オーランド領
オーランド公爵領、クリティアス帝国の首都フィロソフィアから見て北西にある広大な領地だ。
領内は土壌がよく肥えており初夏には黄金色の穂が美しく実る。この領地は帝国内の穀倉地帯の一つになっていた。領内の町や村は活気にあふれ子供たちが元気に遊ぶ。
また、領地内にもダンジョンがある事でそこからの出土品もオーランド領を富ませていた。
だがそれは昔の話。
今のオーランド領は荒廃の一途をたどっていた。
きっかけは領内には疫病が蔓延した事だ。
オーランド領では疫病が蔓延し始めた頃に有効な手を何一つ打つことが無かった。その為、数多くの働き手が疫病に倒れた。働き手が減ったことで手入れされない土地が多くなる。必然的に土地は荒れ果て畑の実入りも悪くなっていった。
黄金色の穂が実っていたのは昔の話である。町や村で遊ぶ子供たちはほとんど見かけることはない。
見かけても栄養不足の為だろうか、肋骨が浮きあがるほどのやせ細った体をしていて腹が異様に膨れた子供がほとんどだった。
オーランド領内で北西にあるアルマハ村。
人口は二十人足らずの小さなで、村の真ん中には村長の家がありその村長の家を取り巻く様に他の家がぽつぽつと建っていた。村の周りには背の低い、腰の高さ位の申し訳程度の柵しかない。
近くの畑では主に麦を栽培しているが、今年の畑の麦は実りが悪そうだ。収穫しても村の者が食べて行く分があるか疑問である。
元々アルマハ村の周辺の土地はあまり肥えていない。さらに、川から遠く灌漑設備がないので土地に水を引くことが出来ない。水を作る魔道具頼みの土地である。
魔道具は貴族しか使うことが許されていない。だが、領主の責任において許可した場合、使用することが出来る。
アルマハ村は領主に使用料を払い、水を作り出す魔道具を使っていた。
しかしここ数年、領主に支払う魔道具の使用料が高くなり村の人々の生活を苦しめている。
赤貧ともいえるアルマハ村に槍や剣を持った鎖帷子の男たちが近づきつつあった。
村ではまだ明るい内から村長の家に村の者が集まっていた。
村長の家は村の中心部にあり他の家よりも少し大きい。だが、村の者(と言っても十人足らずであるが。)が集まったためか少々狭く感じられた。
集まった者の中で少し体格の良い男が初老の村長に詰め寄っていた。
「駄目だ!村長!俺たちはもう我慢できない!このままじゃ飢え死にするしかない!領都へ陳情に行ったが領主の野郎!魔道具の使用料をさらに吹っ掛けてきやがった!」
「できた麦はほとんど領主が持ってゆく。残った麦も水を作るための魔道具の代金に使われる。これじゃ俺たちが食べる物が無い。」
「村長の言葉通りしばらく我慢して待っていたがもう限界だ!領主は村に来たことが無いから村の現状が判ってないんだ!」
「村長、確か言っていたよな。領主がアイザック様に代われば村の事も少しマシになるって……だがどうだ!マシになるどころか苦しくなる一方だ!あんたの見込み違いじゃねぇか!」
村人に詰問される村長は苦渋に満ちた顔をした。
「……確かにわしはそのように言った。今は無きディラン様やカトレア様のお子様なら慈悲深いお方だろうと思っていたのじゃ。昔、この村に来られた時にお見かけしたがディラン様譲りの髪の上、利発でやさしそうなお子様に見えたのじゃ……。」
前領主であるディランはアルマハ村へは何度か訪れていた。将来、灌漑設備を導入するまでの繋ぎとして水の出る魔道具を貸し与えていたのだ。
ディランがこの村に来る時に妻のカトレアや息子のアイザックを連れてやって来ることは何度かあった。
村長はその時にアイザックを見たことがあるのだ。
だが、男は村長に言葉が言い訳に聞こえたのか額に青筋を立てた。
「利発でやさしそう?何言ってやがる!あんな底意地わるそうな金髪豚は見たことがねぇよ!」
男の言葉を聞き、村長は首をかしげる。
「金髪?」
その時、ドアの外の様子が騒がしくなり不意にドアが開いた。
ドアが開くと同時に槍、剣、鎖帷子で武装した男たちがなだれ込んできた。
「「「??????」」」
それまで村長に詰め寄っていた男は突然の侵入者に少し腰混乱している様だった。
男達のリーダー格らしい男が手にした剣を近くの男に突き付ける。
「皆捕らえよ!一人も逃すな!抵抗する者は殺しても構わぬ!」
片や武器を持った者、片や素手。
勝負にならないのは明らかだった。の場にいた村の男たちは武装した男たちによって次々に捕縛されてゆく。捕縛された者は男達に引っ立てられ村長の家の前の広場に集められた。
村長の家の前の広場にはなだれ込んできた者たち以外、1小隊分の武装した男たちが並んでいた。その周りで他の住人たちが村長たちを遠巻きに見ている。
男たちを割って金髪で太った男が肩で風を切りながら前に出てきた。
「ふむ、お主が村長か……初めて見る顔だな。私が領主のアイザック・オーランドだ。」
アイザックと名乗る金髪の男はグルリとその場に集められた男たちを見る。
「だが、貴族である私を豚呼ばわりするのは不敬である。よって罰を与える。」
男は手のひらを捕縛した村長や村人たちへの方へ向けた。
「呪炎」
黒く禍々しい炎が捕縛した村人たちを包む。
「「「「「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
程なく、捕縛された村長や村人たちは黒い炎に焼かれ灰となった。
「……何てことを、村長は関係ないのに……」
遠巻きで見ていた村人の一人が呟いたのを聞いたのか男は口をゆがめた。
「不敬である男を出したのは村の責任、つまり村長の責任でもある。よって村長も同じだ。同様に口答えするお前も……。」
「ひぃひぃい!!」
怯える村人を見た男はニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。
「……いいことを思いついたぞ。」




