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魔導士の館と使い魔

 翌日、僕は屋敷の探索を再開した。

 リリアちゃんは居住区の片づけや部屋の整理があるとかで同行していない。


 この屋敷は複数の建物が回廊でつながっている。それぞれの建物が居住棟や図書室、実験室と言った何らかの施設でありそれらが集まって一つの屋敷を形作っている。


(貴族院と建物の配置が似ている。でも建物は貴族院よりも様式が古い。オーランドの屋敷と同じくらいだろうか?)


 僕たちがいる建物は真新しく建築されたばかりの様である。

 しかし、建物は真新しいのに建築様式は今の様式ではなく古くからある屋敷とどこかに通っている。例えるなら、古代遺跡が真新しくなった様なものなのだ。


(貴族院と同じ構造なら僕たちが最初に転送されたエントランスホールは出口につながっている。貴族院で中心となっているのは院長室だった。配置から考えると図書館の奥の庭の先に院長室?があるはずだ。)


 僕は慎重に奥の建物を目指す。各建物がよく手入れされているところを考えても誰かいるはず。姿を見せないのはどの様な理由だろうか?


 奥の建物はさらに古い様式で、もはや古代遺跡に近い建築物だった。にもかかわらず建築されたばかりに見える。

 建物の扉の前には石畳のポーチがあり、左右には背の高い植え込みが建物に沿って長く続いている。その植え込みがこの建物を見えにくくしているように思えた。

 そして石畳のポーチの上には砂ぼこり一つ落ちていない。


「さて、この先に何があるか……?」


 建物の扉は両開きの木製の扉なのだが開ける為の取手が付いていなかった。左右の扉の取手がある位置には白銀色の長方形のプレートが付いていた。


(この光り方……ミスリルか?)


 僕が扉の金属を確認しようと指を伸ばし触れるとプレートが虹色に輝く。プレートに触れた指を離すとプレートは元と同じ銀色の光に戻った。


(触れると反応がある。扉の取手の代わりなのか?けど、少し触れただけでは開かないな。)


 僕は両手を左右の扉についているプレートに触れる。

 左右のプレートから虹色の光が同心円状に輝くと扉は音もなく左右にスライドし開いて行く。


(やはり魔道具か。けれどこんな魔道具は貴族院の記録には無かった。引き戸か…やはりここは屋敷の中という事なのだろうか?)


 一般に外敵から守るべき扉は開き戸になっていて、外敵を考えない場所、屋敷の中の扉などは引き戸になっている。

 それを考えると今いる場所は外ではなく屋敷の中なのだ。


 引き戸をくぐると丸い広間になっていて、左右から上に登ることの出来る階段が部屋の奥に見えた。この屋敷の中心と言うべき部屋はその階段の上に見える扉の向こうの部屋だろう。


(この形まで貴族院と同じという事はどういう事だろう?この場所は貴族院と何か関係があるのか……?)


 僕の探知系の能力は索敵だけではなく、何らかの生き物がいた場合感知できる“生命感知”もある。

 その生命感知が上に見える扉の向こう側に誰かいると告げていた。

 僕は広間の奥に見えた階段をゆっくり上り扉の前に立つ。扉の前に立つと中に誰かがいる事がはっきりと感じられた。


(中にいるのは二人か……確かにここはノックするべきか。)


 僕がノックするか思案していると扉がゆっくりと開かれる。

 開かれた扉の向こうの部屋の中央には研究棟よりも大きな水晶球が設置されていた。

 そしてその水晶球の両側には僕よりも背の低い人物、メイド服を着た女性と執事服を着た男性が深々とお辞儀をしている。


「「ようこそおいでくださいました。新しい主殿。」」



 ―――――――――――――――――――――


 僕を主と呼んだ二人はこの屋敷を作ったのは“アブラハム・オーランド”。アイザックの祖先にあたる人だ。

 アブラハムは魔導士の一人であり帝国の貴族院設立にもかかわっていたと言う話だった。

 メイド服の女性の名は“キキーモラ”、執事服の男性の名は“ドーム”。

 二人ともアブラハムの使い魔でアブラハムの死後も長い間、この屋敷を維持管理していたのだと言う。この屋敷が今も真新しいのは彼ら二人のおかげである。

 彼ら二人は屋敷と密接に繋がっているらしく屋敷が壊れる時に彼らの寿命は尽きるらしい。


 そして特筆するのはこの屋敷の防御機構だ。

 この屋敷は霊峰“グランケープ”の山頂に建っている。

 グランケープの山頂は常に吹雪いており、山頂にたどり着いた者はいないと言われてきた。

 その理由はこの屋敷の防御機構にあったのだ。


 屋敷を中心に半径十kmという広い範囲に吹雪ブリザード雷雨サンダーストームの魔法を発生させているのである。

 威力は数十人の魔術師の魔法よりも大きい。その為、霊峰”グランケープ”を登ったほぼ全ての者は全て死亡したのだ。

 辛うじて助かった者は、最初霊峰に足を踏み入れた時に受けた魔法によるダメージで引き返さざるを得なかった者達だけである。(当然さらに進んだ者は死亡している。)


 僕は難攻不落の屋敷とも言える場所の新たな主人になった。

 屋敷の使い魔二人に言わせると、魔導士でありオーランドの指輪を持つ僕はこの屋敷の新たな後継者なのだそうだ。



 それからの屋敷での生活はそれほど不自由のない生活だった。

 食料は持ち込んだ物の他、この屋敷の菜園で取れる物もありリリアちゃんと二人で暮らす分に問題は無かった。

 そして、ダンジョン前の転移のクリスタルも帝国情報部の人達がいなくなったので使うことが出来た。

 帝国情報部といえども何時までもダンジョンを封鎖することは出来なかったようだ。


 屋敷の図書館には僕の知らなかった魔法や魔道具の記述、魔法理論があり大きな助けとなった。(空中に描いた魔道回路の事を紋章回路と呼び分けているのを知ったのもこの図書館のおかげだ。)



 そして、三年の月日が流れた。

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