帝国貴族学院
クリティアス帝国立貴族学院、通称“貴族院”
帝国首都フィロソフィアの東側に位置し、白く美しい建物から白亜の殿堂とも呼ばれている。
帝国法では貴族の子弟は必ずこの学院に通うことが義務付けられており、貴族院を卒業しない限り貴族として認められることは無いのだ。
その為、ここは帝国内の貴族の子弟すべてが通う学び舎であり、学院は全寮制になっていて、集まった貴族の子弟が共同生活を行う場所だ。帝国の子弟はこの貴族院で剣術、魔術そして魔道具の使い方を学ぶのである。
父上が死んだ翌年、僕とセルダンはその貴族院へ通う事になった。
貴族院の寮は男女、家柄、事情によって分けられ、第一寮には王家や公爵家、第二寮には侯爵家や伯爵家、第三寮には子爵家や男爵家、第四寮にはそれら以外の準男爵家(例外的に魔道具の使用を許された平民)や訳アリの者が入寮する。
オーランド家の嫡子となったセルダンは貴族院の男子第一寮へ、廃嫡となった僕は第四寮へ入寮した。
セルダンの入った第一寮は侯爵以上の家の者が入る寮であり、執事、メイド、料理人も一流所を揃えた寮である。
それに対して僕が入った第四寮は貴族の子弟でも僕の様に廃嫡された訳アリの子弟や素行の悪い者、成り上がり物の貴族の子弟が入る寮であり、この寮では料理人はおろか管理人さえいない。その為、寮の食事は自分たちで作らなくてはならない。
一応、第四寮の出身者でも貴族院を卒業しさえすれば貴族として認められる。貴族となった彼らは平民とは違い魔道具の所持や使用が認められている。その為、貴族院卒業後、商人になる者も多い。極めて少ないが中には冒険者(底辺の職業)になる者もいるのである。
嫡子への返り咲きや別の貴族の後継ぎを狙う者はこの貴族院を卒業しても商人や冒険者にならずじっと部屋住みで耐えることになる。
かく言う僕もその予定だ。だが、これは悪い賭けででは無いと思っている。
その理由の一つはセルダンの自己評価の異常な高さだ。
元々なのか公爵家へ来てからなのか、セルダンは勝手気ままで我が強く人を見下す。やって来た貴族たちが自分にへりくだるのを見て自己を過大評価し自分がとても偉いと勘違いをしている。彼らはセルダンにへりくだっているのではない。オーランド公爵家にへりくだっているのだ。
次に、セルダンは我慢が出来ない所がある。これは彼の体形からわかる。
僕が食べるはずであった食事や菓子を独占した結果、同じ年齢の男子に比べ体重が二倍にも三倍にも大きく太っている。加えて剣術などの訓練の手を抜くため、体重が減ることは無い。それなのに我慢できないのか過剰に食べる。
今ではこの家にやって来た当初の貴公子も見る影もない状態になっていた。
セルダンが運よく何の問題も起こさなかった場合、僕には別の貴族の家へ婿入りすると言う道もある。
オーランド公爵家の跡は継げないが血は残すことになるので父上母上には容赦してもらいたい。
僕と同じ年に第四寮に入寮した者は全部で五人。
頭を丸刈りにし、人懐っこそうな顔の“アーサー・レイキャスト”、彼は伯爵家の出身だが何かわけがあるのかこの第四寮に入った。噂だと伯爵領内で危険な魔道実験をしたそうだ。
厳つい顔の“ロバート・クリフォード”、話してみると意外に穏やかなロマンチスト。彼は準男爵家の嫡男らしい。
何処か気の抜けた“フィリップ・モンテティ”、始終ぼんやりしているように見えるが自分の興味がある事には真っ先に向かってゆく。彼も準男爵家だが次男。
少し神経質そうな“マルクス・ブルー”、おかっぱ頭のどこかの良い家の子息に思えるが、残念ながら教えてはくれなかった。
以上が僕と同時期に入寮した人たちだ。どの人物も一癖ありそうである。