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反撃の代償

「セルダンはアイザックに剣術で勝ったのですか。それでは何かご褒美を挙げなくてはいけませんね。」


 カルミアはグレオからの報告を受け驚いている。が、どこかわざとらしい。


「それに対しアイザックはセルダンに何もできなかったと言おうでありませんか。公爵家の跡取りとして嘆かわしい限りです。これはなにか罰を与えなければなりませんね。」


 カルミアが与えた罰は食事に対する物だ。その日から僕の食事は白いパンではなく黒パン。一緒に出される肉も柔らかいサーロインではなく固い部分、スネやモモ肉らしい。スープも根菜の入ったものだ。これらは使用人の食事に近い物だった。当然、デザートや菓子の類はない。


「アイザック、何か不満ですか?ならばセルダンに勝てばいいのです。最も勝てればですが。」



 今の状況を父上に訴えることも考えた。

 しかし、訴えたことで父上の心労が重なり病状が悪化する可能性がある。それを考えると僕は父上に訴えることが出来ずにいた。

 だが、その数日後、父上に呼ばれた。執事のスティーブンは僕を見かね父上に報告したらしい。


「アイザック。家の事で何か困っていることはないか?」


「いいえ、何も問題はありません。それに困っていることがあっても対処は出来ます。」


 僕は父上にきっぱりと断言した。


「そうか、ならば何も言うまい。それと、これを渡しておこう。」


 父上に渡されたのは公爵家の図書館へ入る為の指輪だった。この指輪さえあれば公爵家の図書館へ入ることが出来るそうだ。


「それがあればお前は好きな時に本が読めるだろう。私はしばらく使うことが出来ないから、お前が持つのが良いだろう。」



 父上に何も問題はないと言ったのは、僕には考えがあったからだ。

 あまり剣術が得意とは言えないセルダンに打ち込まれるのは最初の走り込みで疲労困憊になるからだ。なら、極力体力を温存しセルダンにあたれば勝てそうに思える。

 しかし、セルダンは僕の体力がなくなり動けなくなるまで訓練場に来ることはない。グレオが僕の様子を見てセルダンに合図をしているのだろう。

 それなら、グレオの目をごまかせばいい。あまり露骨ではなく一、二撃出来るだけの体力があればいい。


 それから数ヶ月、僕は何も行動を起こさなかった。その間、じっくりと走りこみ体力をつけた。そしてセルダンの動きやグレオの動きを観察し続けた。


 この頃のセルダンは僕の分のデザートや菓子も食べているので少しふくよかになってきている。当然その分、剣の動きも少し鈍くなってきていた。反撃するなら、今が良いだろう。


 僕はいつもの様に走りながら、疲れてきたかの様にゆっくりと速度を落とす。いつもより少し早く速度が落ちた為、グレオは首をかしげている。グレオに考えさせる時間は与えるべきではない。僕はすぐさま片膝をつき呼吸を整え休憩する。

 僕が呼吸を整えている姿を見てグレオは慌てて何やら操作をしている様だ。どうやら魔道具を使い合図を送っているらしい。

 グレオが合図を送ったと思われてから時間をおかずセルダンがやって来た。やはり体重が増えている分、やって来るのが少し遅い。


「さあ、兄上。今日もこの私が兄上に剣術と言う物を教えて差し上げますよ。」


 ニヤリと笑うとセルダンは木剣を構え打ち込んできた。


(予想通り!)


 セルダンは僕が疲れ切っていると思っているのか、木剣を大上段に構え斬り付けようとしている。僕は昨日までの様に動けないわけではない。動く体力は十分ある。

 僕はセルダンに対し素早く体の軸をずらす。大きく振りかぶり斬り付けようとしていたセルダンの木剣をいなし跳ね飛ばした。

 両手を高く上げたセルダンに僕は木剣をつきつける。


「これで僕の勝ちだな。セルダン。」


「見事です。アイザック様」


 突然の拍手に振り向くと、執事のスティーブンが僕に拍手を送ってくれていた。どうやらこっそり隠れて見ていたらしい。


「ここ数ヶ月どうなさるのかと黙って見ておりましたが……実に見事な勝利です。さ、お疲れでしょう。」


 スティーブンは僕に駆け寄ると汗拭きを差し出した。


「ありがとう。何とか勝てて良かったよ。」


 僕はスティーブンから汗拭きを受け取るとにこやかに笑顔を向けた。



「こ……」

「この出来損ないの魔力無し風情が、この偉大な僕に傷をつけたな!!」


 セルダンは目を血走らせ激高している。右手を僕の方に突き出し呪文を唱え始めた。セルダンの精神力が指輪に融点されていく様に見える。


「許さない!我指輪に願う、指輪よ!我が敵に炎を放て!」


呪炎カースフレイム!」


 セルダンの指輪が壊れると中から黒い炎が噴き出しこちらに向かって来る。


「危ないアイザック様!!」


 スティーブンは僕の前に立ち黒い炎を左手で受け止めた。黒い炎はスティーブンの腕を蝕むかの様に広がってゆく。


「この炎は……くっ。」


 スティーブンは膝をつき息も絶え絶えになるがセルダンを睨みつけた。


「セルダン様。この事は旦那様に報告いたします。」



 だが次の日の朝食の時、いつもなら立っているはずのスティーブンがいなかった。スティーブンがいない事を僕が気付いたのを見たセルダンはニヤリとこちらを笑った。


「ああ、執事の彼、スティーブンと言ったか?彼は辞めたよ。何でも兄上を庇った傷が原因で父上の部屋の前で母上に大失態を犯したらしい。まったく、魔力無しを庇うと碌なことが無いな。」

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