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素材の採集

 ダンジョンの四階層ではオディッタさんの言う通り灯の杖が役に立った。特に十字路に置かれたターンテーブルは探索を行う者にとって頭を悩まさる罠だろう。魔法的効果なのか罠が発動し進んでいる方向が変わっても全く気付けないのだ。

 アーサー曰く、転移扉ゲートと同じ物らしい。

 転移扉ゲートとは扉をくぐると別の場所へ自動的に転移テレポートを行う物だ。その際、出現する方向は出る側の扉の方向である。アーサーによると転移扉ゲートを通る時に魔導回路がある事が感じられるそうだ。自分の魔力に反応するらしい。

 残念ながら魔力を持たない僕には何も感じられなかった。



 僕が15才、貴族院の三年生になる頃には錬金術の講義に必要な素材はほぼ全て集めることが出来るようになっていた。まだ採取していない素材も四階層で採取されるがすぐに必要な物では無いのでまだ採取を行っていない。

 そして迷宮探索の実習課題である五階層にはまだ降りてはいない。


 理由はセルダンだ。どの様な訳があるのか、セルダンはまだ五階層に到達していなかった。すでに何人かは五階層にたどり着き迷宮探索を終えているのだが、セルダンはまだ終えていなのだ。

 ここで僕がセルダンよりも早く五階層に降り立つことは可能だ。その場合、セルダンに因縁をつけられることになる。そうなると寮連中にも手を出してくる可能性が高い。


 それらの事を寮の連中にも相談した結果、四階層のボスを倒したところで五階層に降りず探索を止めている。



 錬金術の授業が進むと素材が足りなくなってくる。熟練の錬金術師と違い、僕らは駆け出しの錬金術師以下の実力しかないのだ。必要十分にあると見込んだ素材は次々無くなり迷宮へ採取に向かう事になる。

 家が十分豊かな連中は迷宮に向かわず帝都の商店から素材を買う。だが、僕達のような第四寮に入寮する連中に金銭的な余裕のある者はいない。

 それに必要が無くなった素材でも焦点に売れば結構な稼ぎになるのだ。特に今は貴族院の三年生が素材を必要としている時期であり、その分買い取り価格も高い。

 したがって、僕たちは毎日の様に迷宮探索と言う名の素材採集に勤しむようになった。この頃になると僕がオディッタさんの代わりが出来る様になっていた為、偶にしか雇うことは無くなっていた。


「よし、ジャイアントバットの牙と被膜は必要以上に集まったな。後は何を採集する?」


 僕は回収した素材の数を確認しながら、アーサーに次の採集目標を訊ねた。


「そうだな。確か今は回復薬や活力薬の原料となる白茸、麻痺薬の原料の黒茶苔が良い値で買い取っていたな。」


「ならそれを採集するか?」


「白茸は二階層の東奥、黒茶苔は三階層の手前か。ロバート、マルクス、体力は十分あるか?フィリップは精神力の残りは十分あるか?」


「俺もマルクスも体力は十分ある。フィリップは今回あまり魔法を使っていないから……」


 ロバートとマルクスはお互いに頷き合う。あまりダメージを受けていなかったらしい。まだまだ余裕がありそうだ。


「問題ない。あと五回は傷病回復キュアウーンズが使える。回復ポーションも余分に持って来ている。」


 フィリップも余裕がある様だ。回復薬の予備も十分あるみたいだから問題は無いだろう。


「よし。じゃあ、二階層東奥からだ。行くぞ。」


「おいおいアーサー。僕には大丈夫か訊ねないのか?」


「何を言っている。大丈夫じゃない奴が次の採集予定を尋ねるはずが無いだろう。」


 そう言ってアーサーは腕を開いて首をすくめて見せ進んで行く。

 確かに彼の言う通り、僕は全く問題無い。灯りの杖によるマーカーも使ってはいないし、前衛で攻撃しているわけではないので体力は減っていない。


「ところでアイザック。例の件は考えてくれたか?」


 アーサーが言う例の件とは卒業後の進路についてだ。アーサーはしばらくこの仲間で冒険者稼業をしないか?と僕を誘っているのだ。


「冒険者か、確かに悪くはないな。」


 家に戻っても何処かへ婿入りするしかないだろう。最悪、老人介護のための婿入りも考えられる。アーサーの提案は僕にとって悪くないのだ。しばらく冒険者稼業で家から離れるのも良いだろう。そう考え僕は二つ返事で了承する。


「そうか!卒業後はよろしくな。」


「進路も決まったことだし、先に進むか。」


 僕達が次の採集予定地へ進もうとすると、マルクスが少し考えたように立ち止まった。


「どうしたマルクス?」


「あ、少し……いや、何でも無い。よし、行くぞ。」


 何かを言いかけたがすぐに言葉を打ち消し率先して前へ進んで行く。


 そんなことがあった数日後、マルクスが夜中に尋ねてきた。


「何だ?マルクス、こんな夜中に……」


「すまないアイザック。少し頼みがあるんだ。今から素材の採集に協力してくれないか?月光茸がどうしても明日の朝までに必要なんだ。」


 月光茸は精神力回復など精神力に関する薬を使う時に使用する茸で夜にしか取れない。しかも採取できる場所は四階層の奥だ。


「判った。なら今からアーサー達を起こして……。」


「いや、二人で大丈夫だ。こんな時の為に“魔物除けの香”がある。」


「おいおい、“魔物除けの香“か、そんな高い物よく手に入ったな。」


 普段はあまり高くない。しかし迷宮に潜る者が多くなるこの時期は価格が急上昇していた。


「こんな時の為に前もって買っていたものの一つだよ。」


「そうか、アーサー達も一緒に行った方が良かったが、起こすのもかわいそうだしまぁ良いか。」


 僕はそう言って気安く採取に出かける事に同意した。


 ……この後待ち受ける事も知らずに。

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