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オーランド領への旅路

 魔導士の館からオーランド領へ直接行くことはできない。

 昔(僕が子供の頃)は出来ていたのだけれど、オーランド領側に何か問題があるらしく転送クリスタルが使えないのだ。

 その為、転送クリスタルで移動できるところまで移動した後、歩いて移動するしかない。


 転送クリスタルで移動しても問題は山積みだ。

 僕には冒険者認識票ギルドカードがある。その為、途中の村ならまだ何とかごまかせる。

 ただ少し大きな町の場合、冒険者認識票ギルドカードを照会されると手配されていた場合(まず手配されていると思う)捕まる可能性がある。

 冒険者認識票ギルドカードを検査の水晶球に近づけた時に水晶球に反応があるそうだ。冒険者認識票ギルドカードは便利な身分証明書である為、犯罪者として手配されている者がすぐわかるようになっているのである。

 検査用の水晶球が置かれているのは中規模の町(例外もある)なので、小さな町や村にしか行くことが出来ない。


 そして領境には砦があり、その砦でも検査用の水晶球があり検査をしている。

 これは領内で罪を犯した者が別の領内で罪を犯した場合、領民の管理責任を問われるからだ。従って領境の砦の検査は特に厳しい。

 その為、犯罪者などの帝国から追われる者達は砦を通らない道、道なき道を行くことになる。


 僕とリリアが進んでいる道もその一つで魔物が跋扈するクウェイク森林だ。


 クウェイク森林はオーランド領とエアリアル領との間に位置する森林だ。森林には霊峰”グランケープ”からの雪解け水が流れ込むため、みどり豊かな森林を形成していた。

 その為、森は小動物から魔獣まで幅広い動植物の宝庫になっている。


「師匠、このまま真直ぐ進むのですよね?」


 リリアは足元の絡みつく蔓草をかき分けながらゆっくりと進んで行く。

 体に軽い皮鎧、いわゆるライトレザーを着け膝下まであるブーツを履いている。左手に小盾、右手に持ったショートソードで蔓草をかき分けている姿は一端の冒険者の様にも見えた。

 父親であるモーリスさんから剣の指導を受けていたのか剣の扱いは僕より様になっている。


「そうです。まっすぐ進むとオーランド領にあるダンジョンの一つに着きます。今日はそのダンジョンのクリスタルの位置を記録する予定です。」


 ルヴァンから離れた位置にあるダンジョンの転移クリスタルから魔導士の館に転移すると次からそのダンジョンへ転移することが出来る。

 オーランドの屋敷から転移出来た事を考えると、オーランド領のダンジョンの転移クリスタルからも転移可能なはずだ。


「それとまっすぐ進むのは良いですけど、周囲の警戒を怠らないようにね。」


「はい!師匠、判りました!」


 クウェイクの森は魔獣がいるとは言っても危険な魔獣は森の奥深く最深部である。

 今いる場所は森の中域近くであり、危険な魔獣が出ると言われる最深部よりもかなり離れていた。

 その為、命が危険になるような魔獣は出ないと考えていた。


「?!待て!リリア、前から何かが来る!」


 僕はリリアを引き寄せると空中に防御の紋章を描く。

 空気が震えキューンと小さな音がして空中の紋章が光った。


防御陣プロテクションシールド


 紋章が輝くと僕の前に半透明な半円状の盾が出現する。

 盾が出現した次の瞬間、蔓草の間から数頭の鹿が飛び出してきた。

 何頭かの鹿は半円状の盾にぶつかり倒れるがすぐに起き上がり猛烈な勢いで逃げ惑う。


「鹿?何かから逃げている様な?」


 リリアが逃げ惑う鹿を見て首をかしげていると鹿が逃げて来た方角から大きな唸り声が響いた。


「ヴォモォォォォォオ!」


 唸り声がした方角の蔓草の奥から牛の頭をした者が飛び出してきた。

 身の丈は2mを優に超えていて、逞しい体、その体を支える両足の先は牛の足の様に蹄がある。

 腰には何かの動物の毛皮で作られた腰布を巻いており、筋骨隆々の両手は巨大な斧を両手で持っている。

 牛の頭の角が僕やリリアに襲い掛かった。


 ガッ!


 幸い、防御陣プロテクションシールドを展開し構えていたおかげでダメージは軽く、後ろに少し押し込まれた程度だった。

 ミノタウロスは通常、ダンジョンの中層域に出る魔物だ。魔獣と違って通常は森で見かけることは無い。

 森で見かけた場合は特別な意味を持つ。


「ミノタウロスか!だが何故このような場所に……。考えるのは後だ!リリア、討伐するぞ。」


「はい、師匠!」


 リリアはそう返事をするとミノタウロスに対しショ-トソードと小盾を構えた。

 ミノタウロスは突進した反動で動きが少し止まっている様だ。頭を突っ込むような体勢になっており武器を振るえる様な姿勢になってはいない。

 だが、そこは魔物である。

 不利な体勢から力任せに両手斧グレートアックスを振り回した。


「おっと。」


 不利な体勢からの攻撃であった事も幸いした。僕はミノタウロスが振り回す両手斧での攻撃を躱す。

 僕の場合、リリアと違い盾は持っていない。鎧は同じようなものだが、軽い皮鎧ライトレザーでミノタウロスの両手斧グレートアックスに耐えるほどの防御力はない。


 ブォンブォンと唸る致死性の両手斧の刃が僕の頭上や体の横を通り過ぎる。

 僕はミノタウロスの攻撃を躱しながら紋章を描く。少し甲高い音と共に描かれた紋章が輝き甲高い音が鳴る。


雷撃雲スパーククラウド


 雷撃雲スパーククラウドの魔法は雲の中にいる者に電撃のダメージを与える。そして、副次効果としてダメージを受けた相手をわずかな時間だけ麻痺させるのだ。


「リリア!」


 リリアが紋章を描き輝くとショートソードが青白い光を放つ。


氷剣付与エンチャントアイスソード


 リリアは氷剣付与エンチャントアイスソードが付与されたショートソードでミノタウロスの手や足に何度も斬り付ける。

 切り付けられたミノタウロスはその傷口から凍ってゆくようだ。

 手足を凍らせることにより相手の攻撃速度や移動速度を落とし魔法を使う時間を稼ぐ方法だ。


 リリアが攻撃している間に僕は次の魔法の紋章を完成させる。

 完成させた紋章は先ほどの雷撃雲スパーククラウドの紋章より複雑でありさらに甲高い音が鳴り響いた。


岩石圧殺ロッククラッシュ


 ミノタウロスの頭上に巨大な岩石が出現し、ミノタウロスを押しつぶす。

 巨大な岩石はミノタウロスに断末魔の悲鳴を上げさせることなく絶命させた。


「ミノタウロスがダンジョンからあふれ出たのか?」


 この事はきちんと管理されているはずのダンジョンで問題が起こっている事を表していた。




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