運命の出会い
初投稿です。
趣味全開で私が見たい百合展開を詰め込みました。
拙い文ですがほぼ自分だけが楽しいやつなのであしからず…。
「アルカディア様!わたくしと庭園を見て回りませんか?」
「何を言ってらっしゃるの!?アルカディア様はわたくしとご一緒するのよ!」
「あなたたち、アルカディア侯爵様が困ってらっしゃるわ!静かにしてくださる!?」
ここは剣と魔法の国、ローズエレメント王国のとある庭園。
甲高い声が辺りに響き渡っている。
見目麗しい数人の令嬢、歳は15歳くらいだろうか。
自慢のドレスを翻しながら口論をしていた。
その令嬢たちが取り囲む中心人物、そして令嬢たちが争っている渦中の人物こそが私、アルカディア・クラウドレルである。
胸まである髪を右の方に一纏めにしたリーフグリーンの髪と鮮やかなスカーレットの瞳が特徴的だ。
我ながらかなりの美形だと思う。
この美貌と爵位によって、こうやって目の前で色めき立てる女性は後をたたない。
しかし私はれっきとした女性である。
何故女性であるのに数多の令嬢に囲まれるのかというと、ガッツリ男装をしているからだ。
俗に言う男装の麗人である。
女性と分かっていてもそこら辺の男性より顔も振る舞いもイケメンであるため女性に非常にモテる。
何故私がこんな立ち振舞いをしているのか…まぁ、好きでやっているんだけども。
詳しい話は私がまだ幼い頃―…10歳の誕生日を迎えた日まで遡る。
私は10歳までは普通の令嬢だったと思う。
ドレスも着ていたしお人形遊びも好きな普通の貴族令嬢だった。
しかし10歳の誕生日の夜。
家族や友人に盛大に祝われ、最後に出てきたケーキの蝋燭の火を消した瞬間、前世の記憶が一気に蘇ったのだ。
前世の私は日本人の一般女性で、美少女アニメ、美少女ゲームが大好きな百合オタクだったのである。
前世の名前は確かルカ?だった気がする。それ以外は自分の年齢や家族構成などは覚えていない。
だけど好きなものに対しての思い入れが強かったのか趣味趣向は鮮明に覚えていた。
私はかわいいものや女の子が大好きで、恋愛対象も女の子だった。
そして前世の記憶と同時に思い出したのが、この転生した世界が友人のプレイしていた乙女ゲーム、「ローズガーデンの姫君」であったこと。
前世で仲の良かった友人がイベントスチルやストーリーを会うたび見せながら熱弁してくるのでゲームをプレイしたことがないにも関わらずよく把握していた。
だから国名や王子なんかの名前を聞いてすぐに分かった。
私、あの乙女ゲームに異世界転生してんな!と。
普通はプレイしていた側が転生して無双する流れでは?と一瞬疑問にも思ったが、まぁいいか。
前世はオタクだったし転生漫画も死ぬほど読んだ覚えがあるので割りとすぐに受け入れられた。
むしろ大いに喜んだ。
前世の私はかわいいものが好きだったけどかわいくなりたい訳じゃなかった。
ていうかこれは完全に好みだわ。
私に女子力は皆無。前世でも男っぽいカジュアルなメンズスタイルを好んでいたなぁ。
男になりたかったわけではなく、男装の麗人に憧れていたからだ。
しかし私は顔も体つきも平凡であったので「生まれ変わったら絶対イケメン女子になりたい!!」と強く思っていたのだ。
そして晴れて転生し自分を改めて鏡で見た瞬間、あまりの美形で男装映えしそうな顔立ちに思わず涙を流しガッツポーズをしてしまった。
それからと言うもの、私は華やかで甘ったるいドレスを脱ぎ捨て、男装をするようになったのだ。
家族は最初こそ娘の変わりように心配したものの、当家は由緒ある騎士家系だったし私も騎士志望だったし、ついでに2つ上の兄の御下がりがとんでもなく似合っていたのと当の本人が喜んでいたためすぐ受け入れてくれた。
寛容な家族で本当に良かった。
それから現在、私が女性でありながら男装しているのはまぁまぁ有名な話で交流のある人達には周知の事実であった。
クラウドレル侯爵令嬢なんて名前は友人からも聞いたことないから、きっとストーリーに関与しないモブ令嬢だったんだろう。
なら好きに現世を生きてもいいよね!!うん。
「アルカディア様?どうかなさいまして?」
先ほど迄口論していた令嬢たちが私の顔を覗き込む。
「いや、すまない。少し考え事をしていたんだ。」
「まぁ、そうでしたの。お疲れでしたらわたくし達とこの後少しお茶でもいかがでしょう?気分も晴れますことよ!」
「ありがとう。心遣い嬉しく思うよ。」
私はにこやかに優しく微笑む。うん、この口調も大分板についてきたな。
私がそう振る舞うと彼女達は決まって顔を赤くし恍惚のため息を洩らす。
それらを見るのはとても気分がいい。
女の子からモテまくり異世界転生、最高!
だがしかし私は純粋にかわいい女の子が好きなだけで、女の子を沢山侍らせてチャラチャラするような趣味は持ち合わせていない。
適度な節度を持って紳士的に振る舞うのが最低限のマナーだ。
仮にも侯爵である貴族令嬢、スキャンダラスなプレイボーイ(ガールだが)みたいなのは御免である。
「せっかくのお誘い、とても嬉しいけど本日はこれにて失礼させていただくよ。またの機会にね。」
爽やかな笑顔は絶やさず、羽織ったコートを翻してその場を後にする。
後ろから微かに黄色い声が上がるのが聞こえた。
ふっ、罪な女だな自分は…。
私は帰宅するために薔薇が咲き誇る庭園を歩きだした。
今日は家族同士で交流のある侯爵家の令嬢が主催するお茶会に招かれていた。
お茶会もそつなく済ませ、帰ろうと最後の挨拶周りをしていたとき、庭園で先ほどの令嬢達に呼び止められ冒頭に至る。
そして「少々かわいい足留めを食らってしまったな~」なんて考えながら気分よく庭園を突き進んでいると、小さな広場の噴水に1人の令嬢が座っていた。
「招待されていた子かな…?どうしてこんなところに1人で――…」
その令嬢を一目見た瞬間、息が止まるかと思った。
緩やかにウェーブがかった艶のある美しいルビー色の赤髪、噴水の水が反射してキラキラと輝くグリーンの大きな瞳、陶器のように白くなめらかな肌、そしてそれらを一層引き立たせる華やかでしかし豪華すぎないレースをあしらったシルクのドレス。
どこか儚げな顔をして噴水の水を眺めているその令嬢はあまりにも、あまりにも美しかった。
絶世の美少女とはきっと彼女のことを言うのだろうと。
私はしばらく目が離せなかった。
あんな美少女、招待客にいたっけ!?いや、見かけたら私の美少女センサーが反応するはずだ!だ、誰だ一体!?
あの佇まいや明らかに高級そうなドレスから見て分かる、きっと私より位が上だろう。
まさか王族?いや、この国で赤髪は比較的珍しいし赤髪の王族もいなかったはず…ん?待てよ、赤髪?赤髪の美少女で侯爵より上のご令嬢は…まさか…!
「…!誰?」
呆然と立ち尽くしている私に気づいたその美少女が振り向いた。
そしてその綺麗なグリーンの瞳が私を捉えると僅かに見開いたのがわかった。
「………ぁ」
思ったように声が出てこず、数秒間見つめ合う。
うわっ、正面からハッキリ見たら本当に凄い美少女!
なんて綺麗な人なんだろう…こんな綺麗な人と目が合ってしまった、幸せ、至福、最高、ああ、考えが纏まらな………って違う!
この美少女は、いやこの御方は――…!
「…失礼、どちら様かしら?」
ハッとした彼女は立ち上がり、固まっている私に少し怪しむように話しかけた。
「!も、申し訳ありません。盗み見するつもりはございませんでした。ご無礼をお許しください。私はアルカディア・クラウドレルと申します。このような出で立ちではありますがクラウドレル侯爵家の娘でございます。」
私はコートを静かに翻し、胸に手を当て深く頭を下げた。
「まぁ、クラウドレル侯爵家の…お話は聞いておりますわ。貴女がそうでしたのね。ごめんなさい、こちらの道は出入り口と繋がっておりますものね。今離れますわ。」
「いえ、お気になさらず。」
私の身分が判明すると彼女は警戒心を多少解いたのか少し柔らかい話し方をした。
「わたくしはリリアン・ローズ・セレスティーヌと申します。セルスティーヌ公爵家の娘ですわ。」
リリアン・ローズ・セレスティーヌ公爵令嬢!!
間違いない。
彼女はやはり、あの「ローズガーデンの姫君」に登場する悪役令嬢だ…!!
この乙女ゲームの舞台は16歳から入学できる貴族しか入れない由緒正しき学園「バーガンディ魔法学園」にて繰り広げられる。
そこではじめてヒロインに立ちはだかる悪役令嬢が登場するのだが、それがリリアン・ローズ・セレスティーヌ公爵令嬢だ。
攻略対象である王子の婚約者で、王家の次に権力を握る「ローズ」の称号を家名に入れることが許された大貴族である。
圧倒的高貴なオーラを纏い、絶世の美女であるリリアンはそれはもうバリバリの悪役令嬢としてヒロインに立ち塞がるのだ。
そして決まって最後には数々の悪事がバレ、断罪される…って友人が言っていたっけ。
うん、なんという王道展開。
乙女ゲームにはかかせない正真正銘メインキャラクターだね。
そんな彼女がどうしてこんなところに…。
私が疑問に思っていたのを察したのか彼女は口を開いた。
「わたくし、こちらの侯爵家と少し交流があったので、本日のお茶会に招待されていたのだけれど…急用があってやっと先ほど来たところなの。残念ながら間に合わなかったみたいだから、少しだけ庭園を見たら帰ろうとしばらくこちらで眺めていたのですわ。」
驚かせてしまいましたわね、と少し恥ずかしそうに微笑む彼女を見てドキリと心臓が跳ねた。
目が、離せない。
見れば見る程、スチルで見た彼女よりもずっと実物の方が美少女だ。
手を、指をしなやかに動かせ横に流れる髪をすく動作をするだけでもドキドキした。
目蓋をやや伏せて傍にある薔薇を慈しむように撫でる仕草に目が釘付けになった。
やばい、息が、胸が苦しい。
それから一言二言会話しその場を離れたが、正直何を話したか覚えていない。
フラフラと帰りの馬車に乗り込み、呆けていた。
帰ってからも熱に浮かされたような気持ちだった。
ボーッとした私を見た両親と兄が心配して声をかけてくれたが、大丈夫だと言って誤魔化し自室へ戻る。
コートを脱ぎ捨て、倒れるようにベッドへダイブした。
いや
全然大丈夫じゃないだろ。
悪役令嬢というメインキャラクターと接触してしまったことでストーリーがおかしくなったりしないか?とか
あんな儚げな美少女が本当に悪役令嬢なのか?とか
絶世の美少女が最後は断罪される運命だなんて信じたくない!とか
色々な考えが押し寄せてきたが今はそれどころじゃなかった。
私は、リリアン公爵令嬢に、盛大に一目惚れしてしまったのだ。
読んでくださりありがとうございました!
続きます。




