因果応報
紋章に最後の一筆分を加えた事で二つの紋章が光り輝き回転し紋章魔法の効果が発動する。
「何だ?この光は!?」
セルダンは突然広場を囲むほどの紋章が輝いたことでその場に立ちつくして紋章に見入っている。
その為、手の中で膨らむ収納袋に気付いていない。
「この紋章はいったい……ウォっ!何だ、収納袋が膨らんで……。」
その瞬間、セルダンが持つ収納袋がはじけ飛び中の物が外に出る。
「ウボゥウワ!」
収納袋から以前入れていた予備の道具や食料が溢れ出しそれがセルダンを弾き飛ばしたのだ。
セルダンは広場の入り口近くに吹き飛ばされ尻餅をついている。
“広域魔法消去”効果範囲内にある魔法の効果を消去する紋章魔法だ。
紋章魔法で構成している為、大抵の魔法の効果は消すことが出来る。
その為、セルダンが持っていた収納袋の魔法の効果、“物品を次元の隙間に収納する。”を打ち消し中の物を溢れ出させたのだ。
そして、広域魔法消去の効果の対象になった魔法の物品は魔法の袋だけではない。
ボトッ、ボトッ
地面に二つの首輪が落ちる。
スティーブン達を強制していた“隷属の首輪”が広域魔法消去の効果のよって初期化された。その為、自然に首輪が外れたのだ。
「これは!」
「おお!首輪が……!」
隷属の首輪が外れた事でスティーブン達は自由を取り戻した様だ。
だが、喜んでばかりはいられない。
広域魔法消去はセルダンが使った呪文の効果、僕の右腕に刻んだ“灯りの杖”の刻印も消し去ったのである。
呪術師が唱えた呪文なら完成した時点で、右腕の刻印を消すことは出来なかった。未熟な腕のセルダンが唱えた事で呪文が完成していなかった。その為、右腕にあった“灯りの杖”の刻印が消え去ったのである。
(“灯りの杖”の刻印が消えた事で魔法を使うことが出来なくなった。今のところ、この場所で魔法を使う必要はないが先の事を考えると“灯りの杖”は取り戻す必要がある。)
幸い、灯りの杖はセルダンがさっきまでたっていた所。今は予備の道具の下敷きになっているのが見える。
(何とかあの杖を取り戻して……。)
そう考えていると、村の広場の入り口に子供の獣人を抱えた男が現れた。
「セルダン様。無事でしょうか?」
「おお!お前は!!」
スティーブン達は咄嗟に動こうとするが、男はその動きを見て子供の獣人の首にナイフを突きつけた。
「おっと!動きなさんなよ。でないとこの子供の命は保証できませんぜ。」
よく見ると獣人の子供の首筋には獣のような物に噛まれた跡が残っていた。獣人の再生能力をもってしてもなかなか治りにくい傷の様だ。
吹き飛ばされたセルダンはゆっくりと立ち上がると男に近づいていった。
「クハハハハハ!これで形勢逆転だな!アイザック!」
セルダンは舌なめずりをしながら僕を睨みつけた。
僕が魔法を使う為に必要な“灯りの杖”は荷物の下敷きになっている。その上、広域魔法消去の効果で“灯りの杖”の刻印は僕の右手から失われてた。
「形勢逆転?別に先ほどから変わっていないが?」
「フハハハハ。強がるのはよせ。」
「強がりじゃないさ。君の様に子供を人質にしないと何もできないわけじゃない。」
僕は口の端を上げニヤリと笑いセルダンを挑発する。
「アイザック!」
セルダンは激高してこちらを睨みつける。更に僕はセルダンを煽る。
「無理!無駄!君が出来るのは……そうだな、出来損ないの未熟な呪文だけだ。」
そこまで言うとセルダンは顔を真っ赤にして両手をこちらに向けた。
「出来損ないだと!お前がそれを言うのかっ!許さぬ!許さぬぞアイザック!!」
”出来損ない”と言うのはセルダン達にさんざん言われた言葉だ。セルダンは”出来損ない”と言っていた相手から同じことを言われて頭に血が上った様だ。
「喰らえ!我が呪いの炎によって喰われてしまえ!呪炎!」
僕に対して構えたセルダンの両手から炎が吹きあがった。
炎は僕とセルダンがいる場所。丁度中間地点に進み、そこでしばらく空中に浮かんでいたがやがてものすごい早さでセルダンの元へ舞い戻った。
「な!何だと!呪文が戻ってきた!」
舞い戻った唱えた呪文の炎はセルダンに襲い掛かる。
「ウギャァッ!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!」
セルダンは見る見るうちに呪文の炎に飲み込まれ、やがてこの世界から消えていった。
「”出来損ないの未熟な呪文”と言うのは訂正だ、セルダン。最後に完全な呪文を唱えることが出来たんだな……。」
セルダンは人生の最後に完全な呪文を唱えたのであった。




