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act.2 残酷な慈悲1

ちょこちょこと文章を直してます。

 


 悪夢。

 何度も姿形を変えて、名前も、性別も変わって、どれも不遇の死を迎える悪夢。

 何十年、何百年と悲惨な死を遂げる、そんな悪夢を見た気がする。


 ーー何か、やらなきゃいけない事があった気がする。


 一瞬の事で夢の事はどれも思い出せないが、気づいたら顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになって目を覚ました。


 ぼんやりと焦点がまだ合わない目で周りを見回すと、二日分の手をつけていない水と食事があった。

 

  ……丸二日眠っていたのか。


 意識が落ちる前、暴れて床を引っ掻いたのか、爪がボロボロになっていた。

  毎度の事ながら、ズキズキと血が滲む爪や、蹴られた腹の痛みで、最悪の目覚めだ。


 ーーこんな時に()()()でもあれば。


 思考をしていて違和感を感じる。

  知らない物を初めから当たり前にある物として知ってるような、そんな小さな違和感。


 あの老人が教えてくれた?

  違う、聞いた時にあの人は、ただ困ったように笑っていたはずだ。

  悪夢を見ない薬だと。

  その感覚を私は既にどこかで、味わったことがあるような…。

 

 思考を遮るように、カツン、という足音が聞こえて、私は身を縮こまらせた。


 おかしい、まだ昼時の筈なのに。


 あの人達が夕暮れの鐘より来る事はありえない。





 恐る恐る扉を見つめていると、二日前に青年に同行していた、ライトブラウンの少年が目に入った。


「…あ!目が覚めたかい?」


 少年はそう言い、笑顔で鉄格子の扉を開けると、小走りで目の前にかけてきた。

  上等な服が汚れるのも構わず、小さな背をさらに屈めて突っ伏していた私に目線を合わせると、無邪気で人懐こい笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。


「よかった!二日も目が覚めないから、もう起きないかと思ったよ…。

 あ、はじめまして…じゃない二度目ましてだね!僕はアルカイル、カイルって呼んでほしいな。

 君はメリア…であってる?」


 気弱そうな垂れ目が、こちらの機嫌を伺うように見つめてくる。

 自己紹介、というものを初めて面と向かってされ、拍子抜けで、思わず言葉が漏れ出る。


「…カ、イル」


 枯れた声で思わず口に出すと、カイルも驚いたように目を開く。


「驚いた…とっくに兄上に喉を潰されて、喋れないのかと……。よかった!

 兄上は君に辛くあたってたんだろう?

 普段はあんな人じゃないんだけど…気を悪くしないで欲しいな。」


 水、飲めるかい?と、近くにあった水差しの蓋をあけて口元に近づけてくる。

  それを自分の手で受け取ろうとすると、そっと手を抑えられて、不可解な行動に私は少年に疑問の目を向けた。


「駄目だよ、君はまだ怪我してるし、あまり動かないほうがいい、僕がやるから」


 曇りのない笑顔で言われると、今まで抵抗が意味を成した事が無いのも含めて、腕を上げるのも辛いという事も事実だった為、私は特に抵抗もせずその行為を受け入れる事にした。


 ずい、と近づけられた水差しから水を吸い出すと、カイルは満足そうに微笑んでいる。


 一瞬だけ、あの黒い液体を無理矢理飲まされる時を思い出し嘔吐しそうになる。


  一瞬の嘔吐きに怯えながら飲み干すと、なんだか罪悪感のようなものがこみ上げ、気まずくなる。

  居心地の悪さに思わず私は目を逸らした。


「これからは毎日僕がくるから、もう安心していいよ。」


 そう言うとカイルは、私の傷んだ赤毛を愛おしげに撫でる。


 ーーもう夕暮れの鐘に怯えなくていいの?


 されるがままになっていると、カイルの手が私の前髪をかき分けていく。

何とも言えない感覚に背筋がゾワリ、としたがすぐに消えた。


「……そう、なんだ」


 違和感への疑問が消えていき、二日ぶりの水分補給が胃に沁みていく。

 ぶわり、と生理的な涙が溢れると、再び意識が落ちていきそうになる。

 生理的な欲求が満たされた安心感による眠気がメリアを襲った。


「…うん。安心して、大事にするよ。だって僕が()()()()()()()()()()()()()()


 意識の外でそんな声が聞こえた気がした。




フラグしかたてません。

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