友との別れ
セルダンが迷宮の奥へ進んでいる内にその場から離れ帝都に戻る。カルミアやセルダンの事を考えると秘密裏に帝都を離れる方がいい。しかし、金銭もないし貴族院の服のままではどこへ行っても怪しまれる。それらの物を調達するためにも一旦帝都へ戻る必要がある。
帝都の正門の近くに非常用の門がある。夜間に迷宮へ探索に出向く者の為に開けられていた。
非常用の門には帝都の兵士が門番に立っており、今日はニコラとトーマスと言う兵士が当番の様だ。迷宮に出入りする為、どちらとも顔見知りだ。
「ん?アイザックか。どうした?ダンジョン探索は終了か?一緒に出ていったマルクスは?」
しまった、うっかりしていた。当然のことだがその出入りについては確認されている。
さて、どう答えようか……。
「んん?何だ?喧嘩か?……はぁ、しょうがないな。トーマスさん、アイザック帰還でよろしく。」
答えに困っていると門番のニコラは勝手に解釈した様だ。二コラの言葉を聞いてトーマスは帰還者の所に印を入れている。
僕は急いで帝都に入った。第四寮に戻り急いで必要な物を持ち出さなくてはならない。
(確かいくらかの金銭は置いている。あと当面必要な物は予備の武器、服も平民の服を買う必要があるが店が開くのは朝だから無理か……。とりあえず貴族院の制服は普段着に変えてローブを羽織るか。)
第四寮へ戻るとすべての部屋の明かりは消えていた。みんな寝ている様だ。
(個室だから同室の者に気付かれる恐れが無いのは助かったな。)
部屋に戻り必要な荷物をまとめる。服は貴族院の制服は置いておく、次にこの寮に入る者が使えば良い。教科書も同じだ。
この事は手紙に残しておこう。あと、手紙は読んだあと燃やすように書き机の上に置いておく。
(これでよし。後は朝まで何処かで暇をつぶすか。)
寮を出ようとホールに移動すると二人が僕に声をかけてきた。
アーサーとロバートがホールで待っていた。
「アイザック。そんなに荷物を持って何処へ行く?」
「アーサー……それにロバートも」
「そうだな、アーサーの言う通りだ。それにマルクスはどうした?一緒に出ていったのではないのか?」
アーサーもロバートも僕がマルクスと出かけたことを知っているみたいだ。
「なに、たいしたことじゃない。アイザックが部屋にいないので他の連中に聞いたらマルクスもいなかったからな。」
マルクスと僕が一緒に迷宮に行ったことは門番が記録に残している。だが、迷宮で起こった事を彼らに話すべきではない。話せば彼らを僕の事情に巻き込んでしまう。
「……それについては答えることは出来ない。」
「おい、アイザック。答えることは出来ないとはどういうことだ?俺達は貴族院を卒業したら一緒に冒険者稼業をするのではなかったのか?そんなのじゃ……」
「すまない、アーサー。その事も忘れてくれ。」
「どういうことだ?!」
アーサーが僕に詰め寄る。
「……廃嫡されたとは言え僕の家は公爵家だ。その家の問題に君たち平民が関わるべきじゃない。」
そう言って僕はアーサーを冷たく睨みつけた。
貴族に平民呼ばわりすると問題になる上、アーサーやロバートの様な準貴族にしかなれない者にとっては更なる侮辱にしかならない。
現にアーサーの表情は僕がそんなことを言うとは想像もしなかった事を示している。
僕は彼らから軽蔑されるだろう。
だがそれで良いい。
これ以上関わるとマルクスの様に命を落とす可能性が高い。
「平民……そうかよ。どこへでも行っちまえ!」
プイと横を向いてアーサーは視線を外した。
「おい!アーサー!アイザックもどうしたんだ?」
「じゃあな、世話になった。」
僕は荷物を担ぎ第四寮を後にした。




