僕の日常
木剣同士を打ち合うが早朝の庭に鳴り響く。
「だぁっ!」
僕は少し引いた父の剣を目掛け大きく打ち込んだ。
だが父上は僕の剣を軽やかな音を響かせながら軽くいなし跳ね上げた。跳ね上がられた剣は大きく空を舞い僕の後ろの地面に突き刺さった。
「勢いが良いが踏み過ぎだ。もう一度。」
「はい!!」
八つになったばかりの頃、父上から剣の手ほどきを受けていた。
僕には魔力が無い。魔法がまったく使えない代わりに剣術の稽古を受けているのだ。これも魔法を使えない僕の為に行われている訓練の一環だ。
その甲斐あってか同じ年頃の子供と比べて少しばかり優秀な剣士にはなっていたと思う。でも、僕の剣術は並の腕前、とても”極めて”優れているとは言えないものだった。
早朝の稽古が終われば朝食になり、その後、昼食までの間、母上による座学である。
「アイク。魔法の構成における三大要素とは何か?」
「はい。効果、距離、時の三つです。」
「よろしい。魔法による影響を示す”効果”、魔法が及ぼす範囲を示す”距離”、魔法が影響している時間を示す”時”。では、この三大要素を提唱した魔法学の博士の名前は?」
「……えーっと??????」
「モーディン博士です。今から100年ほど前に活躍した魔法博士です。モーディン博士の開発した数々の呪文、魔導回路は今でも使われるほど優秀なものが多く残されています。次に……」
座学は経済や言語、魔法関連まで広い範囲に及んだ。母上は貴族が通う学園でも特待生の地位にあったほど優秀な人だった。
まだ幼い僕にもわかりやすくかみ砕いて教えてくれるので優秀な教師でもあったと言える。
昼食の後は休憩後、父上による座学、政治や軍学である。公爵家の当主の為ではなく母上との結婚を認めさせるために必要以上に出来る必要があった為、必死で習得したそうだ。
軍学は書斎の上に広げられた地図の上に魔導士団や騎士団、剣士団のコマを使い行われる。一見すると何かのゲームのように見えるが、これも立派な軍事シミュレーションである。
父上の座学が終わり夕食までの間が自由時間となる。
僕はもっぱら屋敷の図書室に籠り本を読んでいた。屋敷の図書室は遥か古の時代、王国が成立したことからの文献がいくつもあった。
その為、図書館中の本は持ち出してはならず、入る為にはキーとなる指輪が必要な場所だ。父上曰く、指輪が無ければ扉を見つけること自体出来ない代物らしい上、指輪も普通の指輪と変わらない物だそうだ。
夜に母上が聞かせてくれた物語。
僕の好きな大魔導士の事が書かれている本もこの図書館にある。
遥か昔に活躍したとされる大魔導士の話が大好きだった。紋章が光り輝き数多の雷光の剣で多くの魔物を打ち倒す話を何度も繰り返し読んだ。
家族そろっての夕食の後、しばらく歓談、その後、体を清め就寝する。
これが僕の日常だった。