第10話 友達
機動戦艦『紀伊』は全長290メートルあり大和よりも大きい。
基本的に未来から来た乗員は乗ってきた艦で生活することが多いので一般の
軍艦とは少し違う作りとなっているのである。
コンピューター制御の部分も多いので人員は昭和の頃の戦艦ほどいらず搭載する兵器などの数も多い。
乗員は基本は軍属であるので柔道や剣道といった武道をする義務がある。
もちろん下士官やそれ以下が中心ではあるが…
機動戦艦という艦種。
武道を行う場所としては中々広い部屋であった。
「広い部屋ですね」
部屋に入った桜が言った。
「うらやましい限りじゃな」
桜、京子、剣が中に入る。
「ここは紀伊の乗員が体を動かす場所だから…」
凜が言うと京子はふむとうなずきながらスタスタとトレーニング用の器具が置いてある
場所まで歩いていった。
「これはなんじゃ凜?」
京子が指したのは走る速度を調整することが出来るトレーニングマシーンであった。
「それはね…」
凜が説明すると京子はうなずきつつ
「ふむ、我の艦では甲板を走るしかないが雨の日などは便利じゃのう」
中でトレーニングが出来るなら台風があろうとなかろうと鍛錬を行うことが出来る。
「うん、でもそれはあまり兵は使わないわよ?」
「では誰が使うんじゃ?」
京子は首をかしげた。
「食堂とかで働いてる非戦闘員の人よ?」
凜が言うと京子は目を丸くした。
「何?この船には民間人が乗っておるのか?」
「桜も民間人よ一応」
「うーむ、この船は我らの船とはいろいろと違うんじゃなぁ…」
などと言い合う2人を少し離れたところで見ていた剣は口元を緩めた。
「あの2人仲良くなったようね。そうは思いませんか桜殿」
「え?」
突然声をかけられた桜は隣にいる青いリボンをつけた艦魂を見た。
戦艦伊勢の艦魂…
史実では大破したとはいえ終戦まで生き残った航空戦艦という珍しい艦となった
戦艦。
未来からの鑑賞を受けてきっとこの艦魂の未来も変わるのだろうと桜は思った。
同じ運命の日向の艦魂にしてもそうだ。
彼女達はミッドウェー海戦を境に壊滅していく連合艦隊の艦魂。
凜と京子があのように友達のように話すことなど本来はありえない歴史なのだ。
そう思うと桜も不思議な気分になった。
「そうですね。勉強になります」
「勉強?」
「はい、私は紀伊さんに会うまで艦魂いう存在を知りませんでした。
こうしていろいろな方の艦魂を見ていると私達の史実では語られなかった連合艦隊の
艦魂の方々がどのような艦魂であったのかもっとよく知りたいんです」
それは嘘ではない。
桜は艦魂という存在を知る機会を得られたのだから出来るだけいろいろな艦魂と出会い交流を深めたいと思っていた。
この伊勢の艦魂にしてもそうだった。
もっと仲良くなりたい。
「いろいろと癖のある艦魂が多いですががんばってくださいね。私でよければ力になりますよ」
「は、はい!ありがとうございます!」
優しいなぁと桜は思った。
あの柚子という艦魂は少し怖かったが案外連合艦隊の艦魂はこんな性格ばかりなのかもしれないなどと桜は思った。
まあ、実際にその考えでいて後にひどい目にあうののだが…
「おっす!」
剣と桜が話しをしているうちに今日のこの場での主役の1人日向 恭介が入ってくる。
動きやすいトレーニング用の服装だった。
「あれ?まだ来てないのか?」
恭介はきょきょろと部屋を見回していった。
この場所でやることは柚子との決闘である。
艦魂と人間の戦い。
剣と京子は勝てるわけあるまいと思いながらここにいる。
艦魂という存在は女の姿はしているが身体能力では程度の違いはあれ人間を上回っているのである。
ましてや相手は金剛の艦魂柚子である。
伊勢の艦魂剣や比叡の艦魂朱里には譲るものの剣での実力では連合艦隊NO3とされている。
その柚子とこの日向 恭介という男は戦おうというのだ。
なるほど確かに素人ではないと剣の腕ではNO2の剣は分かる。
日ごろの訓練に自信があるのかもしれない。
だが、剣は柚子ほどではないが古参組みの艦魂である。
柚子の実力は知っているだけに柚子が負けるとは考えられなかった。
「やめるなら今のうちですよ。恭介司令」
剣は妹の艦名が日向なので恭介という下の文字で呼んでいる。
彼は「ん?」と剣に顔を向け
「何でやめるんだ?」
「柚子さんは日本連合艦隊の艦魂の中で艦魂単体の中ではNO3の実力者です。
勝てるとは思えません」
「やってみなければわからないさ」
恭介はにやりとして言った。
「自信があるんですか?」
桜が聞くと恭介はさあなと言っただけだった。
それを見ていた京子は隣にいる恭介の実力を知っているであろう凜に聞いてみた。
「のお凜」
「え?何京子?」
すっかり仲良くなった2人であった。
「あの男恭介なんじゃがそんなに強いのか?」
「…」
凜は恭介に顔を向けてから自信に満ちた声で言った。
「強いわよ」
「ほう…」
正直興味はあっても結果は柚子の勝利だろうと思っていた京子は凜の自信に満ちた回答に
ますます恭介という男に興味を持った。
「中々興味深い男じゃ」
京子がそういった時だった。
「待たせたな」
部屋の中に今日のもう1人の主役である金剛の艦魂柚子が3人の艦魂を連れて現れた。
「よう、遅かったな」
恭介が部屋の隅から声をかけると柚子は不機嫌そうに彼を見て
「ふん、約束の5分前だ。お前こそ遅れずに来たようだな」
「まあ、約束だからな」
「ふん、勝負の内容はどうする?甲板からここに変えたのだから剣道か柔道か?私はどちらでも構わんぞ?」
恭介はそうだなぁと言ってから柚子の腰の軍刀に目をやり
「じゃあ、真剣で切りあいだ。もちろん艦魂の剣でな」
艦魂の剣では人を殺せない。
また、艦魂は切られても船が無事なら死なないし怪我もしないのだ。
ただ痛みはあるのである意味訓練には最適のものであった。
「面白い!」
柚子は軍刀を腰から抜くと恭介に向けた。
「約束を忘れるなよ小僧?」
「小僧ってひでぇな」
あくまでも余裕を持つ恭介であった。
桜「ひどいです…」
凛「久しぶりね桜」
桜「一ヶ月更新がありませんでした」
凛「大丈夫よ作者は今頃砲撃で消し飛んでるから」
桜「次はいつ更新するんでしょう?」
凛「あいつ今忙しいからね…」
桜「ご意見・感想お待ちしています」