69話 能天気からのサスペンス
授業を終え放課後になり私はモカちゃんと一緒に生徒会室に向かう。
廊下を歩いていると今朝の女子3人組が正面から歩いてきて、私たちの通り道を塞いだ。
「何なんですか、貴女たち。通行の邪魔です」
モカちゃんが横に広がる3人組に顔をしかめると真ん中に立っていたリーダー女子が腕を組んで私を睨み付けた。
「庶民は気安く話し掛けないでくれるかしら。私はそこの伊集院ハルに用事があるの」
敵意剥き出しでいきなり呼び捨てか!
この人はまず、礼儀から学び直してきた方が良いんじゃないかな?
敵意を向けられながら私はそんなことを考えていた。
我ながら能天気だと思う。
「貴女、目障りなんですのよ。伊集院ハル。西園寺様をたぶらかして婚約するなど…恥を知りなさい!」
リーダー女子が吐き捨てるように告げると両脇の女子生徒が「そうですわ」「身の程を弁えなさい」と同意する。
フルネーム呼ぶの長くないかな
あ、でもハルでいいよって言ったらバカにしてるとか思われちゃう…?
「黙ってないで何とか仰ったらいかが!?伊集院ハル!」
「えっと…フルネームで呼ぶの、長くないですか?」
いちいちフルネームでは呼ぶ方も面倒だろうと思い、そう告げるとリーダー女子は眉をつり上げた。
あ、なんか地雷踏んだっぽい
ヤバいかもとモカちゃんに視線を向けると何故か同情するように肩にポンと手を置かれた。何でだ。
「とにかく、廊下でこんな騒ぎ起こしたら間違いなく西園寺先輩の耳に入るでしょうし問題になれば貴女みたいな御嬢様は家柄に傷が付くんじゃないですか?私は『庶民』ですから平気ですけど」
モカちゃんの言葉に3人組は私たちを遠巻きに眺めている野次馬な生徒達に気が付いたのか、はっと辺りを見回してから「覚えてなさい!伊集院ハル!」と捨て台詞を残して逃げていった。
「ハル、大丈夫?」
声をかけられて私は頷く。
「大丈夫だよ、殴られた訳じゃないし。あの人、最後までフルネームで呼んでたねぇ……面倒じゃないのかな?それともフルネームで呼ばないと忘れちゃうとか?」
どっちだと思う?とモカちゃんに尋ねればむにっと頬を摘ままれる。
「……いひゃい」
「あんたって子は……もっと危機感持ちなさいよ」
「ふぁい…」
「全く…」
指を離され摘ままれた頬を擦りながら内心で少しは回りに気を付けようと思い直した。
生徒会室に入れば虎太郎くんとミケくんが待っていた。
ソファーに座ると虎太郎くんが私たちの紅茶をいれてくれる。
生徒会の仕事前に少しだけ紅茶を飲みながらなんて事ない雑談をしていると、不意に生徒会室のドアがノックされた。
虎太郎くんが返事をするも、誰かがドアを開ける気配はしない。
「誰かな?」
ドアの近くに座っていた私は立ち上がりドアを開ける。
しかしそこには誰もいない。
聞き間違い?
私だけでなく生徒会室にいた全員がドアの外を見て不思議そうな顔をしている。
ドアを閉めようとして、私は床に落ちているものに気がついた。何か赤いものがついている。
何だろう、と一瞬手を伸ばしかけてそれを認識した私は恐怖を感じ後ずさる。
「ハル?」
虎太郎くんが私の様子に気がついて駆け寄ってくるのが分かり、私はすがるように虎太郎くんの腕にしがみつく。
「どうした?何が…っ」
私が拾おうとしたそれを見て虎太郎くんがぎゅっと私を抱き締めた。それを視界に入れないように。
「なによ、これ……」
「…悪戯にしては度が過ぎてる、悪質すぎ」
それを見たモカちゃんとミケくんも不快感を露にする。
床に落ちていたそれは、私の写真。
盗撮されたと思われる写真には血のように赤黒い液体がべったりと塗られていた。




