迷宮のボスと宝箱
試練の迷宮は名前の通り迷宮に挑む者を鍛える為にある。
その歴史は古く、はるか昔、伝説の魔道士の時代まで遡る。一説によるとこの迷宮を作ったのはその魔道士だと言われている。
迷宮の一階層は初心者用となっていて出てくる敵は必ず一体。敵の種類もコボルト、スケルトン、ジャイアントラットだ。
二階層からは敵が二体以上出てくる。が、敵の種類は変わらない。その為、この階層でも無理をしなければ大怪我をする事さえ少ない。
三階層も敵の種類は変わらない。違いは下の階層へ行く階段の前に扉のついた部屋があり、その部屋の中では特別な敵、階層のボスが出現する。
「試練の迷宮、第三階層のボスはコボルトチーフ。コボルトの強化版だと思えばいい。いつも通り、慌てず対処すればあなた方が負けるような相手ではありません。」
オディッタさんの言う通り、キチンと対処すればコボルト程度なら強化されていても問題にならないだろう。
「……この階層の最後にボスがいると言うことは、次の階層にも?それに四階層ではどんな素材が取れる?」
「おい、アーサー。それよりも、目の前の敵を倒すことが先決じゃないのか?」
僕は先のことを知りたがるアーサーを嗜める。アーサーは四階層で採取できる素材の方に興味が移っていた。次はどんな実験をするつもりだろうか?既に寮内で何度か錬金術の実験を行い、騒ぎを起こしている。その為、アーサーを見るみんなの目は冷たい。
「確かに、次の四階層の最後にもボス部屋があります。それよりもアイザック殿の言われる様にこの階層のボスを倒すことに集中して下さい。そうでないと、怪我をしますよ。」
貴族院の学生が最初に大怪我をするのが、ここのボスだそうだ。コボルトよりも少し強いのだ。外見が似ているのでコボルトと同じ様に対処し怪我をすることが多いと言われた。
「では皆さん、準備はいいですね?」
僕たちはオディッタさんの問いかけに無言でうなずく。それを確認したオディッタさんはボス部屋の扉をゆっくりと開けていった。
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「確かに、少し強いコボルトだった。」
ロバートの言う通り少し強い程度だった。オディッタさんの言う通り、冷静に対処すれば全く問題はなかった。コボルトチーフからの最初の一撃はコボルトよりもかなり強かった為、多少慌てはしたがオディッタさんのフォローがあり大怪我をすることなく戦闘は終了した。
コボルトチーフから素材、魔石や毛皮、爪、牙を手早く回収する。早くしないと、コボルトチーフの死体は迷宮に吸収されてしまうのだ。倒した魔物が吸収される現象は迷宮自体が魔道具になっていると考えられている。
「よし、下の階に降りるか……?コボルトチーフがいた場所に何か出てきたぞ?」
コボルトチーフが消え去ると同時に金属の箱のような物が出現した。
「これは宝箱と言われる物ですね。深い階層、五階層以下の魔物を倒すと稀に出現します。浅い階層ならボスを倒すと出てくると言われていますが、私は初めて見ました。」
オディッタさんでも見たことが無いらしい。俄然僕たちの期待は高まる。
「何が入っているのかな?素材か?」
「切れ味のいい剣か?」
「いやいや、防具でしょう。盾とか?」
「純粋に金貨の類では?」
「魔道具と言う線も捨てがたい……。」
各自口々に好き勝手予想を立てる。
「おい、開けてみようぜ。」
アーサーが宝箱を開けようと近づくが、オディッタさんに止められた。
「待ってください。宝箱には罠があると言われています。それに鍵を開けなければなりません。無理にこじ開けた場合、最悪中の物が壊れることもあり得ます。」
中の物が壊れると聞きアーサーは躊躇する。
「じゃあ、どうやって?」
「お任せください。」
そう言うとオディッタさんは懐から金属製の細い棒の束を取り出した。先がいろいろな方向に曲がっている。中には虫眼鏡になっている物もあるようだ。オディッタさんはその虫眼鏡で宝箱を見ていた。
「見たところ、宝箱に罠はないようです。鍵がかかっていますね。開錠を試みます。」
曲がった金属棒を鍵穴に差し込む。そしてゆっくりと慎重に動かしている。
「それは?」
「これは斥候の七つ道具と言われる物です。様々な鍵を開けるときや罠を解除するときに使います。アイザック殿は器用だから使いこなせるかもしれませんね。……あ、開きました。」
カチャリと音がする。ものの五分もかからず鍵が開いた様だ。
「では、開けますよ……。」
僕たちが固唾をのんで見守る中、宝箱がゆっくりと開けられる。
宝箱の中には三十cmぐらいの細い木の棒が入っていた。
「あぁー、これは灯の杖と言われる物ですね。残念ながらハズレアイテムです。」
 




