ダンジョン・エスケープ
「くくくくく。そうだ、その通りだ。お前の父親は傑作だったな。何も知らずに妻の仇を後添いに迎えるのだからな。その上、同じ熱病にかけられるとは……。つくづく間抜けな奴よ。この事を今際の際に話してやった時の表情は傑作だったぞ。」
「!」
父上の”すまない”と言った言葉が心に浮かんだ。
カルミラによって父上、母上は命を奪われたのだ。
「母上だけでなく父上まで!!」
「おっと、それは少し訂正しておこう。お前の母親と父親だけでない。弟もしくは妹もいたかな?」
「?」
「なんだか、知らされていなかったのか。何の為に屋敷の部屋が改装されていたと思う?新しく生まれる子供のためだよ。次の子供は高魔力だと判っていた。そうなると私が入り込む隙は無くなる。部屋の改装は絶好のチャンスだったのだよ。」
「悪魔め!」
「くくくくく、悪魔。大いに結構。公爵にもなれるのだから悪魔にもなろうと言う物だ。さあ、そろそろ終わりにしよう。お前が死ねば私の野望に一歩近づくのだ。」
そう言って何やら詠唱を始めた。これは不味い、魔法を使うつもりだ。
僕は反射的に灯りの杖をカルミアに向け気合を込めた。
カッ!
灯りの杖から閃光が迸る。
「何!」
カルミアの視力は今の閃光で失っている。魔法も単体が目標の物だったらしく撃ってこない。今のうちにここを離れなくてはいけない。
僕は脱兎の如くその場所から逃げ出した。
逃げる僕の背中からカルミアの怒鳴り声が聞こえた。
「逃げても無駄だ!この迷宮には私が召喚した魔物が放たれている。そいつは人の肉を好む魔獣だ。私にこんな事をした罰だ。恐怖に打ち震えながら、苦痛の中で死ぬがいい!」
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僕は慎重かつ足早に迷宮の中を動いていた。うっかり物音を立てると魔物が寄ってくる可能性が高い。もう何箇所も角を曲がった気がする。
僕が逃げ出す時、カルミアは“魔物を召喚した”と言っていた。おそらく間違い無いだろう。
マルクスがカルミアと通じていたなら、僕が迷宮探索で習得した技能を知っている可能性は高い。召喚された魔物は僕の技能を考慮した物だろう。
迷宮の出口が極めて遠く感じる。後いくつ、曲がり角を曲がれば良いのだろうか?
迷宮の角を曲がり、そう考えていた。その時、僕の耳に何かが動く物音が届いた。
“何かが僕に近づいてきている。”
その微かな音とともに獣の生臭い匂いが漂ってきた。目を凝らすと後ろの暗がりに近づいてくる影が見える。
僕はその影に灯りの杖を向け気合を込める。
カッ!
先程よりも気合が小さかったのか閃光は小さい。だが、影を暴くのには十分な光だった。
その光の下に照らし出された魔獣はミミズクの様な顔にクマのような体。そして鋭い嘴と爪を持もっていた。
「……オウルベア。」
それが魔獣の名前だった。
追記:生まれる前の魔力測定について。
外から測定すると母親の魔力が上昇する為、生まれる子供の魔力の量が判ります。




