裏切りの代償
カルミアは漆黒のローブに身を包み、赤黒い紫色の鈍い光を放つ杖を持っていた。
彼女が立つ部屋の床にはいくつかの模様が描かれている。魔道具に刻まれている魔術回路と同じものだが、こんなに大きなものは見た事が無い。いったいどのような効果があるのだろうか?
それにカルミアは何故このような所にいるのだろうか?
僕はカルミアと対峙し睨みつけるがカルミアは余裕の表情だ。すると同行していたマルクスが僕の前、効果が不明な魔術回路が書かれている床の上に立つ。
「マルクスよ、ご苦労であった。」
「はっ、ありがとうございます。」
マルクスは深々とカルミアにお辞儀をした。僕は驚いた表情でマルクスに尋ねた。
「マルクス、単位が足りないと言う話は嘘だったのか……?」
「アイザック、嘘じゃないさ。実際単位は足りない。今までの状況を考えると来期も今期と同じ様に単位不足になる。」
「同じ様?普通に講義を受ければ単位を修得できたと思うが?」
マルクスの言う事は判らない。貴族院の講義は難しい物ではない。中には申し込むだけで単位がもらえる講義もあるぐらいだ。マルクスは僕よりも武術の腕が良いのでその系統の単位が不足することは考えられない。他の講義、魔法系は魔法を普通に使えるので問題ないはず。学術系も単位を落とすような内容ではないし、救済策も用意されている。
「確かに講義を受ければ単位は取れるさ。アイザック、お前は廃嫡されたとはいえ公爵家出身だから判らないだろうが、俺のような子爵家の三男、それも領地を失ったブルトゥス子爵家には貴族院に通わせるほどの余裕はないんだよ。」
貴族院を卒業できないものは貴族として認められない。そうなると平民として扱われ、貴族としての特権はすべて失われ生活は立ち行かなくなる。昔、元貴族の平民は悲惨な最期を遂げると聞いた事がある。貴族としての生活をなかなか改めることが出来ずに罪を犯してしまうらしい。
「すまないな、アイザック。仲間を売りでもしないと三男の俺は貴族院に通う事さえできない……。きちんと彼を連れてきました。約束通り宜しくお願いします。」
「ふふふふふ、そうだな。この度の働きは素晴らしいものだった。よってお前には追加として特別に褒美をやろう。受け取るがよい!」
カルミラはそう言うと、彼女の指先から赤黒い紫色の光が走る。
「恒久たる熱病」
妖しい光がマルクスの立つ模様を貫くと、僕の目の前に立つマルクスはその場にくたくたと倒れた。駆け寄ってみるとマルクスは高熱にうなされ意識が無い。
「この状態は父上や母上と同じ……。」
「ふむ、さすがに気付くか。これは私が得意としている魔法でね。この様に病状を軽く……」
カルミラが手を振ると、マルクスが薄っすら目を開けた。
「そしてこの様にすると……。」
再びカルミラが手を振るう。
「ぐはっ!!」
僕の目の前でマルクスは吐血し絶命した。
「この様に魔法陣、魔導回路の上に立たせれば、わずかな力でその命を握る事が出来る。」
「この方法で父上や母上を……。」
僕はぐっとカルミラを睨みつけた。




