閑話、頭を抱えるガストン
俺の名はガストン、元拳闘士でいまは冒険者をしている。これでも冒険者のランクは丹銅級だ。
そんな俺だが今この間パーティに加えた仲間の事で頭を抱えている。
そいつの名前はイザーク。
斥候の技能を持つ冒険者で顔のやけどの跡がひどい為、銀の仮面をつけている。外見も変わっているが、中身もとんでもない奴だった。
俺達のパーティが斥候を必要していたことと、昔世話になったシスターベルモッドに頼まれたから断るわけにはいかなかったと言うのもある。
だがイザークと一週間過ごし、早くも後悔している。
はたしてこのままイザークをパーティに入れて置いていいものだろうか?
イザークは俺達なら必ず知っている事の大部分を知らない。
まず覚える貴族への対応の仕方。
子供のころから嫌と言うほど教えられる事だ。でないと一家の明日が危ない。貴族の機嫌を損ねて無事で済むことはまずない。
スラム等入って行けない町の危険な場所。
町の人間なら雰囲気が違うので誰でもわかる。こんな所に入ろうものなら身ぐるみ剥がれて明日は川の上だ。
店での買い物の仕方まで知らない。
子供のころから親の手伝いで買い物をしているから多少知っていないとおかしい。知らないのは買い物をしたこともない者、貴族や大商人の令嬢だ。
金の価値も判っちゃいない。
驚いたことに、この間、宿代を大金貨で払おうとしていた。大金貨は貴族や大商人が代金の支払いの時に使う物で、平民である俺達ではまずもって無いし使うことの無い物だ。
それをイザークは後二枚、合計三枚持っていると来た。
一体どこのお大尽だ。
……
だがイザークは斥候をやっているだけあり頭も良い、それに算術も出来た。パーティ資金の管理を任せるに最適の奴だと言える。
ちょっと少ない頭で考えてみよう。
サムの時も同じように世間知らずだと思ったが、イザークは輪をかけて世間知らずだ。それを考えると間違いなく元貴族なのだろう。
サムは男爵の三男だったから、イザークはそれ以上の家。子爵や伯爵の息子か?
だとすると、顔の火傷が良くわからない。子爵ともなればそれなりの財産はあるはずだ。それのに傷を治さず放置するのはなぜだろう?
そういえば王都の噂で、どこかの公爵の息子が廃嫡されそうになっていると言うのがあったな。
素行がかなり悪い乱暴者らしい。廃嫡を囁かれるのだからとんでもない奴なのだろう。
ここで俺は閃いた。
もし仮にその乱暴者の公爵の息子にイザークが仕えていたとしたら?
公爵の取り巻きは子爵や伯爵の息子が多いと聞く。イザークが子爵や伯爵の息子ならば取り巻きになっていてもおかしくはない。
そして何らかのことで不興を買ってあの火傷を負わされてしまったのなら?
相手が公爵とは言え廃嫡されそうな子供の元へ取り巻きとして長男を送りこむ事はしない。それならもっと有力な者の元へ長男を送り、次男……は予備としておくから三男以下か。
子爵や伯爵の三男なら不興を買った子供を家が放り出したのも判る。
そうだったのか……。
うむ!全ての疑問を解く完璧な推理だ!
部屋で一人、頷くガストンであった。




