反撃への拠点
セルダンは消し炭一つ残さず消滅した。
仮に復活の呪文があったとしても灰さえ残っていないのだから再び会う事は無いだろう。
それにセルダンが今日までやってきた様々な悪行を考えるとセルダンを許すことは出来ない。
だが、これでようやく、ようやく敵討ちの第一歩が踏み出せたのだ。
だが残っているのはカルミラであり、セルダンとは比べ物にならないほどの魔術の腕前だ。
おそらくセルダンの呪文はカルミラから教わった物だろう。
セルダンとは比べ物にならないほどの強力で凶悪な呪文を使いこなすと考えた方が良い。
その上、手下も多いだろう。
「アイザック様。どうなさいましたか?」
考え事をしていた僕にスティーブンが近づいてきた。
「少し考え事を……今後の事とかをね。」
「今後の事……。」
スティーブンは僕の顔をしばらくの間じっと見ると口を開いた。
「かたき討ちをなさる御つもりですか?アイザック様。」
「……ああ。」
「では、このスティーブンにも協力をさせていただきたく思います。」
「!!話はありがたい。だがお前はオーランド家の執事を解雇された。もうオーランド家とは関係のないはずだ。」
すると、スティーブンは静かに微笑む。
「アイザック様。私はオーランド家を解雇されておりません。」
「?いや、たしかカルミラがお前を解雇したと……。」
僕の言葉にスティーブンは首を左右に振る。
「アイザック様。筆頭執事である私を解雇できるのはオーランド家当主のみでございます。当主代理程度に解雇できる権限はありません。ですから私は今でもオーランド家の筆頭執事なのでございます。」
「そうだったのか……なら、ここ数年のオーランド領の状況を話してくれないか?アルマハ村へ来る時も見たが風景が以前見た美しさは無かった。どういうことだ?」
僕はスティーブンにここ数年のオーランド領の状況について聞くことにした。それは考えていたよりもはるかに重大な問題だった。
「疫病があった事と税を増やされた事でオーランド領の人々の生活は苦しくなった上、税の払えない者には厳しい処罰が下されていると……。」
「はい。本来疫病があった際は上に立つ者としてその対策を行わなければならないのですがそれがなされず、さらに税を増やす始末です。あれでは領民の生活が苦しくなる一方です。さらにディラン様やご先祖が研究の末導入された耕作方法も変更してしまいました。」
確か父上とその父、僕の祖父に当たる人の研究の結果、今まで畑を三分割しそれぞれ春麦、秋麦、休耕としていたのを、間に家畜のえさとなる植物を植える事で三分割せずに毎年収穫を得られるようにした。
「カルミラやセルダンが単純に麦の生産を三回にしてしまったのです。当初の生産は確かに少し増えましたが翌年から生産量が目減りしていったのです。」
同じものを続けて作ると土地の活力が低下すると先祖や学者のさまざまな論文やで見た覚えがある。
「領民の為にもアイザック様には立ち上がってカルミラを討ってほしいのです。」
「スティーブン…‥。」
「……と言うのは建前でこのままではオーランド領の疲弊は明らかです。早々に対処しませんとオーランド公爵家は管理不行き届きとして帝国から取り潰される可能性があります。」
ああ、そうだ。スティーブンは優秀な筆頭執事だった。
「いえ、オーランド家の執事としては当然の事です。その為にもアイザック様。カルミラに対抗する為には人を集める他、拠点となる場所が必要となります。多少この私にも心当たりがございますが、いかがいたしましょうか?」
「ああ、それなら問題は無い。その拠点にこれから戻る予定だ。帰る道すがら説明しよう。」
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アルマハ村から近くのダンジョンである草原の迷宮まで徒歩で五日かかった。
魔物の暴走が収まった草原の迷宮には何人かの冒険者が下りて行くのが見える。どうやら元の生活に戻りつつあるように思える。
とは言え、彼らに見つかると色々説明が厄介だ。夜中にこっそりと転移のクリスタルを使い館に戻る。
転移先である館のエントランスに到着した時、スティーブンは周りのすばらしい調度品の数々に目を向けると感嘆の声を上げた。
「ここが!ここが今、アイザック様が住んでおられる場所なのですね。まさかこの様な場所があったとは……。」
「ああ、父上から頂いた指輪がここに導いてくれたのだ。」
「ディラン様が……それでその指輪は?」
「えっとその指輪は今、別の人に預けていて……」
「ほほう!別の女ですか……」
何かスティーブンのニュアンスが違う様な気がするが取り敢えず館の中を案内しよう。




