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幕間 魔導士の使い方

 クリティアス帝国の暗部である帝国情報部。

 その帝国情報部の本部は帝都フィロソフィアにある。


 情報部の本部がある建物は表向き”帝国文化広報会議所”となっている。

 ”帝国文化広報会議所”は帝国文化を広く世に知らしめるといった目的で設立された機関だ。

 だが、その文化活動の裏で帝国内における反乱分子の取り締まりや違法魔法使いや問題のある貴族の暗殺を行っていた。

 彼らの活動が自由に行えたのは文化振興という表向きの活動により疑惑を持たれることなく帝国各地に出向くことが出来たからである。


 文化広報会議所の建物は年代物の石造りの建物で帝城近くに建っている。その入り口はアーチ状になっていて、アーチ状の入り口をくぐると幅10mほどもある広間になっている。

 その広間には長机が多数置かれ文化広報会議所の職員が忙しそうに仕事をしていた。

 彼らは情報部とは無関係の一般人を装っている。が、そのほとんどが情報部の職員である。その彼らさえ近づかない場所がこの建物にはあった。


 文化広報会議所の地下三階。帝国情報部でも更に上位の者にしか立ち入りを許されていない場所である。

 その場所に細身の男、アルタイルはいた。

 黒く染めた皮鎧に身を包み、覗き窓から中の様子を窺っている。


 アルタイルが様子を窺っている部屋には一方の壁が鉄格子になっていて、所謂牢屋と言われる物だった。

 その牢屋のベッドの上には赤茶けた髪の少女が寝かされていた。

 牢屋の中の温度が蒸し暑いらしく額から汗をかいて肩で息をしているほどだ。


「……あの者はたしか“セーナ”とか報告にあったな。それで経過はどうだ?」


 アルタイルは覗き窓を閉じると傍に控えていた部下に振り返った。


「はい。この場所に捕えてから三日になります。その間、ごく少量の水と食料、そして全く同じ内容の尋問を一時間ごとに行っております。」


「そろそろ頃合いだな。よし、仕上げの準備をしろ。」


 アルタイルの命令が下るや否や彼の部下達は速やかに行動を開始する。



 ギャギギャギギャギギャキ


 けたたましい異音でセーナが目を覚ましたのはそれから半刻ほど過ぎたころだった。

 だが目を覚ました物の連日の意味のない取り調べと蒸し暑い部屋のおかげか少し意識がはっきりしない様である。


 そのセーナの目の前、鉄格子の向こうに一人の男が運び込まれその周囲に怪しげな紋章が光っていた。

 その紋章の前に血の様に赤いローブ、赤い頭巾をかぶった魔法使いがねじ曲がった杖を持ち何か複雑な言葉を唱えていた。男のしわがれた声が辺りに響くごとに異音が鳴り紋章が光る。

 セーナには紋章の中に横たわる男に見覚えがあった。


 その紋章の光がひときわ明るく輝きしわがれた声がひときわ大きくなった。


戦士ヨ!目覚めヨ!ビカムアンデット


 赤いローブの男が杖を大きく掲げると、男がむっくり起き上がり生気のない目でセーナを見た。


「ガ、ガストンさん……?」


 セーナがぼんやりとガストンを見ているとその場に駆け込んでくる集団があった。


「?」


「見つけたぞ!違法魔導士!観念しろ!」


 セーナの見ている前で戦闘になるが多勢に無勢なのかあっという間に赤いローブの魔法使いが取り押さえられた様だ。

 その光景をセーナはぼんやり眺めていたが、駆け込んできた集団の一人がセーナに気付いた様だ。


「隊長!牢に囚われている者がいます。」


 ガシャガシャと鎧を鳴らしながら誰かが近づくその時、何処からか甘い香りが漂ってきた。

 その甘い匂いはセーナの意識をゆっくりと手放させていった。


 ―――――――――――――――――――――


 次にセーナの目が覚めたのは教会の真っ白なベッドの上だった。

 セーナの傍には細身の男が心配そうにセーナを見ていた。どうやら乱入してきた集団の隊長と言われていた男の様だ。


「どうやら気が付いたみたいだね。私たちは悪しき魔導士を捕縛中に君たちを発見したのだが憶えているかな?」


「はい、まだ頭が少しぼんやりとしますが何となく憶えています。」


 セーナはまだ本調子ではないようでゆっくりと起き上がる。時々頭を振って意識を保とうとしている様に見えた。


「まだ本調子ではないですね。ではそのままで聞いてください。私達はあの組織を長い間追いかけていたのです。ですが残念なことに首謀者の魔導士は取り逃がしてしまいました。あの魔導士は人を実験台に極めて邪悪な魔法を使っていたのですが何か心当たりはありますか?」


「いいえ、判りません。魔法は私にはさっぱりわからない物なので……そう言えばあの時ガストンさんがいました。ガストンさんは今何処に?」


 細身の男は首を振り沈痛そうな顔をした。


「残念なことに、魔法の実験台になったのはガストンと言う男の様でした。彼はどうやら不死者にされてしまいました。」


「!!」


「でも、あなたやもう一人の方を助けられただけでも良かったと思います。」


「もう一人?……イザーク?イザークなの!?」


 セーナは細身の男に掴みかかる様に詰め寄った。


「いいえ。もう一人はサムと言う人です。たしか魔法使いで捕まえられたとか言っていました。おそらく手下にするつもりだったのでしょう。」


「じゃあ、イザークは何処に?」


「……大変申し上げにくいのですがおそらく組織に捕まっていると思われます。」


「そ、そんな!!……でもどうしたら……。」


 セーナはイザークが連れ去られたと聞き、がっくりと肩を落としうなだれる。ぐっとシーツを握りしめ少し震えているように見えた。


「……セーナさん。イザークさんを助けたいですか?」


「!!」


「我々ならばイザークさんを助けられる可能性……いいえ、イザークさんを助けられます。」


 セーナはさっと顔を上げた。セーナの瞳には何か希望を見出したような光があった。


「助けられるの?イザークを?」


「はい。間違いなく。ただそれにはあなたの協力が不可欠です。ですが最低限、我々についてこれるように訓練をする必要があります。訓練は過酷なものとなりますがよろしいですか?」


 セーナは二つ返事で頷く。


「判りました。そうだ、私の名前を言い忘れていましたね。私は帝国情報部1課主任”アルタイル・ベルガード”といいます。」


 ―――――――――――――――――――――


 アルタイルは文化広報会議所の部屋で報告を受けつつ部下に指示を出していた。彼の机の上にはセーナやサム、イザークの報告書が無造作に置かれていた。


「アルタイル様。首尾はどうでしょうか?」


「問題ない。丁度良い補充員が手に入った。彼女を訓練所にまわしてくれたまえ。」


「では、魔導士の方はどうしますか?」


「奴には男爵の地位を与えて置けば問題ない。それにあの男が作った不死者アンデットは元拳帝らしく実に強力だ。使わないと言う選択肢は無いだろう。」


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