その日私は民衆の怨嗟の声を聞いた
張り詰めたような緊張を纏って、それでいて隠しきれない期待と熱狂を秘めた空気が辺りを取り巻いていた。そんな中で誰かが声をあげた。それは憤怒であり怨嗟であり、誰かの本心だった。
夥しいほどの民衆の目が私一人に注がれている。誰もが私の死を望んでいた。嫌われたものだ、と夢心地の中私は思った。
手に食い込んだ荒縄が擦れて鈍い痛みを発するが、もはや気にするまでもない。それ以前に私の体は目線の一つ動かすのさえ億劫なほどに弱り切っていたし、目の前に横たわっている断罪を受け入れるしか道はないのだ。
限られた力を惜しみなく使い、私はぐるりと辺りを見渡した。そこである違和感を覚え、目を止めた。民衆とは隔絶された雰囲気のあれらは誰だろう。私を射抜かんばかりに見つめる数人は随分とおかしな髪色をしていた。
「……最期に何か言い残すことはあるか」
処刑人はずっと傍に立っていたのに、声を掛けられるまで気が付かなかった。先程まで目に入れていたのが、あまりにも常識外れな派手な色だったからだろうか。処刑人の持つ鈍色の、燻んだような色をした髪と目は随分と私の目に好ましく映った。
「あなたのその髪と目の色、素敵ね」
僅かに目を見開いた処刑人に何の意味もないのに溜飲が下げられたような気になった。
穏やかな気持ちで刃を受け入れる。
暗転。
そして時は巻き戻る。