古の紋章
魔導回路の光が増しその輝きが最高点に達した時、轟音とともに爆炎が噴き出した。
爆炎は不思議なことに魔導回路の上に向かってではなく、オウルベアの方に向かって噴き出したのだ。その高熱と爆風がオウルベアに襲い掛かる。
グギョォォ!
耳を裂くような断末魔と共にオウルベアは消し炭となった。
いったい何が起こったのだろうか?
オウルベアに狙い灯りの杖で閃光を放った。
放たれた閃光は近くにあった爆炎風の魔導回路へ吸い込まれた。その後、光る魔導回路から爆炎が噴き出しオウルベアを倒した。
あの高熱と爆風は魔術師が使う爆炎風の魔法と同じものの様に見えるが、それよりも威力の強い物だ。
爆炎風の威力が大きい中級魔法とは言えオウルベアを一撃で倒すほどの威力は無い。
僕には今、魔物に対してはっきりと判る対抗手段がない。灯の杖を使ったこの方法が対抗手段になる可能性があるなら、すぐに検証する必要がある。
僕は灯りの杖で空中に照明の魔導回路を描き上げる。そして描いた魔導回路へ閃光を放つ。
カツ!
輝きを増した魔導回路は照明の魔法を発動させた。
「そうか、やはり……だがこの方法は時間がかかりすぎる。すこし精神を流しながら描いたらどうなるか?」
今度は灯りの杖に少し気合を入れる感じで照明の魔導回路を描く。照明の魔導回路は簡単な図形の集まりだが線を一本加えるごと輝きが増し音を発する。
ギュウウウウウウ
そして描き終わるのと同時に魔法が発動した。
カツ!
先ほどと変わらない位の光が辺りを照らす。その時、強くなった光に映し出される魔獣の姿が見えた。
グルルルルルル
魔導回路を描く時の音につられたのか、新たな魔獣が近づいてきている様だ。毛むくじゃらでゴブリンのような姿をしているが体が大きく武器を握っている。バグベアだ。
黄色い歯を剝き出しにしてこちらを威嚇している。元々この迷宮に住んでいたのか僕を侵入者と判断している様だ。
その一匹の後ろにも一匹バグベアがいるのが見える。その一匹は黒焦げになったオウルベアを見てこちらを警戒している様だ。
魔法は自らの内側に魔術回路を形成し精神力を流し込むことで発動させる。
僕に魔力は無い。だから、身体の内側には魔術回路を描くことは出来ない。
魔道具の魔導回路は内部容量の代わりにミスリル線を使う事で魔法を発動することが出来る。
けれど僕が灯りの杖の放った閃光は魔導回路を動かした。
仮にミスリル線と同じことが灯りの杖で出来るとしたならば?
幼いころ図書館で見た絵本には魔導士は光り輝く紋章を空中に作り出していた。
その時、僕の頭の中でバラバラになったピースが組み合わさった。
「魔術回路が内側に描けなければ、外に描けばいい!!」
僕は灯りの杖を握り魔術回路を空中に描く。魔導回路に線が一本加わるごとに光が増え先ほどよりも大きな音を発した。その魔導回路が完成した時、その魔導回路が魔法を発動させた。
甲高い音が鳴り響き、輝く稲妻の剣が二体のバグベアを貫通する。
「電光剣」
中級魔法の一つだが範囲が直線状になる為、爆炎風よりも威力は大きい。
二体のバグベアは口から煙を吐いて動かない所を見ると絶命した様だ。
この時描いた魔導回路は紋章回路と言われる物で、おとぎ話の魔導士が使った物と同じものであるという事を僕はまだ知らなかった。
 




