第8話 ランカスター辺境伯領都に到着(何だか豪華な馬車が見えた気がしたのは気のせいだよね?)
ミレーニア教会での朝のお祈りで、すっかり元気になったトーマ
「ここから領都は近いですよね。ランカスター領内は安全でしょうし、ここで止まっているよりも進んだ方が良いと思います」
「うーん、眠いんだけど。トーマが元気なら、馬車で移動してもいいよ」
寝不足気味な、母と姉を説得。
バーダックと、追いついたランカスター騎士も同意する。
「確かに、ここよりも領都の方が安全でしょう。急ぎましょう。」
ランカスター騎士の言葉がダメ押しとなる。
バーダックを御者とした馬車と、ランカスター騎士の騎馬護衛という布陣で領都を目指して出発。
ランカスター騎士の従士の2名は地方都市に残る
ケガの治療をしながら、馬車を襲った盗賊の死体検分と、盗賊に通じていた御者の取り調べを行う。
ランカスター辺境伯領内の街道での移動は、騎士団の巡回もあり安全だ。
路面も整備されており、馬車は順調に進む。
まだ日が高いうちに、ランカスター領都に無事到着した。
初めてランカスターリアを訪れるトーマは、その大きさに驚きを隠せなかった。
「母様、ハサウェイ・タウンとは違って大きい街ですね。外壁も石造りで、とても頑丈そうです。でも、あの外壁は、何から街を守っているのですか?」
ランカスター辺境伯領内の移動が安全だっただけに、
トーマにはあの石造りの外壁の意味が理解できなかった。
「トーマ、ランカスター辺境伯爵領都は、隣国のヘスティア帝国から攻め込まれたときの為に、外壁を立派にしているのよ」
母の代わりに、姉が得意気に教えてくれた。
「ありがとうございます、姉様、よくわかりました。姉様は物知りですね!」
「分からない事は、なんでも聞いてね!」
「でも、隣の国から攻め込まれると、ハサウェイ・タウンも大変かもしれませんね。封印の祠や魔の森も近いから、ハサウェイ・タウンって結構危険な領地なんですね、姉様」
「うーん、そうかもしれないわね。どうしたら良いと思う?」
「そうですね、何とか、街の防御力を高めないといけないですね」
馬車は街の外壁を通り抜け、街の中心にあるランカスター城の城門に吸い込まれていった。
ランカスター辺境伯領都は、人口 60,000人。
王都の100,000人には及ばないが、バスティア共和国の中では、大都市と言ってよい規模を誇る。
街の中心には、水堀と石作りの城壁に囲まれた、ランカスター城が鎮座している。
四方に見張り棟を配した、武骨だが堅固な要塞といった外観の城だ。
街は、城を中心に同心円状に広がっているが、スラム街もなく、水も豊で、活気に満ちた良い街だ。
城門から城に入る。
城壁に囲まれた広い空間には、防衛用の主塔、執務・生活用の建物、迎賓館、家人の生活空間に加え、騎士団詰め所と厩舎を備えている。
有事の際には、正しく、最後の砦としての機能を備えている。
迎賓館前の馬車停泊所で、馬車から降りるトーマ一行。
「あれ、何だかとても豪華な馬車が止まってますね」
「ほんと、誰か偉い人でもパーティーに出席するのかな?母様?」
「あれって、王族用の馬車じゃなかったかしら?」
「えええ、王族が来てるって事?」
「かもしれないってだけだから、あまり、気にしなくても大丈夫よ」
盛り上がっている、母と姉の横で、
トーマは、この後予定されている、ランカスター辺境伯との面会をどうするか?を考えていた。
「ランカスター辺境伯は、母様のお父様だから、僕からみれば、お爺様のはず。孫はかわいいと思うから、あまり、ムチャな事は言われないと思うけど。念のため、母様、姉様と一緒に会うのが良いと思う」
まだ見ぬ、ランカスター辺境伯に思いを馳せていた。