫌な言い方。

ん?っていうか今、なんか聞き覚えのある単語が聞こえたな…!?

「女性歌劇団ですか、よく観られるんですか?」

話が広がり嬉しかったのかパッと明るく語りかけるマリア。

「いえっ、その歌劇団では女性が男性役もしているんですが以前何回か観たことがあるので!アルカディア様はまさにその舞台俳優さんのようでかっこいいです!」

「そうですか、それは嬉しいです。ですがお誘いはまた今度改めて。何分家業のことで忙しいので。ではまた。」

「あっ、アルカディア様ぁ!」

制止してくるマリアを翻し足早に立ち去る。

色々気になるところはあるが、まずは早く帰ってさっきのマリアの言葉の意味を調べたくてしかたがなかった。


調べて分かったが、この国に女性歌劇団なんてものはない。

女性が男性役もするという女性だけで結成された歌劇団なんて存在しないのだ。

それに元平民が今は男爵とはいえ、高級劇場でしか観れないようなものを観たことがあるだなんてあり得ない。

だけど私だけが知っていた。

それが前世で私も好きで憧れていた、某女性歌劇団のことを指すのだろうと。


私はゲームのヒロイン像とは大きく異なるマリアの言動や、マリアが言ったこの国にはない女性歌劇団という言葉で確信した。



マリア・カーマインも転生者であると。

読んでくださりありがとうございました!

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