第9話 ランカスター伯爵との初対面(気さくな武人だった):
ランカスター辺境伯城の客間に通された。3人が寛げる大きな部屋だ。
「ランカスター伯爵が執務室で待っているので、1時間後にお迎えにあがります」
母と姉はドレスに着替え、トーマは礼装に着替える。
1時間後、メイドさんと思われる格好をした人が迎えにきた。
トーマは、マリアの薦めでハヤブサの剣を帯剣し、ランカスター辺境伯の執務室に向かった。
重厚な扉の前で立ち止まり、メイドさんがノックする
「ランカスター伯爵様、マリア様、マリーナ様、トーマ様をお連れしました」
「うむ、入って来なさい」
「失礼いたします」
母が入室。姉とトーマが続く。
ランカスター伯爵と思われる人は、執務机の前に帯剣して立っていた。
母と姉が、と優雅なカーテシで挨拶する。
「ご機嫌ようお父様」
「ご機嫌ようお爺様」
トーマは片膝をつき、騎士の礼を用いて挨拶をする。
「ランカスター伯爵様、お初にお目にかかります。ルース・ハサウェイ、マリア・ハサウェイの嫡男、トーマ・ハサウェイと申します。」
「堅苦しい挨拶は抜きで良い。盗賊からマリアとマリーナを守ってみせた、小さな英雄の顔を見せてくれないか?」
トーマは、片膝をついたまま、ランカスター伯爵を見上げる。
歴戦の勇士らしいガッチりした体躯に腰の大剣が馴染んでいる。
大剣からは強い魔力を感じるが、顔は若干狼狽している?
「おお、なんと、なんと見事なオッドアイ!まさか、トーマは女神ミレーニアの寵愛を受けた男子か、しかも瞳の色が際立っておる。おや、腰の剣は、魔剣ではないか?」
「はい、父から授かりました」
「おお、そうか。8歳のトーマが盗賊3名を倒したとの報告を受けてはいたが、信じてはいなかった、が。これは、確かめねばなるまい」
「トーマよ、剣を抜き、魔力を通してみせよ」
トーマは、辺境伯の前で抜刀してよいものかと逡巡する。
「お父様に見せてあげて」と、母が応援口調で言う。
「失礼いたします」
ゆっくり立ち上がり、魔力を見に纏うと、「キン」という小気味良い鞘刷りの音と共に『ハヤブサの剣』を抜刀し、碧く輝く刀身を体の前に垂直に立てて構えた。
「見事!これは、ルースのハヤブサの剣か。ルースが魔力を纏った時よりも、碧い輝きが強く感じる。」「トーマよ、大地母神ミレーニアの寺院で祈りを捧げると、体が淡く輝いて、傷や疲れが回復しないか?」
「はい、ミレーニア様の寺院でお祈りすると、小さな傷は治り、疲れも取れます。ただ、自分の体が淡く輝いているかは分かりません」
「お父様、マリアは、トーマの体が淡く輝いて、傷が回復する所を見ました。でも、それは、ミレーニア様の寵愛を受けて、トーマがオッドアイで生まれてきたからで。驚くべき事ではないのではありませんか?」
「マリア、マリーナ、トーマよ、これから話す事は他言無用だ、心して聞いてくれ。魔力を制御する力は希少な力だが、親から子に伝わる、それは知っているね。しかし、オッドアイの男子は、女神ミレーニア様の完全な気まぐれで寵愛を得る。10万人に1人いるかいないかという確率だ。トーマは魔剣を操るオッドアイの少年。この特徴は、バスティア共和国の王族にのみ伝承されている、邪龍を封印した『勇者』と全く同じの特徴なのだ。『勇者』の再来かと驚き、色々と確認していたのだよ。マリア」
「しかし、まだトーマは幼い。今後の事は、家族で相談すればよい」
「そうだ、トーマよ、今夜のパーティにも帯剣して出席するように。それが、ランカスター流だ!よいな?いや、今日は、良き日だ。ワッハッハ!」
ランカスター辺境伯の豪快な笑い声と共に、初対面が終了した。
なんだが、大変な事を聞いた気がする。どうやら、封印の祠には、邪龍が封印されているらしい。