救護院での日々
救護院に担ぎ込まれ一月がたった。
カルミアやセルダンの関係者が訪れた様子は無い所を見るとまだ僕の足取りは判らない様だ。火傷は酷いもので完全に治るまで一月以上かかる様だ。その為、今も顔に包帯を巻いている。
「イーザ、ごほんよんで」
小さな子供が大きな本を抱えてやって来た。
僕は救護院ではイザークと名乗っている。アイザックを少し変形しただけなのだが、あまり違う名前にすると咄嗟の時に反応できないのでこの名前にした。
流石に一月もたつと救護院にも慣れてくる。時々、救護院で生活する小さい子供たちの面倒を見ているのだ。
「やぁ、ステラ。魔導士の話か……この絵本でいいのかい?」
「うん」
ステラはニッコリ笑うと本を差し出した。
手を伸ばし服の間から火傷の跡や切り傷が見える。
ステラが差し出した本は古の魔導士が邪悪な魔王を倒す話が描かれた絵本だ。この絵本は子供の頃、母上に読んでもらったことがある。
魔導士が呪文を唱えると杖の先が光り輝き強力な魔法が飛び出し、邪悪な魔王を完膚なきまでに叩きのめす。
……
?
魔導士ってこんな感じだったっけ?
昔見た絵本と違う様な気がするが、地方(オーランド領)や作られた年代によって表現方法が変わっているのはよくある事だ。
実際、歴史書や魔法の本の表記も地方や時代によって大なり小なり差があった。
「……イーザ、いたい?」
僕が絵本の違いを考えて黙り込んだのを火傷が痛むと勘違いさせてしまった様だ。
「大丈夫だよ、ステラ。絵本を見て少し考えていただけだよ。じゃあ、絵本を読んであげよう。」
「よかった!」
「えーっと、昔々、この世に邪悪な魔王が居た頃……。」
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絵本を読むほかにも救護院の様々な手伝いをしている。
その多くは子供の世話、洗濯や食事の用意もしていた。食事の用意と言っても芋の皮むき程度や皿の用意、皿洗い程度である。
絵本を読んであげたステラは体にいくつか怪我があるが救護院で生活する子供の中ではまだ軽症な方だ。
一緒に食事の用意をしているボブは左腕が無い。道を歩いている所を試し斬りと称して切り落とされたらしい。シスターマルガリータは命が助かったのが奇跡だとも言っていた。
同じ様に食事の用意をしているアリアは片目が見えない。火炎魔法の標的にされた時、目を潰された。
他にも貴族の横暴によって傷つけられた子供が救護院には大勢いる。
そして貴族と問題を起こした者は疎外される。彼、彼女の受けた災難が自分にまわって来るとも限らないのだ。
それが子供であるなら捨てられることが往々にしてある。そんな子供たちを引き取っているのが救護院の目的でもあった。
貴族の平民に対する暴力は日常茶飯事なのだ。帝都には貴族によって傷つけられた平民が多く存在すると言って良い。
これらは貴族院に居た時は全く気付かなかったことだ。
貴族院でも貴族として認められるために必死になっていた者たちの姿を思い出した。
貴族として扱われるか、平民として扱われるかによって格段の差がある。
(僕は何も知らない。知ってはいなかった……。)




