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残された者たち

 薄暗い部屋に目が慣れてくると部屋の様子がよく判ってきた。

 どうやら少年を含めると五人の子供がこのギルドに隠れている様だ。

 槍を構えていた少年の後ろにはもっと小さい子供達が僕やリリアを恐る恐る見ている。


「……お兄さんたちはクレイさんに頼まれてここに来たの?」


「クレイさん?」


「!」


 僕の言葉に槍を構えていた少年は驚いた顔をした。


「……頼まれた人じゃない!?」


「いや、僕たちは別の町に行く途中に立ち寄っただけだ。ところで君たち以外の人は?」


 僕がそう言うと少年は少し悲しそうな顔をした。どうやら何かおかしなことを言ったらしい。


「……大人たちはここを出て行って……誰もいない……。」


「?」


「去年、ここでたくさんの人が病気になって倒れた。死んだ人もたくさんいた……。」


 少年の言葉でこの町に人がほとんどいない理由が判った。


 疫病だ。


 この町、アンセルムに疫病が発生し多くの住人が死亡したのだ。そして生き残った者たちはアンセルムを放棄した。

 そして彼らが未だアンセルムにいる理由は孤児だからだろう。彼らがここに居るのは連れて行ってくれる大人がいない。死に別れたかもとよりいない孤児だった子供達だろう。


「でも、人がいなくなって半年は経つのにお兄さんたちには知られていないのか……。」


「いや、あれだ、ほら、この近くにダンジョンがあるだろう。その転送クリスタルを使うためだよ。」


 事情通でない限り田舎の町の様子など知ることはない。

 しかし、僕は秘密裏にオーランドへ入ったため変に慌ててしまった。

 幸い少年は別のことに気を取られていたのか怪しまれている様子はない。


「クリスタル!そうだ、クレイさんはダンジョンの様子がおかしいからクリスタルでルヴァンに行くって言っていたんだ……。」


 少年の話から推察すると”クレイ”と言う名の冒険者が転送クリスタルでルヴァンに移動しようとしていた。

 おそらくダンジョンの様子を知らせるつもりだったのだろう。帝国は人が行かなくなったダンジョンを調査する為、冒険者に依頼を行う事があった。ひょっとしたら帝国のダンジョン調査の依頼なのかもしれない。


 だが、クレイが転送クリスタルの場所にたどり着いた時にはミノタウロスがいたのだ。

 クリスタルの近くにミノタウロスがいた場合、転送クリスタルは使えない。だがミノタウロスを排除してクリスタルを使える様にする事は出来る。そして、その方法もいくつか考えられた。

 それをしなかったと言う事はミノタウロスがこの街に来ることを恐れたのではないか?

 つまり、残っている子供たちに被害が出る事を恐れたのかもしれない。(それを考えるとクレイはこの町で子供たちの面倒を見ていたのだろう。)


 この想像は間違っていないと思う。


 何故ならミノタウロスを避ける最も簡単な方法は子供を囮にする事だからである。


 それにクレイは腕の良い冒険者なのだろう。その証拠は僕たちが森で出会ったミノタウロスなのではないか?

 子供に被害を出さない様にクレイはミノタウロスを森まで誘導したのだ。

 そしてクレイはそのまま森を抜けルヴァンを目指したのだろう。


 問題は魔物の暴走(スタンピート)まであとどれだけの時間の余裕があるかだ。


「えーっと、槍を持った君?」


『……ティム。おいらはティムだ。」


「判った、ティム。じゃあ、君に尋ねるけど、クレイさんが出て行ったのはいつの話だ?」


 何時クレイが出ていったのかを知れば魔物の暴走スタンピートまでどれだけ余裕があるのかがわかる。

 今までの事例からすると中層の魔物が外で発見されて魔物の暴走スタンピートが起こるまで長くて十日、一番短かった時で三日だ。


「クレイさんは一昨日に出て行ったんだ。」


 僕はティムの言葉を聞いて少し考え込む。

 クレイが出て行って二日は経っている計算になる。

 最悪、猶予は一日しかない事になる。


「師匠、難しい顔をしていますが何か問題でも?」


 僕が考えていたのは、転送クリスタルの今の状況だ。

 通常、転送クリスタルは安全地帯にあるので問題なく使える。

 しかし魔物の暴走スタンピートが起こった場合、ダンジョン入り口に魔物が溢れ出すことになる。

 この場合、はたして転送クリスタルは使えるだろうか?

 使えるのなら子供たちごとルヴァンへ転移できるが、使えない場合、魔物の暴走スタンピートの犠牲になるだけだ。

 今、僕たちがとる手は一つしかない。


「ティム。僕は転送のクリスタルを見に行く。君たちはこのギルドの二階に上り内側から固く戸締りをするんだ。助けが来るまで決して開けてはいけない。それと……リリア。」


 僕はリリアに行って当面の食料を魔法の鞄ホールディングバックから取り出す。


「食料は十日分置いておく。火を使わなくても食べることは出来る。後は水だが……。」


「水ならクレイさんが置いていった魔道具があります。」


「そうか、それなら当面は安心だな。じゃあ、さっき言ったことを忘れずに実行するんだよ。」


「お兄さんたちは?」


「もしもの為の時間稼ぎだよ。」


 僕は心配そうにこちらを見るティムに笑って返事をした。

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