隊商の護衛
帝都の門を出てすぐ、帝都とルヴァンを結ぶ街道にその隊商と護衛の為の冒険者が待ち構えていた。その馬車の規模から推測すると裕福な商人なのだろう。
「遅いぞ!新人!」
イザークに気づいた一人の冒険者らしい厳つい顔の男がゆっくりと近づいてくる。男の目つきは鋭く頭の黒い髪は短く切りそろえられ、頬についた傷が歴戦の戦士を思わせる。
よく手入れされた皮鎧を着ており、腰にショートソード、背中にはクロスボウを背負っていた。
新人?
僕は男の言葉に疑問を覚えた。
冒険者には黄金から白木までのランク(一応、白金もあるが特別枠だ)があり、冒険者になりたての者、新人と呼ばれるのは基本、白木だ。
だが僕は斥候の技量を認められていた。それと隊商の護衛に加わる為にランクは辰砂になっている。(隊商の護衛依頼のランクは辰砂以上が必要)
冒険者で辰砂は一人前と認められた証でもある。
「冒険者として一人前でも、隊商の護衛は初めてだろう。だから新人なんだ。でだ、新人にはいろいろ教えることがあるから早く来るべきなんだが……どうしたものか。」
なるほど。男の言い分はもっともであり、新人の為の打ち合わせをするには僕が来るのは遅かったようだ。
「ガストンリーダー。そんなのじゃ新人が困ってしまうだろ?なあ?」
その中の一人、長身の女性が僕に同意を求めてきた。その女性はあまり髪の手入れをしていないのか赤茶けてぼさぼさの髪が目にかかるほど長い。そしていつの間にか護衛依頼を請け負った冒険者たちが集まってきたようだ。
赤茶けた髪の女性は僕に近づくと握手しようとしているのかすっと手を差し出した。
「アタシの名前はセーナ。これでも戦士だ。よろしくな。」
「僕の名前はイザーク、こちらこそよろしくセーナ。」
僕が彼女の手を握り返すとセーナはにっこりと笑った。
がっちり握った彼女の手は幾つか剣だこが出来ていた。たゆまぬ努力をしてきたことがよく判る。彼女は努力家なのだろう。
「じゃあ、ついでに他の奴らも紹介しておくか。俺の名前はガストン。ここの隊商を護衛する冒険者たちのリーダーをしている。戦士といっても軽戦士と言う部類だ。」
ガストンの他には先ほどのセーナや重戦士のボード、戦士のグレモリー、魔法使いのサム、僧侶のアルセの全部で五人の人達を紹介された。
僕はガストンと、先ほどのセーナ、魔法使いのサムと同じ馬車に揺られて旅をすることになっていて、後ろの馬車には重戦士のボードと僧侶のアルセが商人と共に乗っている。戦士のグレモリーは馬に乗り周囲の警戒をする様だ。
僕が隊長であるガストンと同じ馬車にいるのは索敵で異常を発見した時にすぐに対処する為である
「俺達のパーティは斥候がいないから索敵に問題があって困っていたんだ。イザーク、お前には期待しているよ。」
ガストンの言う通り、パーティのメンバーには斥候がいない。
魔法使いでも索敵は出来ない事は無いが魔法使いの索敵は常時精神力を消費する。いざという時に精神力が足りないと戦闘に支障をきたす。
「それに俺は魔力が少ないから広範囲の索敵魔法は使えないんだ。」
魔法使いのサムは元々男爵家の三男だったが家を継げないので冒険者になったのだそうだ。魔法の使える冒険者にはそんな出自の者が多い。
「アタシたちは隊商を護衛した後、ルヴァンのダンジョンで探索するつもりだよ。アンタもしばらくルヴァンにいるんだろ?でね、アンタさえよければうちらのパーティに入ってみないかって話なんだ。」
セーナは赤茶けたぼさぼさの髪の間からじっと僕を見ていた。髪の間から覗く彼女の目はきれいな水色だった。
 




