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これより始まる……

 第四寮を出た僕は足早に帝都の非常用の門を目指した。

 セルダンが戻ってくるまでに帝都を出たいが、寮で少し時間を取られ過ぎた。



 門が少し騒がしい。


 物陰に潜伏し非常用の門を見ると二人の冒険者の姿が見えた。あの二人は見たことがある。セルダンと一緒にいた冒険者だ。どうやらセルダンは戻ってきている。

 この場所は少し遠く何を話しているのか聞こえない。調音ヒアノイズの呪文を使うべきか?

 しかし、灯の杖についてはまだ詳しくわかっていない。それに魔法を使うときの音が大きすぎる。あれではここに僕が潜伏しているのを気付かれてしまうだろう。


 しばらく様子を見ているとセルダンが声を張り上げて出てきた。


「いいな!これは次期オーランド公爵の命令だ!アイザックが来たら必ず捕まえておけ!行くぞ!第四寮だ!」


 セルダンが考え無しのおかげで助かった。でも、今の状態では帝都から出ることはできない。

 朝、大門が開く頃には今の命令が全ての門に伝わるだろうし、非常用の門が開いているのはこの場所しかない。

 僕が帝都の門番二人の目を盗んで通り過ぎれればよいのだが、彼ら二人は帝都の騎士団所属の兵士でもある。普通の兵士より優秀な二人の目を盗むのは難しい。魔法で一時的に誤魔化しても門には対魔法の何かがあるはずだ。


 ダメだ。


 やはり今の状態では帝都から出ることが出来ない。やはり迷宮から帝都へ戻ったのは失敗だったか?それでは何も無いままでは隣の町にさえたどり着けるか怪しい。

 ……今はそんなことを考えている暇はない。この帝都で隠れる場所を探さなくてはならない。そして隙を見て帝都から出る。


 この帝都で僕が隠れていても不自然ではない場所。できれば僕と同じ様な子供がたくさんいる場所が良いだろう。


 スラムならどんな者でも入ることが出来ると聞いた事がある。しかし、スラムは帝都の外には存在するが帝都の中にはない。そして、入ることが出来ても出ることが出来る保証はない場所だ。

 となると……教会?いや平民が利用する救護院か。たしか救護院なら身寄りのない子供を保護しているはず。そこならば僕のような年の者がいない事は無い。


 そこに隠れるだけでカルミラやセルダンの目を誤魔化すことは出来るだろうか?

 ニ、三日はごまかせるだろう。だけど、このままだと見つかる可能性が高い。冒険者を動員して僕を虱潰しに探しそして見つけるだろう。


 この姿のままではだめなのだ。


 ではどうするか?

 斥候のスキルに変装もあるが、残念ながら僕はあまり上手くない。その内、上手くなるだろうが今は使い物になるか怪しい。

 変装ではない別の方法が必要だ。考え込む僕の腕にやけどの跡が見える。


 領地にいる時は怪我をしても誤魔化すためにセルダンは回復薬ポーションを使った。その為、僕の体に傷ややけどの跡は残らなかった。

 貴族院に来て誤魔化す必要が無くなったのか回復薬ポーションを使ったことが無かった為、身体のいたるところにやけどの跡が残っている。幸い目立つ顔に傷は無い。


 そう、顔に傷は無いのだ。


 もし仮に顔に大きなやけどの跡があれば誤魔化すことが出来る。それに、その傷を理由に顔を隠すことは可能だろう。

 火傷は回復薬ポーションで直すことが可能だが、平民が利用する救護院で行きずりの子供に使えるほど安くはない。(そもそも数も少ない)


 ……やるしかないか。それなら、この場所は上手くない。もしもの時のために救護院の近くの方がいいだろう。


 救護院は帝都の外れの辺鄙な場所にあり、人はあまり近づかない。周囲に家が少なく小さな森が隣にある。

 僕はその隣の森で灯りの杖を取り出し左の手のひらに魔導回路を描く。


爆炎の指バーニングフィンガー


 魔導回路に精神を流すと左手の指から五本の炎が立ち上がった。


 爆炎の指バーニングフィンガーは魔法の中では珍しい直接攻撃が必要な魔法だ。直接攻撃が必要な分、威力は大きい。

 僕は意を決して、五本の炎が立ち上がる手で自分の顔面を掴んだ。


「ウガッ!」


 ジュウジュウと顔の焼ける音が僕の耳に届き、痛みが走る。

 あまりの痛みに意識を失いそうになる。だが、意識を失うわけにはいかない。まだやることがある。


 ここからだ。


 今日ここから、これより始まるのだ。

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