秘密基地
草むらから出てきた者は背が低く子供?の様に思えた。
子供?はクンクンと鼻を鳴らしながらリリアの方へゆっくりと近づいてゆく。
「え?この子?人??」
「……おなかすいた……。」
そう言うと子供?はぱったり倒れてしまった。
「リリア。その子を秘密基地の中へ移動させよう。」
秘密基地には秘密基地と言うだけの特殊効果がある。
この秘密基地は外から感知することを困難にする機能がある。この魔法は複雑で大きな魔法陣であるため紋章魔法でなければ使えない。その為、魔導士でしか使うことが出来ない。
貴族院では”避難場所の魔法を誇大な表現を使った”とされていた魔法だ。
(秘密基地と違い避難場所は収容人数が最大二人、部屋も一つだけで付属品はない。)
僕は子供?を秘密基地の中へ移動させようと抱え上げた。
子供を抱えた時にその異常な軽さに驚く。よく見ると子供?の頬はこけ、体はやせ細りもう何日も食べてはいない様子だった。
空腹のあま近づいたのだろうか?それなら何故リリアなのだろう?
「リリア。何か持っていないか?」
「おやつのビスケットをポケットに入れていますね。狩りをする時の鳥を集めるのにも使えますし。」
どうやらビスケットの匂いにつられて思わず出てきてしまったのだろう。
それに、リリアがいたことも出てきた要因かもしれない。
「これだけ痩せていたらビスケットは危険だな。スープ辺りがいいか……。リリア用意できるか?」
「はい!師匠!任せてください!」
リリアは胸をたたいて返事をした。
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秘密基地の中には家だけあっていくつかの部屋があった。それが食堂や台所、寝室である。
この秘密基地の寝室にはベッドが四つ並べられており最大四つが使うことが出来る。
僕は置かれているベッドの一つに子供?を寝かせ治療の為に服を脱がせた。
子供?の手足は逃げる時に草木で引っ掻いたのであろう擦り傷が無数にあった。背中には大型の獣に引っかかれた様な傷も見られた。
「血は止まっているが念のためだ。」
僕は杖を取り出すと簡単な紋章を二つ描き順番に発動させる。
「活力付与」
「肉体活性化」
活力付与は体力が減った肉体に活力を与える魔法で、肉体活性化は肉体を活性化させ自然治癒の速度を速める魔法だ。
単純に肉体活性化だけでは体力が枯渇してしまう恐れがあるため唱えたのだ。
それに肉体活性化は速度を速めると言っても自然治癒なので目に見えて治りがよくなるものではない。
精々治癒に1週間かかるところを三日で済ませる程度である。
「なん……だと?」
肉体活性化を使った子供?の体の傷跡は見る見るうちに治ってゆき、極わずかな時間で完治してしまった。
「この自然治癒の速さは!この近辺であの呪文が使えるのはあいつらしかいない……。」
僕は最悪の事が起きていると考え苦虫をかみつぶした。
(さて、後はどうするか?このまま村に行っても……)
僕が今後の行動を思案している子供?は目を覚ました。
「……ここどこ?」
子供は少し不安そうな顔で辺りをキョロキョロ見ている。
その時、台所の方からスープの良いにおいが漂ってきた。
ぐぅうううううう
子供?の腹の虫が鳴る。
話をするのなら食事のあとがいいかもしれない。
「おなかがすいただろう。食堂へ行って何か食べよう。」
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寝室を出ると入口の広い部屋から続く廊下があり寝室の向かい側に食堂と台所がある。
食堂には木製の長テーブルが置かれ長手方向の左右両側に背もたれのない丸椅子が二つ並べられている。
僕と子供?が食堂へ移動すると丁度リリアが食事の用意をしている所だった。
丸椅子に座った僕と子供?の前にスープの入った皿が置かれ、テーブルの中央には籠いっぱいに小さなロールパンが入っていた。
リリアは少し冷ましたスープを皿によそい子供?の方へ差し出した。
「食べる?」
子供?はしばらくの間、皿のスープとリリアの顔を交互に見ながら逡巡していた。やがておずおずと皿に手を伸ばす。そして手に取った瞬間、屈みこみごきゅごきゅと夢中になって飲み始めた。
そして飲み終わると安心したかのようにほっと息をついたと思ったら意識を失った。
「!」
僕は慌てて駆け寄るがゆっくりと胸が上下するのを見て少し安心する。
「……疲れて眠っているだけだ。おそらくここまで逃げるのに体力を使い果たしたのだろう。どうやら食事が出来て安心したのだな。」
「でも、師匠。この姿はいったい?」
疲れて眠る子供?の顔は人間の子供の様なのだが頭には特徴的な耳、ウサギの白い耳がついていた。
手足に薄っすらと白い産毛が生えており人間の手とウサギの手を混ぜたような形をしている。
「……これは呪い。獣化の呪いだ。」
 




