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3人の従妹たち  作者: 森戸レイク
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追憶

短くきっちりと刈り込まれた芝生はそうとう遠くまで見渡せ、美しい緑色の地平線とついには一緒になっていた。

1kmほど先に見える曲がりくねった流れの緩やかな川が、キラキラと日の光を反射させ2、3羽の水鳥が水面すれすれを飛んだり、また空高く飛び上がったりを繰り返しているのが見えた。


アンヌ・ド・キュスティーヌはここで生まれ育ったが、どこまでが領地なのかいまだに区別は全くつかなかった。

だが、おそらく相当の範囲が先祖から受け継がれたそれなのだろうと思っていた。


あるがままの自然を活かした野趣に富んだ庭が、アンヌは子供のころから好きだった。

特に川べりで釣り糸を垂らすのが大好きだったが、今ではそれもなかなか思うようにはいかなかった。


なぜなら、「お嬢様は由緒正しい伯爵家のご令嬢なのですよ!」と半ば叫びながらついて回る、世話係のアニエス婆やの鷹のような鋭い目をかいくぐって川へ行くのはもはや不可能に近かったからだ。


だが目下の課題は、気持ちのよい居間の椅子に腰かけ、多少優越感の混ざった幸せそうな表情を浮かべ、せっせと真っ新なナプキンにイニシャルを刺繍している従妹のマリーの花嫁衣裳の飾りを考える事だった。


マリーは3か月後に結婚するのだ。


「ねえ、あんた。それ、本当に全部自分でやるの?」

カウチにだらしなく体を伸ばしたもう一人の従妹ナタリーは、小ばかにしたように顎でそれを指して言った。

マリーの傍らには、未だ一針もさしていない白い布がうずたかく積み上げられていた。

「まだ3月もあるもの。」

彼女は気にした風もなく、笑いながら答えた。


窓辺から外を眺めていたアンヌはようやくそこを離れ、マリーと向かい合った椅子に腰をかけ、少し冷めかけた紅茶を一口飲むと溜息をついてナタリーを戒めるように見つめた。


彼女の白く美しい顔に、戸惑いと喜び、そして少しの怒りが現れていたからだった。




ある雨のしとしと降る日、マリーの婚約を手紙で知ったナタリーは馬を駆ってアンヌを訪れた。


馬を飛び降り、泥を跳ねらかせながら屋敷に駆け込んできたナタリーは哀れなほど動揺していたのだ。


紫色になった唇をガタガタと震わせ大きな青い瞳を見開いた彼女の形相に、今にでも吐くのではないかとアンヌは気が気ではなかったが、温めたワインを飲み干す頃には少し落ち着きを取り戻し、泥だらけのスカートの裾に舌打ちをする位にはなっていた。

「マリーが婚約したって。セディと。あんたにも手紙が来たでしょ?」

ナタリーが靴の泥を指でこそげる為に身を屈めたので、その顔を見る事は出来なかったが彼女が務めて平静を装うとしているのをアンヌは感じ取っていた。


『あたし達、大きくなったら結婚するの!』

『ナタリーは僕のお嫁さんになるんだって!』

ナタリーとセディは良くそう言っていた。

遠い、遠い昔のことだ。


ナタリーが美しい令嬢に成長し、セディ・・セドリックが背の高い立派な青年になってからも、二人はとても仲が良く、セドリックがナタリーに夢中なのは誰の目からも明らかだった。

アンヌもマリーも二人が結婚する事を疑う事もなかった。


だから、数年前セディの求婚をナタリーが拒絶したのを聞いて言葉を失ったのだ。


「セドリックとは結婚しない。何故かって?わたし田舎で一生終わりたくないもの。」

ナタリーははっきりとそう言ったのだ。

「パリに出たいの。伯爵か侯爵家に嫁いで宮廷に出てみたい。セドリックはいい人だけど、気心も知れてるしね。でも、それだけじゃダメ。田舎貴族で終わるのは嫌。」


アンヌもマリーも何も言えなかった。

彼女のわがままだけがその理由だったのなら、批判したり思い直させる為の努力をする事も出来たが、二人とも他の事情を良く知っていたのだ。


ナタリーの父シャルル叔父の事業がうまくいっておらず、セドリックの相続する財産では両家を養う事

が難しいのは分かりきっていた。

持ち直す事ができなければ美しく立派な屋敷を手放す事にもなりかねない。


シャルル叔父の起死回生の策は、教養もあり美しく利発な愛娘ナタリーを大貴族に嫁がせるしかないのだ。

借金をしてでも持参金をつけて嫁がせることができたなら、その見返りはあまりあった。


元来野心家でもあったナタリーは、自分と家のために幼馴染との気安い結婚を拒絶したのだ。


しかしさすがのナタリーも、セドリックが従妹のマリーを生涯の伴侶に選ぶとは思わなかったのだろう。

怒りと嫉妬、そして屈辱感に耐えらきれなくなって、冷たい雨の中を馬を駆って丘を越えてきたのだ。


しかも自らは未だ結婚相手が見つかっていなかった。


「マリーを責めてはだめ。あんたの気持ちはわかるけど、祝ってあげないと。」アンヌははっきりと言った。

「わかってる、今だけ。今、ここでだけわたしの気持ちを吐き出させてよ!」ナタリーは叫ぶように答えたのだ。



アンヌはあの雨の日を思い浮かべながら、じっとナタリーを見つめ続けた。


アンヌのいさめるような視線に耐えきれなくなったのか、ナタリーはカウチから飛び跳ねるように立ち上がった。

「わたしの時はナプキンに刺繍なんかしない。」

そう言うやいなや、積み上げられた白い布をひっつかむと、思いっきり放り上げた。

何度も何度も。


アンヌは軽く悲鳴をあげ、マリーは一瞬呆然とするとカラカラと楽しそうに笑った。

「あんたって、小さい頃から全く変わってないのね!」

マリーの言葉に、三人で端の切れた枕に手を突っ込み、中に詰まったガチョウの羽を引っ張り出しては部屋中にまき散らして遊んだ幼い頃の思い出が甦った。

その後で、アニエス婆やにこっぴどく叱られた事も。


ヒラヒラとゆっくり舞い降りてくる布群が赤い絨毯に落ち着くころには、無責任な娘時代の終わりが近いことを、三人それぞれが感じていた。












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