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攻略の拠点

 オーランド領内の転移のクリスタルが制限なしで使えるのなら、別の位置に転移のクリスタルを設置する必要はなくなる。

 わざわざ手間をかけることなくカルミラの足元へたどり着けると言う事だ。


「スティーブン。オーランド全域の転移のクリスタルが使えるのならカルミラへの接近がもっと楽になる。転移先で良い場所は何処が良いと考える?」


「そうでございますね。領都であるリダロフに近いのはナトラですが、ここはランゴルに拠点を持つべきかと具申します。」


「ランゴルか……たしか、ルボン湖の湖畔にある商業都市だったな。なるほど、カルミラの資金源を断つ作戦か。」


「はい。カルミラは長い間領主代理を務めていましたが、全てを掌握しているわけではありません。それどころか度重なる増税により多くの商人から反感を持たれております。ランゴルはまだアイザック様の名を騙ったセルダンの影響を受けておりません。今ならば商人達を仲間に引き入れる事も可能だと考えます。」


「商人から反感を買っている?そんなにカルミラの増税は酷いのか?」


 オーランド領は穀物の生産も多く豊かである為、領民に掛ける税は帝国内の他の貴族領のよりも低い。

 他の貴族領よりも低い税の為、ランゴルは湖を使った穀物の輸送を行う商人が多く集まる町になっていた。


「商人に反感を持たれるとは……カルミラはいったいどんな税率にしたのだ?」


「領主代理に就任した当初は税に手を付けておりませんでしたが、領内で疫病がはやった時に疫病救済を理由に通行税を徴収し始めました。」


 オーランド領では都市の通行で税金を取られることは無かった。お金の少ない旅人や商人が無理に野宿することが少なくなった。都市や町の宿に泊まる人が増え野盗の被害が少なくなり、野盗対策の出費が抑えられた。

 都市の入り口の警備も不審者を見張るだけで良くなり、流通がスムーズに行われる事となった。


「商人の反感が今もまだ続いているという事は通行税の徴収は今も続いているのだな?」


「はい。疫病対策が一段落(いちだんらく)した為、商人達が通行税の取り消しを求めたものの一蹴されたそうです。」


 良くも悪くもカルミラは昔ながらの貴族だ。

 商人たちがどの様にしてお金を儲けているか、農民がどの様にして作物を作っているのか、全く知らない。


「税を元に戻すことで商人達からの協力を取り付け、主権は我々にあると宣言するという事か……悪くない方法だな。」


「はい。今のオーランド領全体の状況を考えると早急に手を打つべきかと……。」


 スティーブンは通行税の事だけを指して言っているのではない。疲弊したオーランド領の穀倉地帯も元に戻すべきだと言っているのだ。

 その対策は早ければ早い方が良い。

 特に穀倉地帯の復旧は遅れれば遅れるほど収穫量が下がっていく。つまり税収が下がるのだ。


「よし、ランゴルの商人達との連絡を取ろう。スティーブン、手はずを頼めるか?」


「お任せください。先々代の時より懇意にしている商人がおりますので彼らに連絡をつければ問題は無いかと……。彼はカルミラが実権を握っている今のオーランド家とは一歩引いた位置で取引しています。」


 ―――――――――――――――――――――


 オーランド領の都市ランゴル。ここは帝国内でも有数の湖であるルボン湖の湖畔に作られた都市である。

 都市は通常より大きな石材を使って城壁が築かれており、帝国内でも有数の防御力を誇っている。

 この大きな石材を使用できたのも都市に併設された港のおかげ、湖を使った輸送で大きな石材も楽に運べたためである。

 他にも湖を使った輸送で帝国内の様々な場所へオーランド領の穀物を輸出して巨万の富を稼いでいた。


 ここランゴルでも有力な商会一つ、メディオロ商会の会頭であるルトルスは部下からの報告を受けていた。

 ルトルスの頭のほとんどは白くなり腰の曲がった年寄であったが目つきは鋭くまだまだ現役である事を窺わせていた。


「カルミラの息子、セルダンは行方不明だと?アイザックさまの名前を騙っていた金髪豚が?」


「はい。その為カルミラはセルダン、いえ、アイザックさまの代わりをする者を探している様です。」


 ルトルスは影に向かって話しかけているがその先には誰もいない。ルトルスは腕の良い諜報員を雇っている様だった。


「それで、セルダンは何故行方不明になっているのだ?行方不明になった場所は?」


「行方不明の理由は判りません、ただ場所は“アルマハ村”との事でした。」


「アルマハ村か……」


 ルトルスは何かを思い出したかのように呟く。

 先々代からオーランド家との繋がりの強かったメディオロ商会はアルマハ村の開発にもかかわっていた。

 それと同時にその村出身の執事とも懇意にしていたのである。

 と言ってもあの執事とは開発に関して衝突することが多かったのは懐かしい記憶だ。

 執事は領主と農民の立場であり、ルトルスは商人の立場である。意見の違いは仕方のないことだった。

 それ以外ではあの執事とは馬が合い、よく飲みに出かけたのをルトルスに思い出させた。

 あの執事とは長い間会っていない。

 商会の取引でオーランドの屋敷に呼ばれることはあったが、あの執事を見かけることは無かった。

 その代わりに不気味な連中がオーランドの屋敷に出入りしているのをルトルスは見ている。

 現在のオーランド家と一歩引いた位置で取引しているのはその為だった。


 と、ルトルスがすこし回想に浸っていると、部屋がコン、ココンと三回ノックされた。正体不明な来客の合図だ。


「何だね?」


「大旦那様に面会人です。アルマハ村の飲み友達と名乗っておりますがいかがいたしましょうか?」


 ルトルスは少し考えた。たった今セルダンが行方不明である報告を受けた所だ。

 その行方不明があの執事に関係するのならランゴルでも有力な商人であるルトルスを頼る事も考えられる。


「判った。会おう。奥の部屋にお通ししなさい。」


 そう言ってメディオロ商会の会頭であるルトルスはゆっくりと立ち上がり奥の部屋に向かった。

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