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運命の出会い②

リリアン視点。

「はぁ…」

誰もいない薔薇の庭園を憂い気味に歩く一人の令嬢がいた。

彼女の名前はリリアン・ローズ・セレスティーヌ。

王家の次に権力を握る「ローズ」の称号を持つ大貴族、セレスティーヌ公爵家の令嬢だ。

そしてローズエレメント王国第一王子の婚約者でもある。

彼女はこの庭園の持ち主である侯爵家のお茶会に招待されていたが、急な公務の付き添いで開催中には間に合わなかった。

ここの侯爵家の令嬢とは同い年で交流があったし、あまり厳粛なお茶会ではないとのことでいい気分転換にもなると楽しみにしていたのだが…急いで来たときにはもうお茶会は終わっていた。

久しぶりにゆっくりできると思っていただけあってとても残念だったが、仕方ないと割りきって侯爵令嬢に挨拶だけして帰る途中だった。

帰り道が薔薇の庭園と繋がっていたのでせめて美しい薔薇だけでも楽しむのはいいだろうと少しゆっくりと歩く。

王宮の庭園もそれはそれは素晴らしいのだが、妃教育で忙しい彼女に花を眺める余裕はなかった。

元々お茶会に参加するために1日予定を空けていたためこの後は何もない。

薔薇を見て回っていると、途中で小さな噴水広場に出た。

そこの噴水に腰を掛け、ぼーっと噴水を眺めた。


幼い頃に決められた第一王子との婚約。

セレスティーヌ公爵家の令嬢であれば、それはもう生まれたときから決まっていた、約束された婚約だった。

リリアンはローズエレメント王国が大好きだった。

だからセレスティーヌ公爵家に生まれたことを誇りに思っていたし、王子の婚約者に選ばれ次期王妃として期待されていることがとても嬉しかった。

恋愛感情はまだよくわからないが、優しくて聡明な王子のことは好きだった。

だから精一杯王子や国のために頑張ろうと、必死に妃教育や淑女としてのマナーを叩き込んだ。


でも公爵令嬢だろうと人間、疲れるものは疲れる。

常時次期王妃として周りから期待され、持て囃され、時には王子が好きな他のご令嬢の嫉妬の対象になり、王家に取り入りたい貴族から言い寄られ、それらに全て粛々と対処せねばならなかった。

完璧な淑女として、次期王妃として気が抜けない毎日を過ごし続けることにいささか疲れていた。


「綺麗だわ…静かでとても気持ちが落ち着く…」

きちんと手入れされた庭園を眺める。

見渡す限りの薔薇が瑞々しく咲き誇っていた。

国花でもあり家名にローズの称号がついていることもあって、薔薇はリリアンの一番好きな花だ。

見ていると心が穏やかになるのを感じた。

そこからなんとなく噴水の水を見ていると、ふとリリアンは視線を感じた。

「…!誰?」

振り向くとそこには1人の…少年…?がリリアンを見て立ち尽くしていた。

風に靡くたびキラキラと光を反射するリーフグリーンの髪に、鮮やかなスカーレットの瞳が目を引くとても綺麗な人だった。

リリアンは数秒間その人と見つめ合ってしまった。

目を反らせなかったのが正しいだろうか。

しかしハッとして立ち上がる。

「…失礼、どちら様かしら?」

リリアンは公爵令嬢だ。しかも第一王子の婚約者。

恐らく今回のお茶会で一番身分が高いのは自分だったはずなので、まずは相手の身分を証すよう促した。

「!も、申し訳ありません。盗み見するつもりはございませんでした。ご無礼をお許しください。私はアルカディア・クラウドレルと申します。このような出で立ちではありますがクラウドレル侯爵家の娘でございます。」

彼、いや彼女は濃紺のコートを翻し、リリアンに深く礼をした。

クラウドレル侯爵令嬢の話は聞いたことがある。

確か令嬢ではあるが本人の意思で男装を好んでしていると、他の令嬢たちが話していた。

女性ではあるが一部の令嬢たちからは男性より人気があり、熱をあげている令嬢たちが時折話しているのをリリアンは知っていた。

なるほど、確かに。よく見れば体つきは女性らしいが、かっちりと男装した出で立ちはそこら辺の男性よりとても様になっている。

「まぁ、クラウドレル侯爵家の…お話は聞いておりますわ。貴女がそうでしたのね。ごめんなさい、こちらの道は出入り口と繋がっておりますものね。今離れますわ。」

「いえ、お気になさらず。」

そうふわりと微笑んだアルカディアを見てリリアンはドキリとした。

他の令嬢たちが女性にも関わらずアルカディアに熱をあげる理由がわかった気がした。

「わたくしはリリアン・ローズ・セレスティーヌと申します。セルスティーヌ公爵家の娘ですわ。」

リリアンからも身分を証し自己紹介をすると、一瞬アルカディアの目が見開き顔が強張ったように見えた。

何故公爵令嬢がここに1人で?という顔をしたように見えたのでリリアンは続けて話す。

「わたくし、こちらの侯爵家と少し交流があったので、本日のお茶会に招待されていたのだけれど…急用があってやっと先ほど来たところなの。残念ながら間に合わなかったみたいだから、少しだけ庭園を見たら帰ろうとしばらくこちらで眺めていたのですわ。」

リリアンは驚かせてしまいましたわね、と近くの薔薇を気恥ずかしさから撫でる。

その後しばらく穏やかな風が静かに吹いていた。

空は夕暮れに差し掛かる手前の、淡いオレンジ色をしていた。

それがどこか幻想的で、まるで世界に2人だけが存在しているかのような感覚があった。

「…綺麗ですね」

アルカディアに静かに声をかけられリリアンは顔をあげる。

薔薇のことを言っているのかと思ったリリアンは頷きながら

「えぇ、ここの庭園の薔薇はどれもとても美しいですわね。」

と返した。

「いえ、薔薇ではなく…あなたが」

「え…」

アルカディアがとても真っ直ぐにリリアンを見つめ告げてくるものだから、リリアンは内心慌ててしまった。

今までそういった言葉をかけられたことは何度かあったが、アルカディアの言葉には裏表のない真意さが感じとれた。

面と向かって、更に見つめ合ってハッキリ言われたことがなかったからか、リリアンは顔がじわじわ熱くなるのを感じた。

「あ、えっと…そろそろ失礼致します。リリアン様、お話ができてとても光栄でした。」

「え、えぇ、こちらこそ」

では、とコートを翻し一礼をしてアルカディアは去っていった。


「………」

なんて返そうか考えている内にお礼を言いそびれてしまったリリアンはその場に暫く立ち尽くしていた。

「お嬢様、帰りの馬車のご準備が済んでおります。夜になる前にお早くご帰宅致しましょう。」

専属侍女であるメイドがリリアンを呼びに現れる。

「えぇ、そうね…」


リリアンは馬車に乗って帰る最中も、自宅に帰ってからも、アルカディアの優しい表情やかけられた言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。

ありがとうございました!

挿し絵などと平行して書いているため更新ペースは遅いです。

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