1.神代神社の巫女さん
「いいか、結」
「この結界の中は安全だから
その刀を持って絶対にお母さんのそばを離れるなよ」
「でもお父さんが…」
「大丈夫だ、すぐに戻って来るよ」
そう言い残し父は外に出ていった
私は怖くてずっと耳をふさぎ母の胸にうずくまっていた
「大丈夫、きっと大丈夫だから」
母が優しく私の頭を撫でる
あれから何時間がたっただろう
気づくとあたりには物音はひとつもなくなっていた
「お父さん」
「お父さーーん」
呼びかけてみても返事はなく
父には出るなと言われていたが母と一緒に外の様子を見に行ってみる
恐る恐る外を覗くと
無数の悪魔の死骸と血の海が広がっていた
その中に1人だけ立っている人物がいる
私はそれが父だと思い駆け出した
しかし振り返ったその人物の顔は
額には角が生え、白目のない真っ黒の目、尖った牙
その顔が私をじっと見つめる
「いやぁぁぁぁぁぁぁ」
自分の叫び声とともに目が覚める
「またこの夢か」
あれから12年も経つのにいまだにこの夢をみる
嫌気がさしているが父との最後にあった出来事なので夢でも父の声がきけるのはここだけなので完全に嫌な夢とは言いきれない
あれから父は帰って来なかった
死体も見つかっていないので私と母はどこかで生きていると信じている
そんなことを考えながら私は身支度を済ませる
巫女装束に着替え本堂に向かう
私の名前は『 神代 結』17歳
父の代わりに母と2人で神社で仕事をしている
この神代神社は父の先祖から代々守り受け継がれできた神社で
神代の一族は代々強い霊力を持っており
主に除霊などの仕事を請け負っている
母は多少の霊力はあるものの強いものではないので除霊などの仕事は主に私が行っている
本堂に祀られている刀に向かい私は祈る
「今日も1日見守ってください」
これが私の毎日の日課だ
後ろの襖が開き母が声をかける
「結、お客様が待合室でお待ちよ
後はお願いね」
「はーい」
「それじゃ行ってくるね」
そう刀に語りかけると私は本堂を後にし待合室に向かう
待合室に入ると
大学生くらいの男性が座っている
その向かいに座り話を始める
「巫女の神代結と申します
本日はどうされましたか?」
「俺は佐藤っていいます
昨日友達と肝試しに行ったんですけど
今朝から体調が優れなくて霊的な何かだと思います
何とかしてください」
「なるほど
ではその時の様子を詳しく教えてください」
「その日は友達に誘われて出ると有名な
廃墟の病院に行きました
昨日は天気が悪く、病院の入口からいざ入ろうとした時に大きな雷が鳴り
すっかりびびってしまい結局入らずに帰りました
このまま家に帰っても眠れなさそうなので
今年20歳になったこともありお酒を飲んで寝ました」
「今朝目覚めると身体が重く、吐き気などもして
きっと呪われたんだと思います」
「わかりました
とりあえず調べてみます」
そういうと結は右手を伸ばし
佐藤の顔の前に手のひらをかざす
「原因がわかりました
霊的なものは一切関係ありません
ただの二日酔いです」
「そんなはずはありません
そんなこと言わず何とかしてくださいよ」
佐藤が焦りをみせながら言い返す
正直結は部屋に入る前から霊の気配を感じておらず
最初から佐藤の気のせいだと感じていたので
こうなることは大体予想がついていた
しかし佐藤からするとここまできてただの二日酔いだとバツが悪いのだろう
そう思い結は棚から何かを取り出す
「それでしたらこの神代家秘伝の
厄祓いの壺を特別にお売りしましょう」
「よっしゃ、買います」
即答し佐藤は帰って行った
その後も何人かの話を聞き
時刻は15時になっていた
仕事も一段落し待合室でお茶を飲む結
「最近はロクなお客様が来ないな
壺は売れるけど…」
すると部屋の外からドタドタと足音が響く
その音を聞き結は溜め息をもらす
「結ちゃーーーーん」
襖が開き女性がユイに飛びついてくる
「真冬さんまたですか」
「結ちゃん、また彼氏に振られたよぉーー」
この女性は『 百合川 真冬』彼氏に振られる度に
除霊の相談と言い愚痴を言いに来る
「少しブランドのバッグをおねだりしただけで
別れようなんてひどくない?
きっと私には失恋の呪いがかかってるんだよ
私の心を癒せるのは結ちゃんだけだよ」
「そんな訳ないでしょ」
呆れて適当に返す
だが何かいつもと違う違和感を感じ、ユイは真冬に向かい意識を集中させる
「真冬さん、本当に何か悪霊の気配を感じる」
「えっ、嘘でしょ」
真冬自身予期せぬ展開に驚いている
その様子をみて結が続ける
「まったく、やっぱりいっつも呪いとか言い訳で愚痴をこぼしにきてたんですね
でも今日は本当に嫌な気配を感じるので
今から本堂の方で除霊を始めますよ」