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ゴーストタウン

 アンセルムは小さい町だが近くにダンジョン、“草原の迷宮”があるおかげで冒険者ギルドが存在する。

 “草原の迷宮”は中規模の迷宮であり階層は二十階層、最適な冒険者の等級は初級から駆け出し、ティンから白木ホワイトの冒険者である。

 森で倒したミノタウロスはこの“草原の迷宮”では最下層のみに出現する魔物だ。


 町の周囲には1mほどの高さの壁と1m程度の浅い堀があるだけで町自体の防御力はさほど高くない。その為、身分証明無しで簡単に侵入することが出来る。

 簡単に侵入できるが盗賊の様な無法者はいないしスラムも無い。

 帝都とは違い田舎の町のため物価は安く駆け出しの冒険者の数も結構多い為だろう。

 その上、“草原の迷宮”の魔物を狩って産出される素材も初級までの物であり旨味が少ない。


 僕がアンセルムの町に近づいても壁の向こうに見える町並みからは何の音も聞こえてこない。

 町の南にある門には守衛が立っているはずだが誰もいなかった。


「……守衛がいない。変だな、少なくとも一人は立っていなければならないはずだ。」


 僕とリリアはゆっくりと南の門に近づき南門の前に立つ。

 昔、アンセルムの町に訪れた時は南から北へ抜ける長い通りがあり、道の両側は冒険者や商人相手の宿、商店、酒場などで賑わっていた。

 今は通りにだれ一人おらず見る影もない。

 時々吹く風が通りに面した店(酒場だろうか?)の扉をキィキィと揺らしていた。


「リリア。僕は呪文を使い人がいないか調べてみる。君は誰かが近づかないか周囲を警戒してくれ。」


 僕はリリアにそう言うと魔法の準備を行う。

 今回使用する魔法は探知魔法の一つ、“生命力探知ディテクト・ライフ”だ。この魔法は生きている対象の生命力に反応する。

 対象があまりにも小さな生命(虫など)には反応しないが猫や犬などの小動物は探知することが出来る。

 当然、人間の子供でも探知可能だ。

 少し大きめで複雑な紋章を描くと紋章に力を籠めた。紋章は大きく広がり光り輝く。


生命力探知ディテクト・ライフ


 大きく広がった紋章は小さな町の全体に広がり、町の中に存在する生命の情報を運んで来る。

 どうやらゴーストタウンになってはいるが何人かは残っている様だ。

 だが、この反応の大きさからすると子供の様だ。


「位置からすると冒険者ギルドのある位置だな。リリア、冒険者ギルドに何人かいるようだ。行ってみよう。」


 冒険者ギルドは町の通りの中ほどにある。

 人の見当たらない町のギルドは異様な場所に見えた。

 ギルドには物見やぐらを備えた建物になっておりいち早く魔物の接近を見つけ町中に知らせることが出来る様になっているみたいだ。

 ただその物見やぐらも長い間使っていなかったのか屋根は朽ちている様に見えるし人は常駐していない様だ。

 そして通常は開き放たれているギルドの扉は固く閉ざされており中を窺うことが出来ない。


「師匠。ギルドが完全に閉まっています。やはり、このギルドは活動していないのでしょうか?」


「活動はしていないのかもしれない。けど、この扉の向こうに何人かいるようだよ。」


 そう言って僕はゆっくりと扉を開いた。

 開いた扉から中を覗くが少し薄暗く良く見えない。窓を閉め切っているのだろう。中には誰か潜んでいる気配が幾つかある。が、その気配は小さな物だ。

 僕は注意深く足を踏み入れた。


「止まれ!」


 僕が止まる様に言う声が聞こえた。声は低い位置から聞こえてきた。声から考えると少年の様だ。

 目を凝らして声が聞こえてきた方を見る。

 そこにはやせ細り槍を構え矛先をこちらに向けた少年の姿があった。


「お前は何者だ!なぜここに来た!」



 どうやらこの場所に隠れ住んでいる様だ。少年が真っ先に出てきたところと探知の反応、斥候スカウトとしての感知から考えると他に大人はいないように思える。


「僕は冒険者だ。ランクは辰砂レッド。ほら、冒険者認識票ギルドカードはこの通り。」


 そう言うと懐から辰砂レッド冒険者認識票ギルドカードを見せた。

 ここが冒険者ギルドと知っているのなら取り敢えずは話をすることが出来るだろう。


「冒険者……本当に……」


 そう呟く少年の槍の矛先が徐々に下を向いて行った。

 どうやら話を聞いてもらえそうだ。




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