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剣王と拳聖

「おっと、逃がしませんよ。」


 アルタイルはその場から離れようとするイザークに黒い物を放った。


「させるかよ!」


 イザークに向かって飛ぶその黒い物をガストンはを素手で掴み取る。


「投げナイフか……ご丁寧に黒塗りとは。」


「……私の投げナイフを叩き落とすのではなく掴み取るとは……。さすがは拳聖と言ったところでしょうか?」


「ぬかせ、お前、俺が弾くようにワザと遅く投げただろう?このナイフには何か塗ってあるようだ。が、こうして掴めば問題ない。」


 ガストンは掴み取ったナイフを素早く遠くへ放り投げ、アルタイルとの対峙する。そのガストンの後ろからモーリスが周囲を警戒しながらフォローにはいる。


「やれやれ、二対一ですか。これは手厳しいですね。」


「……手厳しいと言っている割には余裕じゃねぇか。どうした、イザークを追わないのか?」


 ガストン達はアルタイルとの間合いをじりじりと詰めてゆく。アルタイルはそんなガストン達を意に介することの無い表情だ。

 アルタイルは帝国情報部の構成員でありその実力は不明。それに対してガストン達の力量は知られている。その上、水晶球に閉じ込めていたことでガストン達の体力は著しく消耗していたのである。


「追跡ですか……それは必要ないでしょう。」


「ほう、お前さん、あの二人を見逃すってのか?イザークに何だかこだわりがある様に見えたが?」


「見逃す?まさか!私がこうしてあなた方と対峙している間に私の部下が彼らを捕らえてくれるでしょう。」


「捕らえるね……それはどうかな?イザークは頭角を現しつつある斥候だ。ヤツを追いかけるのは一筋縄ではいかねえだろう。その上逃げた先がそれを助けてくれる。」


「……いつも同じだ。」


「何?」


 アルタイルはニッコリとガストン達に笑いかけた。


「あなた方冒険者が逃げる先はいつも同じだ。ダンジョン、ダンジョン、ダンジョン……他の場所は考えられないのですかね?」


「ふん!言ってろ。ダンジョンの中でイザークを追いかけることが出来ると考えるのは甘い判断だぜ。」


 アルタイルはガストン達を小ばかにしたように見た。


「……ダンジョンの入り口にある転送クリスタルは各階層の安全地帯セイフティに転送してくれます。ですが連続使用できないのは知っているでしょう。」


 アルタイルの言葉にガストンは何かに気が付いた様にハッとした表情を見せた。


「追いかける?その必要はなありません。私の部下は転送クリスタルで転送した先の安全地帯セイフティで待ち構えているだけです。あなた方はどんなに深く潜っていても精々10階層、それだと安全地帯セイフティは四階、七階、十階の三か所。はたして小さな子供を連れた彼は我々の手から逃げ切れますかね?」


 少し呆れた様な態度を取るアルタイルを前にガストンはギリリと奥歯を噛み締める。


「ふん!何も問題は無いぞ、ガストン!俺たちがコイツを倒して後を追えばいいだけのことだ!」


「確かにな、それなら何の問題もない。」


 ガストンとモーリスは並び立ち、拳と剣をそれぞれ構えた。しかし、アルタイルは余裕の表情だ。


「素晴らしい。素晴らしい意気込みです。果たして上手くいくでしょうか?」


「言ってろ、俺たち二人が……グッ」


「ガストン?」


 啖呵を切り掛けたガストンが呻いて膝をつく。突然顔色が悪くなり動きが緩慢になった。


「どうやらやっと効いてきた様ですね。流石は拳聖と言われた男、実にタフですね。」


「……これは……毒か……」


 アルタイルはにっこり笑い懐から黒い短剣を取り出す。それだけではない、よく見ると手の指にはいくつか指輪型の魔道具を装備している様だ。


「正解です。この剣の表面全体に毒が塗ってあります。その毒は皮膚から吸収できる経皮毒で触れただけでも死に至る事があるほどのものです。私は貴方なら掴めると思いあらかじめ塗っておいたのですよ。」


「触れるだけで毒だと!?それならなぜお前は毒を受けない?」


状態異常無効(・・・・・・)の魔道具があるからですよ。」


「!」


 ガストンたちは驚きの余り言葉を失った。

 状態異常無効の魔道具は国宝級の魔道具である。現存する数は少なく、皇帝一家が身につけている他は数えるほどである。それは帝国情報部が関与したこの一件が国宝級の魔道具を使うほどの事だと表していた。


「さて、話は終わりです。そろそろ観念してもらいましょうか……。」


 黒い短剣を構えたアルタイルが一歩前に出た時、モーリスは動いた。


「疾!」


 モーリスは鋭く踏み込み目にも止まらぬ速度で剣を横薙ぎにする。だが、アルタイルはヒラリとギリギリの間合いで躱した。


「逃さん!」


 モーリスは再度鋭く踏み込み今度は連続して剣を振るう。あまりの猛攻にアルタイルは大きく後退する。が、その背後はいつの間にか水晶球が壊れて為、辺りに散乱した瓦礫に阻まれた。


「これは困りましたね。」


 これ以上下がる事が出来ない場所にアルタイルは追い込まれていた。


「勝機!」


 するとモーリスは踏み込み今まで以上の速度で剣を振るう。剣王であるモーリスの鋭い剣筋はアルタイルの体に吸い込まれるかの様だ。


「おっと、この一撃はいけませんね。」


 アルタイルは指輪型の魔道具の一つを使い足元に風を起こす。発生した突風はアルタイルの体を上空へ逃がした。

 大きく空振りしたモーリスは返す剣でアルタイルを狙う。しかしその剣筋はあと一歩アルタイルに届かない様に見えた。

 その瞬間、刀身が細かく分裂し伸びる。


「流石は剣王の技。ですが、その剣でなければ私を捕らえていたでしょうね。」


 アルタイルは鋭く迫る剣の先を黒い短剣の背で受け止める。


「自在剣、通称”蛇腹剣”。鞭のような形状は剣先の速度を目視不能なまでにする魔剣。ですが、このように剣先を失った状態では受け止めるのも容易い。」


 モーリスが使う剣、自在剣は刀身が細かく分離し数珠つなぎの様になる事で鞭のように扱う事ができ、鞭のような形状で振るう斬撃の速度は音速を超える。

 だが、モーリスが持つ自在剣の先の方が丸く切り取られた様に欠けていた。

 欠けた刀身は通常では起こらない乱気流を発生させる。その乱気流は刀身の動きを乱し斬撃の速度を落とすことになったのだ。


「ぬかせ!ならばこうするまでだ!」


 モーリスは自在剣を構えると縦横無尽に振るう。鞭状になった自在剣の斬撃は周囲に散乱する瓦礫を巻き込み細かな無数の破片に変える。


ガガガガガガガガガ!!


 だが、アルタイルは瓦礫を切り裂き迫る剣のすべてを黒い短剣ではじき返す。


カン!カン!カン!カン!カン!カン!カン!


 その全ての攻撃を黒い短剣を使い弾き返したアルタイルはふわりと優雅に降り立った。アルタイルの足が地面に着くと同時に、今まで離れた場所でうずくまっていたガストンの姿が消える。


「捕まえたぜ!」


 姿が消えたガストンは降り立ったアルタイルの足に組み付いていた。


「縮地ですか。一瞬で間合いを詰める技ですか。ですが、毒に侵された体力では私を転倒させることもままならないようですね。」


「ああ、確かにその通りだ。だが、倒すことが出来なくとも、お前の動きを封じることは出来る。今だ!れモーリス!!」


 ガストンの言葉と同時にモーリスが剣状に戻した自在剣を構えアルタイルを突き刺そうと迫る。それに対してアルタイルは手に持った黒い短剣を自分の足元に投げつける。

 黒い短剣は地面に突き刺さらずそのまま地面をすり抜けたかのように見えた。


「!」


 身の危険を感じたモーリスは横に躱そうとするがその体を上から飛んできた短剣がかすめる。その瞬間、モーリスはがっくりと膝をついた。


「流石の剣王でも体に毒が入れば耐えれませんか……。」


 モーリスは膝をつき息も絶え絶えになりながらもアルタイルを睨みつける。


「何故、私が投げた短剣が上から出てきたか判らないようですね。種明かしすると、私の持つ収納袋が原因なのですよ。この収納袋は欠陥品でね。袋の口に入口が無くズレた場所に入口が出来る上、さらにズレた場所に出口が出来るのですよ。ですから普通の収納袋としては使い物になりません。」


「魔道具か……不覚だ。」


 ガストンも力尽きたのかアルタイルの足を掴む手がずり落ちた。


「安心してください。あなたたちの体は我々が有意義に使わせてもらいます。」


 そう言うとアルタイルはにっこり笑った。

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