帝国情報部 その4
「リリア!」
モーリスさんはリリアちゃんにすばやく駆け寄り抱きしめている。モーリスさんの安堵している顔を見るとどうやら命に別状はない様だ。
帝国情報部は一切証拠を残さないと聞いた事がある。リリアちゃんが水晶球に取り込まれたのも証拠を隠滅する為だろう。だが、疑問に思うことがある。
アルタイルはあの時何故、俺だけを取り込んだのだろうか?あの時アルタイルは“イザークと”と言いかけて訂正した。
それに壊された仕入れ用の魔法の鞄だ。魔法の鞄は準男爵の中でも持っている物が少ない魔道具だ。この魔道具の為に商人連中は準男爵の地位を買取ると言っても過言ではないほどの品物だ。
その貴重な魔道具を何故壊す?それとも壊す必要がある?
魔法の鞄と水晶球は同じ系列の物である。同じ様に亜空間に物を収納することが出来る魔道具である。つまり、特定の亜空間へ繋ぐことで亜空間を利用するのだ。その入り口は魔法の鞄が作られたときに固定されている。
それを壊す必要……壊さないと水晶球に取り込めない?
……
亜空間に亜空間を作ると矛盾を生じるから壊したのか!矛盾を生じた魔道具は両方とも壊れる。魔法の鞄を修理できればこの水晶球を壊す事が出来る。
リリアちゃんが取り込まれてからそう時間は立っていない。この中の時間が二十倍の速さで過ぎるとすればアルタイルはまだ移動していないはずだ。
「ガストンさん、この場所の破壊を試みます。水晶球が壊れると中身が全て散らばります。」
「壊す?何か方法があるのだな……。判った!こちらは任せろ!」
ガストンさんに声をかけると懐から僕は灯りの杖を取り出すと魔導回路を描く。
魔法の鞄になる様に魔導回路を描く事は必要な物がないこの場所では不可能だ。
だが修理するだけなら低級の魔法で事足りる。
「修理」
魔導回路に光が走り魔法を発動させる。発動した魔法は魔法の鞄を光で包み素早く魔導回路を修理する。
その瞬間、亜空間に亀裂が入った。
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不意を突き目標の魔導士が水晶球に無事回収されたことを確認する。
私が見たところ、彼は斥候としてもかなりの腕である様だ。不意を突かなければ水晶球の効果を回避され逃亡された可能性がありました。
だが、彼は私がちょっとしたことを指摘しただけで動揺、そのおかげで水晶球を使い回収できたともいえます。その辺の未熟な部分は今後鍛えて行けば良い諜報員になれるでしょう。
彼はオーランド公爵家と何かあるようです。あの家も前の当主が死んで当主代理が好き勝手している為、領地内が荒れていいます。長年仕えていた者達を大量に解雇したようですから、彼も当主代理に恨みを持つそんな連中の一人なのでしょう。
ですが私が教育すれば何も問題はありません。たとえ帝国が親の仇であっても帝国の為に命を捨てることの出来る諜報員になることが出来ます、いやして見せましょう。
彼はどの様な諜報員となってくれるのか……それを考えるとワクワクしてきますっ!
おっと、まずい。つい楽しみになって想像を膨らませてしまいました。兎も角、残っている目標を回収しなければなりません。
幼女なので放置していても敵になる可能性は低い。ですが、この幼女はあの剣王の娘と報告がありました。この幼女を使えば剣王を諜報員にすることが出来るかもしれません。
幼女……名前は何と言いましたかね?
水晶球に取り込むことを阻害する魔法の鞄は壊しておきましょう。魔導回路の数か所を切断すれば機能しないので、後々再利用可能です。
恐ろしくて動けないのか、その場で固まっている幼女に素早く近づき当身技で気絶させ回収しました。
やはり対象の意識がないと回収は早いようですね。しかし、魔法の鞄を壊した際、中の物が辺りに広く散らばってしまいました。証拠を残さない為にも散らばった物も回収する必要があります。
壊した魔法の鞄の中身が細かく散らばった為、少し時間を取られました。早く水晶球の経過時間を変える必要があります。取り込み中は時間経過を変化できないのがこの水晶球の欠点ですね。改良を要請しているのですが難しいようです。
今は通常時間の二十五倍の速さにしており、中の時間を早くすることによって取り込んだ者を短時間で衰弱させることが出来ます。
しかし、このままの時間だと中にいる剣王や拳帝だけでなく目標の魔導士も衰弱死してしまうかもしれません。彼らを仲間に加えることが出来たら強力な手駒になります。その為にもここで死なせるわけにはいけないのです。
私は経過時間を操作しようとしたその時、水晶球に大きな亀裂が入った。




