オーランド家の遺産
魔導士の遺産。
使い魔であるドームはその遺産についても知っている様だ。
僕がこの館を住居として三年は経つ。何故ドームは今になって遺産について話し始めたのだろうか?
「主殿は遺産の事を今になって話すのか疑問に思われていると推察します。」
僕はドームの言葉に頷く。
「今まで私が主殿にお話ししなかったのは、単純に主殿に資格が無かったからでございます。」
「資格?遺産について知る資格や使う資格か……いや、違うな。使う資格ならオーランドの館の転移装置は使えないはずだ。あれは僕が小さいころ、指輪があれば使えた。という事は他に何か機能があるのか?」
「はい、その通りでございます。主殿は“魔導士の遺産について全ての機能を知り使用する資格“を得たという事でございます。」
「全ての機能……やはりオーランドの遺産にも他の機能があるという事か?」
「はい。オーランド家の魔導士の遺産はこの館だけでなく、周囲を含めた広い範囲。“グランケープ”全域と全ての転移クリスタルなのです。主殿は“中級以上の紋章魔法の二重発動“を行った為、その資格を得たのです。」
「待て、待て、待て、何故おまえがその事を知っている?セルダンを倒したとしか話していないはずだぞ。」
僕はドームにセルダンをどの様にして倒したかは言っていなかった。
倒した方法よりもカルミラにどう対抗するべきかが重要だからだ。しかし、ドームは紋章魔法の二重発動を行ったことを知っていた。
あれば偶然あの場で使う事になった紋章魔法だ。見ているか聞いていない限り無しを使ったかは判らないはずだ。
「当然、転送クリスタルを通じて観測しておりました。」
「転送クリスタル?もしかして紋章魔法で使ったクリスタルか?」
「はい。一度、この館と繋がったおかげでクリスタルを通じてそちらの状況を観測することが出来ました。」
転送のクリスタルを設置する事さえできれば館からその場所を観測することが出来るようだ。
今までは遠見の水晶球を使って景色を映し出していた。
遠見の水晶球を使う際、距離が遠ければ使用者の精神力を大量に消費する。
その為、それほど遠くない場所、グランケープ周辺しか満足に見ることが出来なかった。
あまりにも遠い場所、この館からオーランドの屋敷の場合、遠すぎて映像は数秒しか持たない。
「繋がったおかげか……繋がっている転送クリスタルはどれだけあるんだ?」
「はい。グランケープ周辺を含むオーランド領全域ですね。」
「と言う事はこの範囲か……。」
僕は赤いチョークを使い地図に範囲を書き込む。
「主殿、お待ちください。それでは範囲が狭すぎます。オーランド領はこの範囲です。」
そう言ってドームが示した範囲はグランケープ周辺を含む更に広い領地だ。その範囲を見てスティーブンは声を上げた。
「おや、その範囲は……。」
「知っているのか、スティーブン。」
「はい。それは分割譲渡前の旧オーランド領です。七、八代前の時に当時功績のあったオーランド家の物に分割譲渡され、今はルヴァン男爵領となっています。」
「なるほど。」
ドーム達使い魔はアブラハム死後から最近まで新たな主を持っていなかった。その為、オーランド領の範囲が変わったと言う情報を持っていなかった様だ。
「それで転送のクリスタルを使っての観測以外何が出来るのだ?」
「観測以外、と言うよりも範囲内にある転送クリスタルなら、条件なしに自由に使うことが出来ます。」
僕は驚いた顔をしてドームを見た。
「自由に使う?では、僕が使ったことの無い転送クリスタルへの転送も……。」
「はい。問題なく転送することが可能です。」
―――――――――――――――――――――
アイザックたちがドームから説明を受けていた頃、カルミラにアルマハ村での事が伝えられていた。
「何!セルダンが倒された?」
「はい。それも魔力無しの無能と言われた“アイザック”によってです。」
カルミラの前で報告するのはセルダンと共に行動していた魔術師であった。この魔術師、先行したセルダンに置き去りにされたのだがそれが幸いした。
直前に魔術師の目を使っていたことも幸いした。
アイザックとセルダンの戦闘を巻き込まれることなく観察できたのだ。
「アイザックは妙な術を使いそれでセルダン様を殺したのです。セルダン様は骨一つ残さず燃え尽きた様でした。」
「アイザックが骨一つ残さずにか?にわかに信じがたい。ダンジョンの浅い層で出土される魔道具にそこまでの威力は無い。深い層ならばその様な魔道具もあるかもしれぬが、アイザックにそこまでの実力があるとは思えぬ。いったいどのような方法で……。」
カルミラが考えても一向に答えの判らない問題である。やがてカルミラは長くため息をついた。
「問題はセルダンの代わりか。いや、アイザックの代わりでもあるな。誰か適当な者を探す必要があるな。やれやれ、難儀な事だ。」
そう言って再び長いため息をついた。




