炎の魔導回路
オウルベア
森や洞窟に住み、初級の冒険者が出会ったなら死を覚悟しなくてはならない凶暴な魔獣である。この迷宮でも六階層で出てくる魔物で本来なら出会わない。
猛禽類であるミミズクと同様、オウルベアは生肉、それも生餌を好む。
オウルベアはこちらを見るとダラダラとよだれを垂らす。オウルベアは僕を餌と認識した様だ。
けれど僕は奴の餌になるつもりはない。ここで死ぬわけにはいかなのだ。何としても生き残って父上、母上、そして生まれることが出来なかった者の仇をとらなくてはならない。
だが、オウルベアの速度は早くこのままでは追いつかれそのまま奴の餌食となるだろう。戦うにも僕の手には灯の杖しかない。オウルベアは強力で灯の杖で対抗できるとは思えなかった。
体の内側に魔術回路を描けない僕には魔道具の魔導回路に頼るほかはない。せめてもっと強力な魔導回路の刻まれた魔道具があればなんとかなったかもしれない。
そんな僕の後ろからオウルベアの鋭い爪が襲い掛かる。僕は無理を承知で振り向きざまに灯りの杖に気合を込める。
カッ!
放たれた閃光はオウルベアの眼前で強く光を放つ。
ギャウォウ!
オウルベアは悲鳴を上げすばやく後退した。
灯りの杖が効いた?
どうやら先ほどと違い至近距離で閃光を受けた為、視力を失った様に見える。今の内に距離を開けなくてはならない。
僕は一目散にその場から逃げ出した。
ゴホオオオオオオオオオ!
オウルベアは突然雄叫びを上げ僕を威嚇してきた。
どうやら僕の足音で僕が逃げようとしていることを察知したようだ。オウルベアはミミズクと似た顔をしているだけでなく、ミミズクと同じ様に聴覚が鋭いのだ。
僕は足を止め灯りの杖を構えた。
オウルベアはミミズクの様に顔を回しながら慎重に近づいて来る。足音がしなくなったので位置がよく判らないのだろうか?
時々、顔を上げ空気中の臭いをかぐ仕草をしている。熊でもあるオウルベアは臭いに対しても鋭いのだろうか?
時々、瞬きをしているのが見える。そろそろ閃光での目眩し効果が切れるようだ。
僕はオウルベアを見ながらゆっくりと後退した。ここで焦って走ってはすぐにオウルベアに追いつかれてしまう。
ゆっくり下がる僕の背中にドンという衝撃が伝わった。オウルベアに追われT字路に出たのだ。周りを見るとT字路の壁には出口の方向を示す灯りの杖で描いた魔道回路、先ほど描いた爆炎風が見えた。
僕は爆炎風が描かれている方向の道へゆっくり動く。そして、僕を追いかけてT字路の角から現れたオウルベアに対して灯りの杖を構え気合を込める。再度、閃光を当て逃げる時間を稼ぐのだ。
だが、灯りの杖からは閃光が出ず、代わりに出た光が爆炎風の魔導回路へ吸い込まれた。
爆炎風の魔導回路がけたたましい音を立てる。
ギュオォォォォォォォォォ!!
小さな光点が魔導回路を走る。その光点の数が増えて次第に魔導回路全体が光り輝く様になった。その輝く魔導回路は、まるで母に聞かされた物語の大魔導士の紋章回路のように思えた。




