序章
カタカタとキーボードを叩く音が狭い室内に響く。
俺は宮阪智和。今年で31になる。今の今まで彼女もおらず、おまけにそのまま童貞を30まで守り続けたら魔法使いになれるという噂を信じてしまったが、結果、魔法使いにはなれず、それ以前に就職に失敗、再起する気も起きず、そのまま親の脛をかじりながら生活している。いわゆるニートというやつだ。しかし、そんな俺には、常人では持ち得ない、とある能力を持っている。
そう、不死身であることだ。基本的にどんな攻撃を食らっても無傷とか、しばらく食べ物を食べなくても平気とか、そういう能力なのだが...皮膚は普通の人間と同じように脆い。基本は人間と同じだ。しかし、自分が不死身だと分かってしまったのには理由がある。
俺が不死身になった原因は…寿司だったらしい。
4月、15歳の誕生日を迎えた俺は、家族と一緒に寿司屋で寿司を食っていた。その帰り道、自家用車に乗って家に帰っている途中、正面から居眠り運転のトラックが突っ込んできた。運転席に乗っていた父と、助手席にいた俺は瀕死の重傷を負ったそうだ。家族三人そろって救急搬送され、母は軽傷で済んだが、父はそのまま帰らぬ人となった。
さて、当の俺はというと、常人なら父と同じ運命をたどってもおかしくなかったのだという。そう、常人であったなら…
母から聞いた話によると、そもそも、事故発生直後は衝撃で気を失っていたらしいが、体には何の傷もついていなかったらしく、それこそ最初からそこで寝ていたかのようだったという。救急搬送されたのは一応、ということだったらしいが、DNAの検査をしたところ、これまでに確認されていない塩基配列が見つかったという。解析しようにも解析できなかったという。おそらくその塩基配列が、俺の持つ不死身性を確立しているのだろう。
そんなことが過去にあったせいか、企業からは敬遠され、就職しようにもできず、こうして親の脛をかじるニートになった、というわけだ。
しかし、ここでとある大事件が起きてしまう。
それは、猛烈に暑い夏の日のことだった。