ギルド長の思惑
ギルド長はシスターベルモットからの手紙を無造作に机の上に放り出すと足を机に投げ出した。そして値踏みするような眼で僕を見る。
「で、イザーク、お前さん何が出来るんだ?」
「何がって……」
僕は言いかかった言葉を飲み込んだ。
質問を投げかけるのは至極簡単な事だ。だが今は質問をする時ではない。ギルド長は威圧感のある声で話しているが当たり前の話をしているだけだ。
ギルド長は”何が”と尋ねた。僕がいるこの場所は冒険者ギルドである。
ここは自分の出来る事、存在価値を示す必要がある場所なのだ。
「せ、斥候のまねごとが出来ます。」
「斥候?」
そう言うとギルド長は机の引き出しから小箱を取り出し僕に放り投げた。
「開けてみろ。」
受け取った箱をよく見てみる。表面に不思議な模様がある小箱だ。鍵穴があるが妙に浅い。箱をゆっくり動かすと中で何か動く気配がする。
仕掛けのある箱……からくり箱か?
もしからくり箱ならこの模様も仕掛けを誤魔化すためのダミーだ。
僕は箱の表面に少し力を入れて表面を動かそうとする。
お!
一部がスライドする。僕はそのスライドする部分を慎重に動かした。スライドする途中に仕掛けがあと見落とす場合があるからだ。
その差異を指先で感じ取れれば良いのだが、残念ながら僕にそこまでの技能は無い。
さて、この後どうするべきか?
「よくわかった。もういいぞ。小箱を返してくれ。」
小箱を前に考え込む僕にギルド長は小箱を返すように言った。
箱を開けることが出来なかったが開ける事が問題では無かったようだ。
僕は小箱をギルド長の机の上に置いた。
「ところで、この部屋に何処に何人いるか判るか?」
ギルド長の問いは先ほどの問いかけの続きなのだろう。
僕が判るのは、窓際のカーテン右側の影に一人、左の本棚の影に一人。だが、もう一人潜んでいる気配がするのだが場所が判らない。
何処に何人と言うのだから、はっきりした位置が必要なのだろう。
「窓際のカーテン右側の影に一人、左の本棚の影に一人です。」
僕の言葉を聞いたギルド長は感心したような顔をした。
「索敵もなかなかのものだ。正解は三人。もう一人はそこの影の中だ。」
ギルド長が机の影を指さすと影の中から一人の男が現れ僕に手を振った。思いもしなかったところからの出現に思わず僕は声を漏らした。
「……そんな所に。」
「でもま、こいつを見つける事は極めて難しい。だが、他の二人を見つけられたのはなかなかのものだぞ。」
そう言ってギルド長は僕に近づき握手しようと手を出した。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。わたしはギルド長のリバルだ。試すような真似をして悪かったな。お前さんの事はシスターベルモットからの手紙で大まかな事は判っている。だがここは冒険者が集まるところだ、よその都市に移動するにしても冒険者としての技能が無い者は推薦できないんだ。」
帝都を出入りするための冒険者認識票を作ることは簡単だが、よその都市に行くためにはそれなりの理由がいるらしい。
「それでだ、お前には斥候の技能があるようだ。これなら何処かの都市へ行く隊商の護衛に加えることが出来る。」
町から町への移動は危険が多い。その多くが魔獣や盗賊などの被害だ。これら二つは斥候が優秀ならば被害を減らすことが可能だ。
ギルド長は僕をどこかの隊商に加えるつもりの様だ。




