帝国情報部 その3
水晶球に引き寄せられたと思った次の瞬間、僕は様々なモノが浮かぶ空間にいた。
魔道具や本(これは魔導書か?)中には壊れた魔道具(どうやら魔法の鞄の様だ)が浮かぶ。
魔法の鞄か……ここは多分水晶球の中なのだろう。水晶球は魔法の鞄と同じ効果がある物だと考えられる。
アルタイルは僕を殺すつもりは無いのかこの場所には空気があり呼吸できる。その割にはとても明るく周囲に浮かぶ物がはっきりと見える。僕の体もふわふわと浮いていて上下感覚が無い。
僕がスキルで周囲を探査してみと僕の意識に二人の人物がひっかかる。
(想像通りならあの二人だと思うが……さて?)
灯の杖を使い風の魔法を構築する。少し軽い音を立てて魔法陣が完成した。どうやらこの場所でも魔法は使える様だ。
僕は魔法の風を使い二人の人物がいるであろう場所へ移動した。
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「お!イザークじゃねえか!お前もここに取り込まれたのか?!」
厳つい顔の男、無精ひげの生えたガストンさんが僕を見るなり近寄ってきた。この場所浮いている魔道具や本を蹴ることで移動している様だ。
「やはりガストンさんとモーリスさんでしたか……。」
想像通りガストンさんとモーリスさんが中に居た。だが二人とも無精ひげが生えており少し憔悴しているように見える。
「俺達がここに取り込まれてもう三日になるが、外の様子はどうなんだ?水は魔道具があったんで何とかなったが食い物がなぁ……。」
ガストンさんはおなかをさすりながら話してくれた。
……?三日?
今、”取り込まれて三日”と言った。ガストンさん達に朝にはなかった無精ひげが生えている所を考えるとそれは間違いない事の様に思える。
しかし、ガストンさん達が取り込まれたのは僕が宵町亭に帰ってきた時間より前。鍋のスープが冷めて生ぬるかったところから考えると三時間弱だろうか?
「……水晶球の中では時間が早く進む?」
魔法の鞄にも様々な物がある。基本中に入った物は”時間が停止する”だが、中には”時間を遅くする”や”同じ様に時間が過ぎる”物もある。
それを考えれば逆に”時間を加速させる”物があってもおかしくはない。
水晶球は“内部の時間を加速させる”物なのだろう。
ガストンさんの言葉と宵町亭の状況から考えられる時間の加速は約二十倍。僕が水晶球の中で三十分は過ごしているが、外はまだ一分半ぐらいしか経っていない。
水晶球内部の時間が早い分、ここから抜け出すことが出来れば宿の裏庭からそう遠くない場所に出ることが出来るはずだ。
そう言えばガストンさんは俺達が取り込まれてと言っていたな。どちらが先に取り込まれたのだろうか?
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「どちらという事は無くほぼ同時ですね。私はスキルで切りかかったのですが斬ることが出来ませんでした。」
モーリスさんは取り込まれる瞬間、相手を斬り付けたのだが今一歩届かなかったらしい。しかし今、モーリスさんは気になることを話してくれた。
モーリスさんとガストンさんは同時に水晶球へ取り込まれたようだ。とすれば、何故アルタイルは僕だけでなくリリアちゃんを含めて取り込まなかったのだろうか?
僕がいろいろ考え込んでいると当のリリアちゃんが取り込まれてきた。
手には仕入れ用の魔法の鞄を持っている様だが表面に描かれた魔導回路を壊されている。あれでは魔法の鞄としての機能は失っているだろう。




