act.0 夕日の赤、少女の赤
享年20歳、学生、交通事故で死亡。
re:
享年50歳、無職、餓死。
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享年13歳、誘拐、殺害。
re:
****、***、***。
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ーー****、**、**。
頭が割れる。比喩では無く物理的に。
むしろもう割れている、本能的にそう思ってしまうほどの衝撃が前頭葉から背中まで一気に駆け抜ける。
あまりにも唐突に知らない内容の映像やその映像の中で感じていた感情が大量に焼きついていく。
自分ではない、他人の視点の夢のようなものを並行で大量に見せられ、頭を鉄球で殴られたかのような痛みと共に誰かの感情に押しつぶされそうになる。
さっきまで護送の途中で、誰かが逃げようとして、それで?
頭や全身の痛みで、右手首に焼き付けられたばかりの奴隷紋の痛みにすら今は何も感じなくなっている。
「ィッ…ぅッ ……」
どうやら護送中の馬車に相当の負荷がかかったのだろうということは、痛む身体と石の感触で理解する。
小さな瓦礫の感触や、一緒に積まれていた荷物や木箱がすぐそばで潰れていた。
立ち上がろうと、歪んだ格子に捕まる。
数本の髪の毛が抜ける事なんか全く気にせず、頭を抱えながら掻きむしる。薄暗い空間でも目立つ、自身の赤毛が目の前を舞った。
ーー痛い、怖い、助けて、死んじゃう、誰か。
全身も痛い、足は確実に折れているだろう。
陽に当たったことがほぼない真っ白な膝は今はドス黒く変色している。
痛みに耐えて歩こうとしたら、躓いて転んだ。
足下には先程までは怒ったり悲しんだりしていた奴隷の子供が積み重なっていた。
薄暗い中混乱して気づかなかったが、私の下敷きになっていた子を見る。
頭が潰れ、ぴくり、と痙攣していた。
痛みも相まって恐怖と不快感が跳ね上がる。その場に嘔吐すると胃液がなくなるまで吐いた。
「…だれか、ねえ」
さっきまで私の死んだ目が気に入らないって言ってたいた子は。
さっきまで諦めないって言って最後まで生きようとした子もみんな今は動かない。
外に出なきゃ、そう呟いて割れた薄板から差し込む夕日の光を目指す。
大嫌いな赤色は、今は救いの光のように感じた。
一歩一歩ゆっくり、でも確実に進んでいく。
何人かの呻き声が聞こえたが、誰かを助けるほどの余裕などとっくにない。
足下が暗いのが救いだ。全容が見えてしまえば、一歩だって進むことは多分できなかっただろう。
まだ暖かい死体の上を、嘔吐きながら歩く。
出口に近づくと不意に、片足を掴まれ思わずひゅっと息が止まった。
先程まで私の死んだ目が気にくわないと、諦めるなと言った少女だった。
「は、は、なして…」
一向に力が弱まらない。
やめて。
「はなして!!」
足を振り上げると、手は離れた。
色んな感情が混乱して、思わず悲鳴のような声を上げる。
それでもその少女は諦めずに手を伸ばしてきた。
少女は先程までは縄を解くために使っていたナイフの柄を私の足へとあてると、
「おねがい」と言って自らの首を指差した。
ふと見ないようにしていたそれに目を向ける。
ーー下半身が潰れた少女が必死に言葉を紡いでいた。
「…こ、で、たッすけるって、みんなにいった、みれん、で自分じゃこわくて、できない、ごめん…ね、おねが…い、らくに、つらい、ごめん、なさい」
あなたがそれを言うのか。
さっきまで諦めるなと言っていた口が、さっきまでとは真逆の事を言う残酷さを目の当たりにして涙でぐちゃぐちゃになった目を開いた。
少女は瞳に変わらない光を持ちながら、私に「生きて」と言うと苦しそうに呻いた。
そのままでも、死ぬのだろう。
何もできず、でもきっとしばらくは苦しんだり後悔したりして死ぬのだろう。
きっと誰かを助けようとした彼女には似合わない結末。
「……生きる」
手から落ちていたナイフを拾い上げる。
「私は、この世界が許せない」
光の無かった目に紅い光を宿しながら。
「…絶対に生き延びてやる!!!!」
赤髪の少女はナイフを振り上げると覚悟と共に振り下ろした。
こんにちは、そしてはじめまして。
はじめにいいますと、私は過酷な人生を成り上がるロリが大好きです。
主人公には少々辛い体験を多くさせますがなんとか乗り越えさせたいと思っています。
一応異世界(恋愛)タグですが、前半は恋愛要素は雀の涙もありません。
少しずつ書き溜めてあげていくので、仕事の合間に書き溜めを5pずつくらいあげたいと思います。
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