灯の杖
「灯の杖はハズレアイテムと言われるものです。魔石を使わないので魔道具でもありません。極めて稀にしか出ない物なのですが、残念です。」
「極めて稀って……普通はどのような物が?」
ハズレアイテムと聞いて僕はオディッタさんに尋ねた。
「そうね。普段は武器か防具、武器なら剣か槍が多いですね。防具は盾か革鎧。稀に魔道具、火の玉の杖や回復の杖、低レベルの魔法が使えます。極稀に灯の杖です。灯の杖以外戦力強化につながりますが、この灯りの杖は戦闘にあまり関与しないのでハズレアイテムと呼ばれています。」
オディッタさんによると戦闘でも目眩しぐらいにしか使えないそうだ。その上、使うのにも問題があるらしい。
「で、どうやって使うんだ?」
興味を持ったのかロバートが使い方を尋ねた。既に手に持っているところを見ると、使うつもりなのだろう。
「魔道具を使うように杖に少しだけ気合を入れる感じで……。」
「気合を入れる?……フンッ!」
ロバートが杖を持ち迷宮の天井に向ける。そして鼻息荒く気合を入れた。
カッ!
杖の先から閃光が飛び出し辺りを照らす。閃光はそのまま迷宮の天井にぶっつかると霧散してしまった。
「うぎゃ!目が!目が!」
至近距離で閃光を見てしまったロバートは目にダメージを受けた様だ。なるほど、あれなら目つぶしに使える。アーサーがロバートに状態異常回復の魔法を使う。
「気合を入れすぎですよ、ロバートさん。私は気合を入れるのは少しだけと言いましたよね?」
「聞いていたけどどこまで気合を入れることが出来るか?と思って……あ、頭がくらくらする。」
オディッタさんの言葉にロバートは頷きながら釈明するが顔が青い。
「頭がくらくら?多分精神力が極端に減少したせいですね。灯りの杖での閃光は結構精神力を使うのですよ。」
「そうなのか。目つぶしで戦闘を有利に運べるかと思ったが、俺には使えん道具だな。」
ロバートは準男爵で魔力は普通だが、精神力が極めて低い。今後の成長を考えても精神力が低すぎる為、後継者として外されていたのだ。
「で、誰が使う?」
「私は魔法を使う為、灯りの杖にまわす余分な精神力は無いな。」
アーサーは魔法攻撃の要である。灯りの杖の閃光で精神力を使うのならば普通に魔法を使った方が効果的だ。
「僕は回復があるから……」
フィリップはパーティの回復役だ。いざという時の為に常に精神力を余らせておく必要がある。フィリップの精神力が枯渇することがあってはならないのだ。
「前衛である私にも必要はありませんね。」
マルクスは前衛であるので必要ないらしい。という事は、僕が使えるかどうかだ。確かにパーティの中では精神力が最も高い。魔力が無いから魔法は使えないので精神力は常に余った状態だ。灯りの杖を使うのは僕以外考えられないだろう。
「という事は僕以外に使えないみたいだね。」
「ま、そう言う事だな」
ロバートはそう言うと笑いながら僕に向かって杖をトスした。僕は杖を受け取りながらオディッタさんに他の使い方は無いのか尋ねてみる。
「他の使い方と言うより、軽く気合を入れる使い方が普通なのだが……」
「軽くね」
僕が軽く杖に意識を向けると杖の先に明かりが灯る。灯りの杖と言うには少し暗い。だが左右に振るとその光の跡がその場に残る。
「そうそう。その様に灯りを使うのです。それを迷宮の曲がり角で使いどの方角へ曲がったかを記すことが出来ます。」
「なるほど、確かに便利だけど、この迷宮の構造は判っているから灯りの杖は役に立たないのでは?」
「四階層から迷宮内にトラップが出現します。その中にターンテーブルの様な方向を変える物やダークゾーンと言った視覚を遮る物もあります。その場合に灯りの杖は役に立つのです。」
オディッタさんの言う通りなら、灯りの杖は次の階層から使う事になりそうだ。




