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指輪の秘密

 館のエントランスから通路を歩くのは僕とスティーブン、狼の獣人の親子だ。

 残念なことに狼の獣人の親子以外の人は処分されてしまったらしい。


 図書室への長い通路を歩いてゆくと図書室の扉の前、T字路の場所で一人の少女と子供の様な背丈のメイドと執事が僕たちを出迎えた。


「師匠、お帰りなさい。それと、ようこそ。どうぞこちらへ。」


 出迎えたリリアは軽く頭を下げるとT字路の左手側、居住区ヘスティーブンと獣人の親子を案内する様だ。

 リリアに先導されるように獣人の親子は後をついてゆく。僕はその様子を後ろから見ていると執事が声をかけてきた。


「お客様。居住区はあちらでございます。」


 執事が恭しくお辞儀をすると左の方を指し示す。


「おいおい、ドーム。何のつもりだ?」


「はて?私をドームと呼び命令できるのは館の主のみ。指輪の持ち主だけでございます。」


 この使い魔、暗に僕が指輪を渡したことを批判しているのだ。


「ちょっと、ドーム。主殿に対してその言い方は無いのでは?」


「おやキキー、私はこの館にとっても大切な指輪を簡単に渡してしまう主殿へ忠告を申し上げているだけですよ。」


「確かに簡単に渡す事には問題があります。たとえ相手がリリア様でも……。」


 彼ら使い魔からすれば、弟子とは言え簡単に指輪を渡すことを問題視している様だ。


「はぁ。ドームもキキーもこの指輪は一時的に預かっているだけの物だって言ったわよね?」


 廊下の途中で話している僕にしびれを切らしたのかリリアが話に割り込んできた。


「はい、リリア様。ですが主殿は事の重大さを理解しておられない様なので苦言を呈させていただいた次第です。」


「ふむ。リリア様にその指輪を預けたという事はその様な間柄と考えておりましたが……違うのでしょうか?」


「その様な間柄?」


 スティーブンが言う間柄とは何だろう?そう言えば指輪の話をした時も妙なニュアンスがあった気がする。


「アイザック様、オーランド家に代々伝わる指輪を所有できるのは当主の他に次期当主、そして奥様だけです。」


「……あ!」


 スティーブンの言いたいことはよく判る。

 公爵家ともなれば、早くて五歳、遅くても十二歳になるまでに婚約者が決まっている。

 僕は既に十八歳になっていた。奥方もしくは婚約者がいない事は領主として問題がある年齢なのだ。


 どうやら僕がリリアに指輪を渡したことでスティーブンは勘違いをしていたようだ。

 確かにスティーブンの言う通り、オーランド公爵家やオーランド領の将来を考えるのなら婚約者、と言うよりも妻となる者は必要になるだろう。

 しかし、今の僕にそこまで考える余裕はなかった。

 今はセルダンをはるかに超える強敵であるカルミラをどうやって倒すのか?

 それしか頭になかったのだ。


「……すまないスティーブン。その事を考える余裕はない。今はどうやってカルミラを倒しオーランド家を取り戻すのか……それしか考える暇はないのだ。それにリリアも同じ考えだと思う。」


 リリアの方へ顔を向けると黙って頷いた。

 彼女も両親の仇を取らなければならないと考えている。そしてその相手は帝国情報部というカルミラよりも強大な敵なのだ。


 ―――――――――――――――――――――


「セルダンを倒したことでカルミラに一矢報いたと言ったところだが、今後の対応を検討したい。」


 スティーブンや狼の獣人の親子を居住区に案内した後、僕は領主の部屋と言うべき場所、屋敷の一番奥にある部屋の机の上にオーランド領の地図を広げていた。

 部屋の中にはスティーブンの他、リリア、ドーム、キキーモラが一緒に地図を囲んでいた。

 オーランド領には領都であるリダロフ、ダンジョンがある街アンセルム、ランゴル、ナトラ。そしてアルマハを含む数多くの村が存在する。


「転送クリスタルを使ったことのあるアンセルムへはこの屋敷から移動することが出来る。残りのランゴルとナトラへは転送クリスタルの場所に行けば移動可能になる。問題は領都のリダロフか……。スティーブン、屋敷は完全に解体されたのだな?」


「はい。カルミラは屋敷を解体してまで見つけようとする何かがあったようですが、何も見つけることが出来なかったようです。」


 スティーブンは屋敷を解体する時には獣人の呪いを受けて獣人となっていた。その為、屋敷の解体要員として肉体労働を強いられたらしい。


「いったい何を探していたのか?探すと言えばセルダンは指輪を探していたな。それと何か関係があるのか?……どう思う?」


 僕がその場にいる皆に尋ねるとドームが口を開いた。


「主殿。解体された屋敷と言うのはオーランド領主のお屋敷でしょうか?」


「ああ、代々オーランドの領主が住んでいた屋敷だ。」


 僕の言葉を聞くとドームは大きく頷いた。


「やはりそうでございましたか。カルミラとやらが探していたと言うのはこの場所に来るための装置でしょう。」


「この場所、つまり図書館か……。」


「はい。この場所の図書館には魔導士ウィザードの秘術が記載された書籍が数多くあります。むしろその書籍を収める為にここが作られたと言っても過言ではありません。おそらくカルミラとやらもそれを狙っての事でしょう。」


魔導士ウィザードの秘術の書籍か……。だが屋敷の解体ではここへ来る方法が判らなかったという事か……、でも何故だ?」


「オーランド領主の指輪にはここの座標が暗号で記されています。そして、オーランドのお屋敷に在った移動装置は世界を救ったと言われる魔導士ウィザードの遺産の一つで、装置は領主の指輪が無ければ動きません。」


「指輪が無ければ動かない?」


 そう言えば父上は“指輪が無ければ扉を見つけることが出来ない”と言われていた。それは移動装置が動かないという事なのだろうか……。


「はい。指輪は魔導士ウィザードの遺産を動かすためのキーでもあるのです。」

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がいきなり鈍感化してる??
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