貴族院での生活
貴族の子弟が貴族院で学ぶことは大きく分けて三つ、武術、魔術、学術である。この三つの分野から十個、各分野最低一つ履修しなければならない。
僕の場合、魔力が無いため魔術分野の魔法全般(魔法は火魔法や水魔法など系統ごとに分かれている)は履修しても無駄である。その為、魔術分野の魔導回路を履修する。
魔導回路は魔道具に使われている回路のことで、魔法を使う時の魔術回路と構成は同じである。
武術は剣術、格闘術を履修、学術は経済学、数学、生物学、植物学など後々に使えそうな物を履修することにした。同じ寮のアーサーやロバートも似たような履修になっている様だ。
貴族院では学院生は全て平等ということになっている。だが、名目上平等になっているだけで明確な差はある。
ホームルームなどで第一寮に所属する学院生が使う教室は手入れの行き届いたきれいな部屋であり担任教師も熱心に指導する。
対して第四寮に所属する学院生が使う教室はオンボロの旧校舎であり、担任教師も滅多に来ない。
分野別の授業でも同じで、第一寮の者は前列の見やすい位置、第四寮の者は最後列もしくは立ち見である。授業中、授業後の質問に第一寮は答えてもらえるが、第四寮は質問さえ許されない。
曰く、“身分の低い者は教育が行き届いていないので低レベルの質問しか出来ない”と言う理由をつけていた。
だが、質問内容は身分の高いものほど低レベルの質問、それこそ教科書に答えが載っている様な物をしている。(そんな質問をするのは主にセルダンなのだが、)
その様なわけで質問を許されない僕は自主学習を余儀なくされている。
僕は次の授業を受ける為、足早に歩いていた。丁度、校舎と校舎の通路を移動していた時、頭上から大量の水が降ってきて濡れ鼠になる。辺り一面は水浸しだ。
水魔法だ。
今いる場所は屋根付きの通路になっていて上からの水、雨がかかることはないし、天井も低い。この様な狭い場所で水を大量に用意できるのは魔法しかない。
「どうしたぁ?アイザックぅ、びしょ濡れじゃないか?」
ニヤニヤ笑いながら金髪で小太りの奴が近づいてくる。セルダンの周りでは取り巻きらしい侯爵家や伯爵家の子弟がセルダンと同じ様にニヤニヤ笑っている。
「セルダン様、アイザックは水に濡れて寒そうですよ。乾かしてあげたらどうですか?」
「おお、流石はヘリコン伯爵のご子息、慈悲深い良い考えだ。」
セルダンはさも感心したかの様に言い、僕に魔法の杖を向けた。魔法は杖がなくても使用することができるが、杖がある方が制御しやすい。
「いでよ炎!燃えよ!爆炎」
セルダンが構えた杖から火の玉が飛び出し僕に命中する。
「んんんん?一発じゃ足りないか……それ!それ!それ!それ!」
矢継ぎ早に火の玉を連射する。
この間僕はじっと耐えなくてはならない。迂闊に回避したり逃げたりすると後日更に倍になるのだ。
「はぁはぁはぁはぁ……このぐらいでいいだろう。おい、回復してやれ。」
「はっ。セルダン様」
取り巻きの一人が僕に回復魔法を使う。僕の体にできた火傷は見る見るうちに回復する。これは僕を気遣っての事ではない。貴族院内では授業以外の時間、人に向け魔法を使う事は禁じられている。それを誤魔化すための行為だ。
「ふむ、ちゃんと傷は治ったな。」
「おい、出来損ないの魔力無し。ちゃんとセルダン様に感謝するのだ!」
セルダン取り巻き連中は
「ありがとう。」
だがセルダンは人を見下しニヤニヤする。
「感謝の意が足りないな。」
「そうだ!地面に頭をこすりつけて感謝を言うべきだ!」
「土下座だ!土下座!」
「土下座!」「土下座!」「土下座!」「土下座!」「土下座!」「土下座!」「土下座!」
セルダンの取り巻き連中は異口同音に賛同する。僕に逆らう事は許されてはいない。
僕は地面に頭をこすりつける。
「……ありがとう、ございましたっ!」
セルダンは僕の頭を踏みつけ僕にささやく。
「これに懲りたら目立ったことはしない事だな。」
どうやらセルダンはこの間の成績が僕より悪かったのが気に入らないらしい。公爵家なので加点があるのに多少手加減をした僕より成績が悪かった。流石にこれ以上手を抜くと僕の成績が赤点になる為、手を抜くことが出来ないのが問題だ。
「誰だ?騒いでいるのは?」
「ちっ!人が来る、行くぞ!」
セルダンと取り巻き連中は足早に去っていった。流石に人目に付くのは不味いと考えている様だ。
「アイザック、ひどい目に会ったな。」
「マルクスか、助かった。」
同じ第四寮のマルクスの手を借り立ち上がる。どうやら見かねたマルクスが機転を利かしてくれたらしい。




