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二十九人目の男

作者: 蓮谷 渓介


ビー ビー 


転送処理システム 廃棄処理開始


ビー ビー


転送処理システム 廃棄処理開始



…………


俺が目覚めるのは転送ターミナルのベッドの上の筈だった。


体が痛い。ひんやりした地面から身体を剥がすようにゆっくり立ち上がる。やはり全身を打ち付けたような痛みを感じる。首をさすると何か四角いボックスがついた首輪が巻かれている。くそ、俺は休暇を取りリゾートでゆっくり過す予定なんだ。どこだここは。

暗い空間だがかなり高い位置に照明が等間隔に設置されているので幾分か光量はある。広さはどれくらいだろうか、辺りを見渡しても視認できる範囲に壁は見えない。


テレポータの故障だろうか。富裕層の旅行といえば昨今は一瞬で移動できるテレポータがトレンドだ。陸、海、空路など時間を浪費する移動種手段は金のない下等民が使うか、もしくは趣味の世界だ。

いや、まだ居た。俺の嫌いな口うるさい古い人間どもだ。奴らは新しいことは毛嫌いする。性根が腐れきってるんだな。

かれこれ十五回は使用しているが散歩と同じくらい旅行が気軽になった。


突然、軽妙な短い音楽とともにアナウンスが流れる。


「ワスター ゲーム スタート」


ワスターゲーム? なんの話だ?


突然けたたましい警告音が鳴り響く。


ビー ビー 

ディスポーザルシステム ステージ1 開始


ビー ビー

ディスポーザルシステム ステージ1 開始


すると突然足元が振動しだした。そしてランダムに床がせり上がり、所々に柱が林立する状態になった。


なんなんだ一体。何が起こっているんだ。戻ったらターミナル会社にクレーム叩きつけてやる。安くない金を払って使ってやっているのになんだこの不始末は。親父に言って上層部を総入れ替えさせてやろうか。なんせ家の親父は世界的コンツェルンのトップなのだから。


などと考えていると突然目の前にガチャリと金属的な音を立てボストンバックくらいの大きさの袋が落下してきた。間違えて頭に落ちてたら即死だろうその袋のジップを開け中を見るとそこにはアサルトライフル一丁と弾丸、アーミーナイフが入っていた。


状況がつかめない。


それほど遠くない位置で発砲音が聞こえた瞬間、右肩辺りに衝撃と痛みを感じた。


何者かが撃ってきた。


なんなんだ。なんなんだ!

まだ撃ってくる。

くそ! 何だか解らないがこっちもやってやる!


幸い銃器の扱いは慣れてるんだ! 家の地下射撃場で趣味で試射をしていたからな。

偶に野良猫とかを標的にしていたが、人間を撃ちたかったから丁度いい。やってやる!


くそ、撃たれた腕が痛む。帰ったらスペアと取り換えだな。帰れば体の全パーツの予備が生体3Dプリンターで作ってあるんだ。ここでの少しの怪我くらいどうってことない。


柱の陰に隠れ、スコープを覗く。

無防備にのこのこと真ん中を歩いてやがる。マスクで顔が隠れているがどう見ても中年のおっさんじゃないか。

まあいい、いきなり殺すのは勿体ない。足つぶすか、、、、。

「ぎゃああ!」

よし、周囲を警戒しながら倒れたおっさんに近づく。なんて無防備なんだ。こいつの首にも首輪が巻かれている。四角いボックスは液晶画面なのか。それとマスク以外装備らしいものなんて何もないじゃないか。

マスクをはぎ取り素顔を見るとそのおっさんを俺は知っていた。俺の会社の経理部長じゃないか!いつも鈍間で仕事も出来ない、俺のイラつきの種であり、ストレス発散の的でもある。

「くそ!くそ!」

「よお、ブタ部長。こんな所で奇遇だな。何のつもりだこれは? こんなことして許されるとでも思ってるのか?」

経理部長は脂汗を流しながら口を開く。

「ふ、ふん! 許されるだと? お前には許すとかそんな権利はないんだよ!」

「なんだと! ふざけんな!」

「ははは! 廃棄……」

経理部長が言いかけている最中首飾りの液晶に文字が表示される

”WASTED”

その瞬間首輪が爆発し、経理部長の頭部と胴体を切り離した。


******三十年前******


「社長、どうしましょう。このままでは発表に間に合いません」

「馬鹿を言うな、この転送システムは何としてでも発表する。何、幸いにも今のところ我々の独自技術のようなものだ。他社が足掻いているうちに対策を見つければいい」

「そもそも倫理的な問題が……」

「今更言うんじゃない。倫理観など遥か昔に再生医療が芽生えた時点で崩れかけた概念だよ」


**************


ビー ビー 

ディスポーザルシステム ステージ2 開始


ビー ビー

ディスポーザルシステム ステージ2 開始


また警報のようなアナウンスがなり足場が動き段々と複雑な地形になっていく。

そしてまた銃撃戦が開始される。


二人目も会社の人間だった。営業にいる女の子。少し可愛いかったから何度か遊んだことがあった子だ。少しして子供が出来たとかでタカって来たことがあった。

他の男とも寝ているに決まっているし俺の子なわけない。ちゃんとピル飲んでなかったアイツの責任でしかないのに言いがかりでしかない迷惑な奴だった。


まあこれでスッキリしたか。何か訓練でも受けたのか、一人目のおっさんよりは手応えがあった。


そしてまたアナウンス……。



ビー ビー 

ディスポーザルシステム ステージファイナル 開始


ビー ビー

ディスポーザルシステム ステージファイナル 開始


ついに終わるのか、長かった。


今まで殺したやつを振り返ってみると、経理部長、営業女子、会社警備員、等々。何故か会社や俺の周囲の人間が多く出てきた。そしてすべて俺をイラつかせる奴らばかりだった。


しかしまあ、揃いも揃って大したことない奴らばかりだった。人間を撃って感動したのは最初の二、三人まででそれ以降は飽きてしまった。動きが単調だったからか。


どうせ次の奴も同じだろう。ああ、もうすぐで家に帰れる。


すると複雑な通路や地形を形作っていた張り出しがすべて下がり一番最初の何もない空間へと戻った。障害物のない空間。やりづらいな。辺りを見回していると遠くに1か所、突然スポットライトの光が落ちる。そこには人が一人立っていた。今までの例に倣いマスクを着けているそいつは銃器の類は持っていないようだ。少なくともライフルのようなものは見えない。


微動だにしないそいつに試しに一発撃ってみる。動じない。威嚇だというのがバレバレだったか。次は狙って。

撃つ。

そいつは避けこちらへ向かってきた。


******二十五年前******


「皆様、お忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。皆様方には常日頃大変……」

「そんなのはいい、早く本題に入れ」

「……、では早速ですが、今回、世界経済を動かすトップ企業の会長職にあられる方々、そして裏社会でご活躍の皆様に、最高のエンタテイメントをご提供すべく皆様のご協力を仰げないかとお集まりいただいた次第です」

「最高のエンタテイメント?」

「はい、その名も”ワスターゲーム”」


**************


奴の前進合わせて距離を取りながら銃を撃つものの、悉く躱され徐々に間合いが詰められていく。

リロードする余裕もなく、ついに格闘戦の間合いになる。

俺は趣味ではあるがナイフの扱いもそれなりだし、格総合格闘技に関してはアマの大会で優勝したこともあるんだ、その気になれば……。

しかし、こちらの攻撃はすべて難なく躱されてしまう。なんなんだこいつは。それも躱すだけで手を出してこない。余裕すら感じる。

嫌味な奴だ。

一瞬の隙をついて相手の体制を崩すことが出来た。そこから容易くマウントポジションをとる。


「ふふ、ははは……」

奴は笑った。最後まで余裕ぶりやがって。

「何が可笑しいんだ? もう死ぬと言うのに」

「いや、死ぬのはお前だ」

クソが。まあいい、楽にしてやる。手にナイフを持ち振りかぶる。

と不意に奴は自分のマスクを取った。

「は、そんな、馬鹿な……?」

その顔に違和感を覚え一瞬俺の手が止まった。

そこにあったのは俺の顔、まるで鏡を見るかのように俺の前に俺がいる。

その一瞬の動揺の隙を付かれ逆にマウントを取られてしまった。

「くそ!くそ!なんだお前は!俺の顔をマネしやがって、卑怯だぞ!」

「マネじゃない。俺は俺だ、そしてお前も俺だ」

「訳が分からいことを言うな! お前が俺? 俺がお前を真似てるとでも言うのか!」

「違うな、お前は俺のコピーだ。それも二十九人目のな」


******二十五年前******


「全く、恐ろしいことを考える奴らだ」

「ワスターゲームとはしかし、普通の娯楽に飽きた人間には新しい刺激になるんじゃないか? 例えば我々のような」

「確かに、ははは」

「しかし、テレポータか。危ない物をつくったものだな」

「生体プリンターの応用らしいが、転送先にオリジナルデータを転送し再構築する、までは良いが”オリジナルはそこに残る”、とはな」

「オリジナルの廃棄処理をする代わりに、それを使って殺し合いをさせるアイデアはなかなかに狂ってるな」

「まあ、あいつらの廃棄処理費用は浮くし、我々は楽しめるし、まさに”WIN=WIN”じゃないか?」

「まさにその通り。”増えた分を減らす”だけだからな。生体材料の確保もできる。便利なモノを作ってくれたものだよ」

「まあ、我々は絶対に使わないがね。ははははははは!!」


**************


「二十九人目? 俺が?」

「そうだ、テレポータには致命的な欠陥がある。転送先にはオリジナルのコピーが行き、オリジナルはその場にそのまま残るんだ」

「残ったオリジナルはどうなる?」

「ここに集められて殺し合いをさせられるのさ。俺たちのように」

「狂ってやがる……」

「中には自分から志願する奴もいるようだがな。例えば殺したいほど憎んでいる奴がいる場合とか。どうやってか探し出して連れてくるんだよな。怖い話だ」

最初に戦った経理部長の顔が思い出される。

「勝てば生き残れるシステムだ。今まで散々殺してきた。その中で俺は俺がテレポータを使う度、俺を殺してきたんだ。でも、もう……」

不意に奴がマウントを解いた。

「疲れた。殺せ」

奴は両手を力なく垂らし、こちらを向く


自分を殺すなんて狂った話しだが、死にたくは無い。

まあ、人を殺せるのは楽しかったが、コイツ程殺せば流石の俺でも気を病むのか。

じゃ、お疲れ様ってことで


俺はナイフを心臓に狙いを定めナイフを突き立てる。


ガキン


「?」

硬いプレートに阻まれるような感触。不意に奴は俺の眉間に手を向ける。

手の中にはデリンジャー。

「ふふ、悪いな、やっぱり死にたく無くなった。死ね」

「……クソが」

「適切な自己評価だ」


乾いた銃声の後、軽妙な音楽とアナウンスが流れる。


「ワスター ゲーム オーバー」


**************


「おとうさん! テレポータなんてはじめて! 」

「そうだろ? お父さんも初めてだよ。 ワクワクするね」

「うん! すぐそこうみ?」

「そうだよ!」

「ふふ、楽しそうね。まさかテレポータ旅行の無料チケットが当るだなんて、思ってもなかったわ」


第二ターミナルベッド搭乗口でお待ちのお客さまはゲートをお進みください……


「さあ、次にベッドから出たらもうリゾートだ!」


**************


ビー ビー 


転送処理システム 廃棄処理開始


ビー ビー


転送処理システム 廃棄処理開始


……



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