冒険者ギルド
「イザーク、あなたをいつまでもこの救護院に置いておくことは出来ません。」
火傷の傷がほぼ完治した頃、シスターベルモットは僕にそう切り出した。
人一人が生活するにはお金がかかる。それに平民は僕の年齢と同じ十五歳ぐらいには何らかの仕事をしているものなのだ。
「あなたは文字の読み書きが出来るし算術も出来ます。どこかの商人に丁稚奉公するのがいいのですが、あなたの場合は難しいでしょう。」
商人への丁稚奉公は身元が確かな者しかなることは出来ない。帝都における身元の証明は市民権が該当する。そして僕は帝都における市民権を持っていない。持っていても身元が割れるので使うことが出来ないのだ。
シスターベルモットは言葉を続ける。
「丁稚奉公をするにはこの帝都で暮らす必要があります。ですがイザーク、貴方の場合は帝都から離れた方がよいと考えます。」
救護院のシスターたちは僕が貴族の横暴によって傷つけられたと考えている。そして、僕を傷つけた貴族がいる帝都に何時までも留まっているとまた同じことが起こると考えている様だ。
「市民が帝都から出るには通常、市民権が必要ですが冒険者ならば例外的に出入りが許されています。」
シスターベルモットは僕に一通の手紙と地図を差し出した。
「地図は冒険者ギルドへの道順、手紙は冒険者ギルドへの紹介状です。ギルド長が便宜を図ってくれることでしょう。」
ギルドへの道は何度も訪れたことがあるので覚えているが、知らない事にして受け取っておく。
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僕がギルドに足を踏み入れた時、冒険者たちの熱気と喧騒に包まれていた。
どうやらこれが冒険者ギルドの本当の姿らしい。僕らが訪れた時は今のような熱気は無かった。貴族の前では猫を被っていたらしい。時々こちらを見て値踏みしている冒険者がいるが何か用があるのだろうか?
ギルドのカウンターの受付嬢にシスターベルモットからの手紙を渡す。手紙の差出人を見た受付嬢は差出人を見るとすこし席を外した。
周りを見ると冒険者たちの中に見知った顔を発見した。オディッタさんだ。どうやらこれから依頼に出かけるらしい。
「オディッタ、どうだいこれからゴブリン退治でも?お前の索敵があると助かるのだが?」
「悪いね、ガーランド。いつもの貴族の坊ちゃんたちの依頼でね。」
「いつもの?貴族の坊ちゃんの中に一人がスキルを覚えたとかでもう必要ないんじゃなかったのか?」
「それがその一人がいなくなったようなんだよ。まぁ、おかげであたしは仕事にありつけるんだけどね。」
ガーランドと言われた男は頷くと僕が考えもしなかったことを言った。
「あの時はスキルを教えたおかげで仕事が減ったとがっくりしていたからなぁ。」
「仕方がないだろう。貴族のお坊ちゃんに頼まれれば教えるしかない。普通はいくら積まれても教えるべきじゃないんだけどね。一月でスキルを習得したのは誤算だったけどね。」
「貴族の坊ちゃんに頼まれれば仕方ねえわな。」
「次はよく考えて教えるわよ。じゃあね。」
オディッタさんはガーランドにそう話すとギルドから出かけて行った。
斥候のスキルは普通は教えてくれない物らしい。よく考えてみれば当たり前だ。教えることによって自分の仕事が確実に減るのだ。
ギルドの冒険者たちを色々見ていると受付嬢は戻ってきた。なんでも僕をギルド長の部屋まで案内することになっている。どうやらギルド長に会う必要がある様だ。
「ギルド長、シスターベルモットの紹介でやって来た者を連れて来ました。」
「開いている。入れ。」
受付嬢に促されるまま僕はギルド長の部屋に入る。
部屋の両側には本棚、手前に大きなテーブル、奥に大きな机があり奥の机に一人の大男が座っていた。
年の頃は五十過ぎだろうか?茶髪の頭に白いものが混じる厳つい顔の男だ。
どうやらこの男がギルド長らしい。
部屋にはギルド長だけでなく、何人か潜む気配がした。場所が特定しにくい所を見るとかなり腕の良い斥候が潜んでいる様に思える。
ギルド長は元冒険者だ。若いころは名うての戦士だったと聞いた事がある。それだけに敵も多いのだろう。
「お前がイザークとやらか?」
机の奥に座る男はドスの効いた声でそう言った。




